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後日談1ー1:【アルヴィナ視点】



「ここがホメロス公爵家所有のウイスキー工場……本当に広いですね……!」


「子どもの頃はよく、中に入り込んで遊んで叱られたものです」


「入ってみたくなる気持ちはわかります。本当……すごいです……」



 秋。ホメロス公爵家の領地にご招待いただいた私は、せっかくだからとイーリアス様に、ウイスキー工場に連れてきてもらっている。


 連れてきていただいた工場の敷地の広さ、レンガ造りの建物の多さ・大きさは、私の語彙力が即死するほど壮観だった。

 一体どれだけの敷地面積があるのだろう。



「この地はとても良い水に恵まれていて、二百年ほど前からウイスキーづくりが始まりました。

 ウイスキーづくりには、味が良いだけでなく、酵母の生育に好ましい適度なミネラル分がバランス良く含まれた水が求められるのです」



 イーリアス様が聴き心地のいい声でガイドをしてくださるので、それだけで結構楽しくなる。



「こんなに建物が多いのは、それだけ工程が多いということでしょうか?」


「はい。

 たとえば、あちらの乾燥棟ですが……大麦のでんぷんは、糖化した後酵母によってアルコールに変えるのですが、その糖化のために発芽した麦を乾燥させるための建物です」



 イーリアス様にひとつひとつの建物を案内していただきながら、工程の説明を聞いていった。


 公爵家の事業に私が関わることはまずないだろうけど、実際にお酒が作られていくところを見学するのはとても楽しい。



「……こちらで麦芽を粉砕し、温水と混ぜます。ここで酵素が働き、でんぷんを糖分に変えるのです。これをろ過して麦汁をつくります」


「この麦汁に酵母を加えると、酵母は麦汁中の糖分を分解してアルコールを生み出し、ウイスキー特有の香味成分をつくります。

 この状態のものをもろみと呼ぶのですが……」


「ここから蒸留をいたします。

 我々の工場では石炭を用います」


「そして原酒を樽にいれ、熟成をさせるのです」



 工場のあちこちを見せていただいて、ただただ感心し続ける私。

 原酒を詰めた樽を見つめてため息を洩らし、そして呟く。



「私が完成品も飲めたらもっと良かったのですけど……」



 ホメロス公爵家での失態を思い返す。

 あまりアルコールの飲めない私は、イーリアス様が飲もうとした1杯を飲んだだけでカーッとなって、ほぼ泥酔してしまった。

 度数の高いお酒は、残念ながら避けた方が良さそうだ。



「炭酸水とレモンで割ったものをご用意いたしましょうか?」


「良いのですか?」


「ほか、オレンジなどの果汁やシロップと合わせたカクテルなどもできますが。

 あるいは紅茶など……」


「ウイスキーってそんなにいろいろな飲み方ができるのですね。

 うーん……それでは、酔わない程度に少しいただけると嬉しいです」




 ────工場敷地内にある小さなカフェで、私は、ウイスキーをいろいろな割り方をしたものを一口ずついただいた。



「どれもすごく美味しいです……私がもう少し飲めれば良いのですけど」


「こちらでは料理の隠し味にもよくウイスキーを使っていますので、よろしければ今日の晩餐の時にもお話しさせていただきます」


「そうなんですね!

 それは楽しみにしています!」


「それと……最近新たに作り始めた商品があるのです」



 イーリアス様のその言葉にあわせて、カフェにいた給仕の女性が何やらお皿におしゃれに盛り付けたものを運んできた。



「こちらは……?

 お菓子ですか?」


「ええ。ウイスキーを使った菓子を作っております。

 今回はボンボンという菓子と、パウンドケーキをご用意いたしました。

 少量にしておりますので、よろしければお召し上がりください」


「は、はいっ」



 ラム酒やブランデーを使ったお菓子はわかるけれど、ウイスキーを使ったお菓子?

 味の想像がつかない。


 皿の上の、色とりどりのころんと丸い砂糖菓子に指を伸ばし、ひとつを恐々口にいれてみる。



「! ……美味しい!!」



 甘い殻が、口の中でとろけてウイスキー入りの液が流れ出す。

 甘さの中に広がる香りと果汁の味、そしてアルコールの刺激がくせになりそう。これは美味しい。



「お口に合ったなら良かったです。ケーキも召し上がってみてください」

「は、はいっ」



 お皿に載っていたケーキは2切れあった。


 ひとつはシンプルなパウンドケーキ。口にいれた瞬間染み込ませたシロップの甘味とウイスキーの香りが広がり、しっとりしたケーキ生地も口の中で柔らかくほどけていく。

 もうひとつはドライフルーツとナッツがぎっしり入ったケーキ。濃厚なコクと香りが、具の味と合わさって何とも言えないハーモニーを奏でる。



「ケーキもどちらもとても美味しいです!

 大人の味ですね」



 美味しすぎて、2切れあっという間に完食。

 少し酔ってしまったので、添えられたハーブティーをゆっくりと飲む。



「王都のカフェやレストランなどに卸しております。男女問わず人気だとか」


「美味しいですもの、それは人気が出ると思います。

 それにしてもウイスキーって、お菓子にも料理にも使えるんですね」


「はい。気に入っていただけたなら良いのですが。チョコレートを使った商品もあります」


「あ、そうなのですね。確かに合いそうです」



 チョコレートは私がベネディクト王国に来てから初めて口にしたもののひとつだ。

 主にカフェなどで甘い飲み物として広く愛されていて、最近では固形化したチョコレートやチョコレートケーキも人気なのだとか。

 確かに苦味や香りがウイスキーとすごく合いそう。



「あの! 以前お話ししたように、先日お友達と一緒に、修道院の慈善活動のお手伝いをした際に、生まれて初めて焼き菓子づくりを習ったのです。

 まだ練習中ですが……イーリアス様に食べていただけるぐらいのものが作れるようになったら、ウイスキーを使ったお菓子にも挑戦してみたいです」


「それは楽しみにしております」


「ええ、ぜひ。それから……」



 不意に、脳裏に兄の顔が浮かんだ。

 お酒は好きだったはずだけど、さすがに療養中にお酒は禁物だろうか。

 それとも砂糖菓子ぐらいなら贈っても迷惑にならないだろうか。チョコレートとか贈ったらびっくりしてしまうだろうか。

 ウィルヘルミナに相談してみようか。



「あの! できればお土産に買って帰りたいのですが」


「かまいませんが……土産は祖父の方で、全商品を一通り用意するとのことでしたので買わずとも良いかと」


「え! それは気前が良すぎませんか??」



 宰相閣下の大盤振る舞いに私はびっくりしてしまった。



   ◇ ◇ ◇


ご無沙汰しております。

おくればせながら、後日談書き始めました。

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