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65、王女は王妃と対面する

   ◇ ◇ ◇



「控え室に押し掛けてきたと?

 大変申し訳ございません、警護の不備です」



 眉を寄せるイーリアス様に、私は「いいえ」と返した。



「母はじめ、警護しなければならない要人が集まっていらっしゃる場ですから、逆に穴がつくりやすかったのかもしれません。

(うん……というか、確実に母の手引きよね……)

 ここからはイーリアス様から離れないようにいたします」



 不備だなんて決していえない。

 母クラスの魔法の使い手でしかも国外要人の賓客が手引きをしたら、厳重な警護もすり抜けてしまう。



「しかし、なぜ……彼女が」


「トリニアスの王家のいまの内情について王太子殿下から軽くうかがっております。

 イーリアス様もご存じでしたか」


「…………はい」



 それならなおさら、やっぱり、あの手紙を受け取ったその場でイーリアス様に報告し、相談しておくべきだった。

 言いづらいと思ってしまった私の判断ミスだ。



「おそらく、サブリナさんは母とつながっています」


「!?」


「たぶん、私を動揺させるためにあの人を使っているのだと思います。

 この後にきっと、何か仕掛けてきます」



 それにしても妹の命が危ないというのが解せない。

 妹たちは、私と違って、いずれも母の……王妃の庇護下にあった。


 確かに、ダンテス兄様ほど溺愛されていたわけじゃないし、母は結局自分が一番かわいい人だから、何かで機嫌を損ねてしまった、というのはありうるけれど。



(妹たちの方から王妃陛下に逆らうということは、きっとないだろうし……)



 何度も深呼吸し、私はイーリアス様の腕をギュッと握った。



「必ずお守りします。必ず」

「…………はい」



 背筋を伸ばし、顔を上げ、王女としての笑みを浮かべて、私は再び披露パーティーの会場へと入っていった。



   ◇ ◇ ◇



(────来た、かしら)



 相変わらず姿を見せない母のことをずっと頭の隅に置いていると、会場の大扉の向こうでざわめきが起きた。


 花嫁の母という立場を無視しても、大幅に遅刻してまで私とは極力会わない。

 そういう態度は今まで通りの母だわ。


 そう考えながら、私が大扉を見つめていると……扉が開いた。



(─────!!??)



 多くの侍女を従えて、母が立っている。

 …………というだけなら予想できたことだ。


 問題は彼女の後ろに、私の元婚約者が控えていたことだった。



(……なっ……何を考えているの!?)



 なんで、私の結婚披露の場に、よりによってこの人を連れてくるの!?



「……殿下、あの男は確か……」

「わ、私の、元婚約者です」



 彼に対してはもう、欠片も感情は残っていない。

 普通に顔を見ただけなら何とも思うことなくすれ違っただろう。


 だけど……結婚披露パーティーの場に姿を現されたら別だ。


 しかも彼は、私の悪評を信じこんで婚約破棄した人。



(まさか、この場で彼に私の悪評を語らせる気……!?)



 いえ、まさか。

 そんなこと本気でしたら、トリニアス王家の名誉もろとも、めちゃくちゃに傷つけ、ベネディクト王国の面子までつぶすようなことだ。

 いくら母が私を憎んでいると言っても……そこまでのことは……。



 悠然と微笑みながら、左右の来客たちを見回し、王妃は会場の中に入ってきた。


 ────濃いめの化粧に彩られながらも、その容姿は、私によく似ている。


 本来なら先に王太子殿下や宰相閣下に挨拶するところだと思うのだけど、王妃陛下は、まっすぐに私の方に向かってきた。


 私の元婚約者……属国の公子を引き連れて。


 彼女にとっては……もう、トリニアス王国の名誉さえどうでも良いのだろうか?



「………………お久しぶりね。改めて結婚おめでとう」


「…………遠くまでご足労くださってのお祝いの言葉、ありがとうございます」



 おめでとう、なんて、この母から初めて言われた。

 もちろんそこに祝福の意図などないのだろう。


 母の後ろについた公子はといえば、私をにらむわけじゃなく、むしろ浮かれたように笑んでいる。

 婚約が決まったばかりの時のように。



(……ウィルヘルミナと、結婚するんじゃないの?)



 彼の存在含めて不穏すぎる。


 イーリアス様が、私をそばまで引き寄せる。

 強く警戒しているのが私の身体まで伝わってきた。


 母は母で、気味が悪いほどに私をジッと見つめていた。


 その目が不意に赤く染まった。



(────〈透視魔法〉!?)



 なぜこんなところで?



「あ、あの、王妃陛下。

 夫を紹介させていただけませんでしょうか」



 さえぎるために私は母に声をかける。

 母は「夫?」と聞き返すと、不意に耳障りな甲高い声で笑いだした。



(な…………なに?)



「まったく……どういう理屈をこねて無効にすれば良いかと頭を悩ませていたのに。

 会ってみたらこんな簡単なことだったとは、わたくしも拍子抜けですわ」


「無効? 王妃陛下、何を」



 会場の視線を十分に集めたのを見計らったように、母は扇子をパチンと鳴らし、私にそれを突き付けた。



「この結婚は成立していませんわ────だってあなた、まだ処女でしょう?」

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