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人道と適切な判断
「っ……」
一は、迷っていた。
確かに蘭堂の言うようにここいらが潮時だろう。
そして、蘭堂はいっそここで死ぬことを決めた。
つまり、これは自殺を仄めかしているようなものだ。
一が撤退することは間違いではない。誰にも責められる謂れはない。
それでも、今目の前で死のうとしている人間を止めないのは人の道から外れている気がしてならない。
もちろん、それは最初の一の意見とは違っていた。
しかし、それはあくまでも、事情を知らないあの時の話だ。
妹を探すという蘭堂に、一瞬でも自身と重ねてしまったことで、一は揺らいでしまった。
(……何も、方法がないのか?何か……何か、ないのか?)
と、その時間の悪いことにモンスターが飛び出してきた。
『吸血コウモリが現れた!』
「あっ」
「ちっ……『ファイアボール』!」
一は脊髄反射で攻撃していた。
飛行する相手に物理攻撃を加えるより、飛び道具が有効だろうと咄嗟に出たのだ。
初歩の魔法とは言え、なまじステータスが高い分一撃だった。
吸血コウモリは火だるまになって墜落した。
「……!」