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高次元世界で生きていく  作者: エポレジ
第1章 入学前
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1話 炭と化した家

※この物語で登場する次元の概念はフィクションです。

 8歳の時、両親は俺を置いて外出したきり帰ってこなくなった。

 それから俺は小学校を不登校になり、金庫に蓄えてあった親の貯蓄で自堕落に生きてきた。


 そんな15歳のある日。


『続いてのニュースです。本日の激しい落雷のために一つの民家が炭と化しました』


 外出している間に俺の家が雷に焼かれて炭になった。


「金庫……! せめて金庫だけでも無事でいてくれ……!」


 俺はボロボロの焼け跡を必死に漁り、全ての財産を貯め込んでいた金庫を探した。


「あ……あった!!!」


俺は丸焦げの金庫をギュッと抱きしめブンブン振り回す。


 ……テロン


「あれ、金庫なのに開け口が勝手にめくれたぞ」


 焦げただれた金庫の中身は……炭!!


「…………終わった」


 住処も財産も、今日1日で全部消えた。

 からっきしの一文無し。親もいなけりゃ親戚や友達にも当てがない。


「ふふ…………はははは!! 俺のクソ人生、完!」


 手を広げて倒れ込み、冬の冷たい地面を抱くように意識を手放した。



 ◇◇◇



 起きたら全部夢でしたとか、淡い期待を胸に目を覚ましてみた。


 けれど残念ながら俺がいたのは『里親募集中♪』の張り紙をした、児童養護施設とは名ばかりの児童販売所だった。


 なんと俺は商品になっていたのだ。


 同じ部屋には里親を待つ仲間がいて、それはみんな俺よりも年下のガキたち。


「は~い! みなさん、ごはんの時間ですよ~♡」


「「いえ~い!」」


 俺たちのお世話さん(巨乳)がごはんを知らせると、ガキ達が元気に返事をする。


 しかしよくよく考えてみると一人でカップ麺をすすってた生活に対して、ここではお世話さん(巨乳)がごはんも家事もしてくれる。一緒に遊ぶ仲間たちもいる。……ん? 冷静に考えてみると前よりも幸せなのでは。


「ほら、糸くんもおいで~♡」


「いえ~い!」


 俺【九重(ここのえ) (いと)】は人としてなにか大事なものを手放し、気がつけば心がガキになっていた。




 バチュンッ!!


「いよっしゃあ!! また俺の勝ちぃ!」


「うわああああああん!!!」


「もう! ちょっとは手加減してよ!!」


「はっはっは!! 手加減? そんなのするかよ。悔しけりゃ実力で勝ってみろ!」


 ここには俺よりも年下のガキしかいないから、圧倒的な体格差を持つ俺はドッジボールで無双できた。


 ただし一人だけ、邪魔者がいる。


「助けて軍曹! 糸がまた調子に乗ってる!」


「また~? しょうがないな」


 影で座っていた黒髪短髪の少女が立ちあがる。


「げ……フィアス……」


「ふふ、糸も懲りないね」


 彼女は【フィアス】。

 俺と同じ15歳で、唯一俺よりもドッジボールが強い。その圧倒的な強さから軍曹と呼ばれている。


 バチュンッ!!


「ぎゃあああああ!!」


「さすが軍曹!!」


「ざまあ見たか、糸め!!」


「ちくしょーめ!!!」


 ピンポンパンポーン


 遊んでいると、放送が流れた。


金玉(こんぎょく)くん。金玉くん。里親が見つかったよ~! 玄関まで来てくださ~い!』


「金玉くんが!?」


「おめでとう!! おめでとう!!」


 10歳の金玉くんが卒業のようだ。

 みんな拍手で見送る。泣いてる子もいた。


「みんなありがとうだぜい! またいつか会おうぜい!」


 金玉くんは二本指を突き出し、クールに去っていった。

 こんな感じで一人、また一人とお金持ちに売られていく。そして新しい子も来る。こうしてこの児童販売所は回っている。



 ◇◇◇



 ヒュオオオ……ガタッ……


 夜はみんなでお布団を敷き、何十人もが同じ部屋で寝る。こんな寒い季節でも暖房はつけない。そのくせ窓はボロボロでガタガタうるさく、冷たい隙間風が吹き抜ける。


(寝れん……)


