プロローグ:繋がる世界
シミュレーション仮説、というものがある。
簡単に言えば、この世界――我々が現実世界としている世界も、
もしかしたら、何かのシミュレーション……例えば、ゲームか何かかも知れないという仮説だ。
トンデモ理論だと思いがちだが、この説を否定するのは難しい。
”そうでない”ことを証明するのは、悪魔の証明と言われ、
世界中探して、悪魔がいないことを証明するのと同じ、大変困難なのだ。
逆に、”そうだ”という証明は実際に悪魔がいるとするなら、悪魔を連れてくればいい、
否定と比べれば簡単だ。
そういう意味では、もしかすれば、この世界はシミュレーションだと証明されてしまったのかも知れない。
ただ、その世界を生きる彼らにとっては確かな現実だった――
――仮に神がこの世界のクリエイターだったしたなら、飽きたのではないだろうか?
だから、テコ入れとして、トンデモ要素をぶち込んできた。
――ダンジョンゲートの発生。
突如と現れたそれは、新たな世界を開いた、開いてしまった。
中に、それまで地球に存在しない生物――所謂モンスターと、物質を内包するダンジョンの発生。
そして、それと同時に発生した自身の能力を、ゲームのステータスのように認知、
さらにレベルを上げることで、
その能力を上げることのできる『世界と繋がった者』『認知者』『覚醒者』――
名称は様々だが、それらの発現により、それまでの世界の常識は確かに崩壊した。
ダンジョン内にある未知の物質により、それまでの医療・科学を初めとした様々な分野に革命が起きた。
発生したモンスターがダンジョン外に出ることによって引き起こされた、事件、事故による混乱。
そのモンスターに対しては、
『世界と繋がった者』以外の攻撃は、どんな強力な兵器であっても有効ではなかった。
それにより生じた、『世界と繋がった者』とそれ以外の者との地位格差。
さらに『世界と繋がった者』はレベルが上がることで、
それまでの人間の能力の限界をあっさりと超えてしまった。
武力と権威をもった『世界と繋がった者』はそれまで権力を持っていた人間にとっては好ましくなかったが、彼らに懸命な人間は逆らえるはずもない。
細かな小競り合いこそあったものの、ほぼ自然と既存の権力は失墜し、
『世界と繋がった者』によって統治させる新たな世界が始まっていたのだ――