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森の中で
そこには何もなかった。
ただの森の中、道中という感じだった。
「本当にここなんですか?」
目印になりそうなものもないように思えたが……
「ここで戦闘になったんだ。ほら……」
蘭堂が指差した場所を見ると、弓矢が刺さっていた。
「自分が放った……外した矢だ。
ほら、これと同じだろう?」
と、蘭堂は矢筒を見せる。
確かに同じ種類のものに見えた。
それが目印だったのかと、一は思い直した。
「なるほど。では、どうしてはぐれたんですか?戦闘中ですよね?」
「アレは……強敵だった。
到底自分達に手に負えない相手で、乱戦の中散り散りに逃げたんだ」
「つまり、別方向に?」
「そうなる」
「と、なると今来た方向は除外して良さそうですね」
「可能性ゼロとは言わないけど、薄いだろうね」
「しかし、それはそうとダンジョンのレベルはわかってますよね?
そんな手に負えない相手がいるダンジョンによく来ましたね」
一はそう言いながら、どの口が言うのかと内心自嘲した。
人それぞれ理由があるのだ。
それは身をもって知っている。
だからこそ、言うべきことは厚顔無恥になろうと言うべきだと考えた。