 チープな寝床のために眠れない日も多かった。そんなときは上着を羽織り、星空でも眺めに外へ出る。


「お、オリオン座だ。他のは全然知らないけど、オリオン座だけはすぐ分かるぜ」


「オリオン座? どれどれ!」


 声のする方を見ると、ジャンパーを羽織ったフィアス軍曹がいた。


「軍曹!? 男のムーディータイムになぜいる!」


「糸のくせに、何が男のムーディータイムだ。ねえねえ、どれがオリオン座?」


「あれだよ、あの砂時計みたいなやつ」


「あれか~。 確かにはっきりしてるね、とっても綺麗」


「フィアスはやっぱり、なんにも覚えてないのか?」


「うん。気が付いたら森の中に倒れていて、ここに連れてこられたの。なんとなく自分の名前を憶えてただけで、昔の記憶とかは何もないんだ」


 オリオン座を眺めるフィアス軍曹の切ない表情は、記憶喪失の不安を物語っていた。


「でもね、一つだけ心に残っている使命があるの。私はこの世界じゃない、ずっと遠くにある異世界から来て、その世界を救うためにここにいる」


「……は?」


「ちょっと、ドン引かないでよ。はっきりとは覚えてないけど本当だよ? 私は異世界を救わなくちゃいけないんだ」


「やれやれ、フィアス軍曹は電波系だったのか。ま、今日もせいぜい愉快な夢見ろよ、おやすみ」


「ひど~い! ねえねえ、もし本当だったら糸も異世界を救うの手伝ってよ。どうせ暇なんでしょ?」


「はいはい。布団へ戻ろう」


「は~い」


 全く、何を言ってるんだ。異世界なんてあるわけないじゃないか。



 ◇◇◇



 その後、可愛くて優しくて運動もできるフィアス軍曹は、あっという間に里親が見つかった。

一方で俺はなかなか里親が見つからず、伸び伸びとドッジボールで無双していた。


 そして1カ月後。とある金持ちが児童を買いに来た。


「いらっしゃいませ♡  本日はどのような児童をお求めですか?」


「15歳の児童をいるだけください」


「毎度ありがとうございます~♡」


「お父様、私に友達など必要ありませんわ。そのような心配は無用です」


「だめだ。もし学校で友達ができなかったらどうする。それも全寮制だぞ? ちゃんと友達を確保してから行く必要がある」


 ピンポンパンポーン


『糸くん、里親が見つかったよ~! 玄関まで来てくださ~い!』


 フッ、遂に呼ばれたか。


「あっ、糸が卒業だー!」


「元気でねー!!」


「またいつか会えたらドッジボールしようねっ!」


 ガキ達が別れの挨拶をしてくれた。

短い間とはいえ朝も夜もずっと一緒にいた仲間との別れだ。こみあげてくるものがある。


「なんだ、15歳は一人しかいないのか。まあいい、車に乗りたまえ」


 玄関に待ち構えていたのはエリートそうなおじさま。

 車も黒塗りの高級車だ。運転席には執事のおじいさんがいる。


 そして、後部座席には黒色長髪の少女が座っていた。


「急ですまないが、君にはこの春から『学校』に通ってもらう。そこにいる娘の雪夜も通う予定なんだ。仲良くしてやってくれ」


「……【松蔭(まつかげ) 雪夜(ゆきよ)】ですわ」


 その少女は俺を冷たい目で見つめた。


「よ、よろしくお願いします」


 こうして、俺と輝かしい第二の人生が始まる……はずだった。


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