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無数の可能性
『シーフ』という職業は、その器用さ故に、
よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏だと称される。
まずは器用さを生かして、サポートに徹し、
直接は戦闘を行わない完全支援型。
そこに飛び道具を活用して、援護も行う遠距離支援型。
飛び道具ではなく、取回しのきくナイフなどで役割をこなす、
近距離支援型。
さらに前に出て、素早さを活用し、敵のヘイトを引き付ける、
回避タンク型。
単発の攻撃の貧弱さを手数とスピードで補うことで、
アタッカーの役割をこなす、スピードアタッカー型。
つまり、一言に『シーフ』と言っても千差万別だ。
もっとも、一部、競技などで行われる場合を除いて、
人類同士が激突することはない。
選手でもない限り、敵の型で迷うということはない。
……本来ならば。
「……」
(しかし、こんなことになるなら、彼女の話くらい詳しく聞いておけばよかった)
今、このタイミングで聞く、というのは余り宜しくない。
蘭堂は一のほとんど無茶振りな要望である、怪物を抑えることに必死だ。
他のことに意識を割くのは、命の危険に繋がりかねない。