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放て
「『ファイアボール』!」
一はあくまで牽制のつもりだった。
蘭堂に口では色々言ったものの、もしこの影が操られている蘭堂妹なら対処を考えなければならない。
あるいは"そう"ではないという確信が欲しくて、掠めるつもりで、放った火球はーー
「ーー」
掠めることもなく、避けられたかと思うと、次の瞬間に影は一の目の前に迫っていた。
「っーー!」
(流石に早い……!)
振り抜かれるナイフを、一をのけぞる事でかろうじて躱わす。
そして、カウンター的に左手を突き出した。
「『ファイア』ーー」
放つ直前で、一は硬直した。
このまま、放てば、直撃させて顔から吹き飛ばしかねない。
もし、この影が本物だったならーー?
「ーー!」
その隙を影は逃さなかった。
返す刀ーーナイフが一を切り裂いた。
「がっ……!」
一は倒れると左手の火球は空へと暴発した。
「兄さん!?」
心配する蘭堂の声をよそに、一はすぐに起き上がった。
「大丈夫だ、これくらい」
『18のダメージ!』
致命傷には程遠い……もっとも、普通の人間なら致命傷だったのだが。