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自由意思
「……だとしても、自分は妹を見つけるまで、ダンジョンを離れるつもりはない、です。
もちろん、兄さんを縛りつける権利はありません」
つまりは、一が撤退したとしても、妹を探し続けるということか。
「……早く見つけましょう。なら、そんなこと考えずに済みます」
「……すみません」
見落としがないように辺りを注視しながら森の中を進んだ。
本当に正しい道なのかも分からない闇雲な捜索。
頼りに出来るのは、蘭堂の曖昧な記憶と勘だけだ。
当然、そんなくじ引きのようなやり方で見つかるほど、
ダンジョンは、世の中は甘くなかった。
蘭堂の時計はいつしか6時を指していた。
日は落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。
「はぁ……」
蘭堂はがっくりと上半身を傾け、膝に両手をついた。
「す……まない、兄さん。これ以上付き合わせる訳にはいかない。
あとは自分一人で探し、ます……」
それはどちらかと言うと諦めだった。
蘭堂には妹を置いて帰るという選択肢はなかった。
それならいっそ、"最後まで"探したという結果が欲しかった。
蘭堂は限界まで探して見つからなければ、この『ミダスの森』で死ぬつもりだったのだ。