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64、王女は控え室に押しかけられる

   ◇ ◇ ◇



(……すごい……)



 言葉で表現すれば、絢爛豪華にして重厚。

 王宮の大広間を使った、イーリアス様と私の結婚披露パーティーは、ベネディクト王国の本気度を感じさせるものだった。


 高位貴族を中心に、着飾った多くの貴族・貴婦人が出席し、入場した私たちを拍手で出迎えてくださる。



(……私、どれだけ恵まれているのかしら)



 左右を見、王女らしくゆったりと微笑みを浮かべながら、私はイーリアス様とともに歩を進めた。


 母の姿は見えず、また、サブリナさんの姿もない。


 それにホッとしつつも、やっぱり緊張する……。



「皆様。この度は、トリニアス王国第一王女アルヴィナ殿下と、ベネディクト王国海軍少将であり我が孫でもあるイーリアスの結婚披露の場にご臨席くださり、真にありがとうございます」



 まず、最初に皆さんの前で司会をしたのは宰相閣下だった。


 次に王太子殿下が改めて私たちの結婚にお祝いを述べてくださり、そうして、パーティーは始まる。



「……あの、イーリアス様。

 そういえばサブリナさんは」



 タイミングを見て、こっそりとイーリアス様に尋ねる。



「邸に押し掛けてきた一件で、私から夫君に厳重に抗議をいたしました。パーティーへの大尉夫妻の出席は取り止めさせております」


「……だっ……大丈夫でしょうか??」


「ご心配はなさらないでください。

 私もこの日を邪魔されたくはないのです」



 ……出席差し止めまでしているのは予想外だった。


 まぁ確かに、それはありがたい。

 私も、サブリナさんがこの間の調子で話しかけてきたら、さらにイーリアス様とお付き合いしていた頃の話なんてされたら、私はまた粗相をしてしまうかもしれない。


 今日のイーリアス様がどれだけ素敵か彼女に見せられなかったことだけは残念だけど、少しホッとはした。



(他に、トリニアスの間諜に接触された人はいるのかしら。私の悪評を知る人……)



 浮かんだ懸念を、私は振り払った。

 さすがに、王太子殿下が主催し、宰相閣下も同席されているこのパーティーでは下手な動きはしてこないはず。



「…………母は」



 やっぱり母は、まだ会場には来ていない。



「王宮入りはしていらっしゃいます。

 まだ控え室からお出になっていないのでしょう」



 気まぐれなのか、あるいは先にどこかでパーティーの様子をうかがっているのかはわからない。


 そんなことを考えていたら……いつの間にか目の前に、私にご挨拶に来てくださる貴族の皆さんの列ができてしまった。



「王女殿下……とても素敵なドレスですわね」

「宝石もとてもお似合い……素敵ですわ……」

「とっても華やか……!! ホメロス少将閣下と並ぶとまるで1枚の絵画のようで、目の保養になりますわ」


 次々に誉められるウェディングドレス。

(お直しして良かった!)と心底思った。



「王女殿下! 改めましてご結婚おめでとうございます。

 そういえば、王太子殿下にお茶にご招待されたとか。いかがでしたか?」


(……ん、なんで知っているの?)



「西部への食糧支援は殿下のご助言だったとか」


「テイレシア様のパーティーにもご招待されたのでしょう?」


(???)


「ホメロス少将閣下とはお休みごとにお出かけだとか。仲がおよろしいのですね!」


(!!???)



 驚いたのは、皆さんが結構私の行動を把握しているということだ。


 どこで聞いたの、ちょっと怖い……と一瞬思ったけど。

 話しているとどうも、

『王太子殿下にお茶の招待を受けた』

『王族のテイレシア様から招待を受けた』

という点から私を、

『信用のおける方』

と評価しているのらしい。

 貴族の社交技術ということだろう。

 私としても、悪評対策として先にこういう評価が広がるのは助かる。



(ミス・メドゥーサはもしかして、こういう点も計算して、私にテイレシア様のパーティーに行くように言ったのかしら?)



 いずれにせよ、ありがたい……。


 テイレシア様のパーティーでできたばかりのお友達も話しかけてきてくれて(私、今、友達がいるんだわ……)とじんわり喜びを噛み締めた。


 そんなテイレシア様も、お子さんが邸で待っているので早めに退出するとのことだったけれど、旦那様と一緒にご挨拶に来てくださった。

 確かに赤ちゃんは旦那様似だった。



「……少し休まれますか?」



 人が途切れた一瞬、イーリアス様がそう声をかけてくれた。



「いえ、大丈夫です。

 着替える時に少し休めると思いますし」



 さすがに……もうさすがに今日は、お酒は一滴も飲んでいないし。

 イーリアス様のそばから離れずに済むのも、悪意のある言葉がひとつもかけられないのも、精神的にすごく楽だった。



   ◇ ◇ ◇



 たくさんの方と話し、着替えの時間がやってきたので私は控え室に下がる。


 取り出されたのは、完成したばかりのドレス。


 淡い水色からスカイブルーのグラデーションに、咲きこぼれるような花の刺繍がたっぷりと入る。

 ラインも、私の身体に合わせつつも計算しつくされていて、優雅で上品だ。見ているだけで思わず笑みがこぼれる……。



(やっぱり、つくっていただいて良かったわ)



「では、王女殿下、こちらに────」



 女官の方に促され、椅子に座ろうとしたその時。


 バン!!……と品のない音を立てて扉が開かれ、思わず私はそちらを見る。

 蒼白な顔のサブリナさんがそこにいて「殿下!!」と声をあげた。



「どなたですか、勝手に入って良い部屋ではありませんよ」


 そう女官が制止しても、


「殿下! 申し訳ございませんが少しだけ、お話のお時間を!!」


と食い下がる。



「何もお話しすることなどこちらはありませんけど」


「わたくし、本来は今日のパーティーにも出ていたはずなのです!」


「それは……自業自得、かと」


「さるやんごとなき方のサポートのために出なければならなかったのです。なのに、出られなくなってしまって……その方の怒りを買ってしまい……」


「出席者の方については、私といえどいまさら動かせませんけれど」


「こ、この! このお手紙をまた後で読んでいただけませんか」


「それもお断りします」


「!?」


「そちらのペースに巻き込まれたくありませんので。では、時間がありませんので出ていっていただけますか?」


「こ、後悔なさいますよ!!」


「ご勝手におっしゃっていてください」


「い、妹君が亡くなられても良いのですか!?」



(…………??)



 サブリナさんは女官の手に無理矢理手紙を押し付けようとして……かわされ、憤然と控え室を出ていった。



(────どういう、こと?)



 妹たちの顔を1人1人思い浮かべ、私は困惑した。



   ◇ ◇ ◇

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