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33、元帥は濡れ衣を着せられる【軍部視点】

   ◇ ◇ ◇


 ────第1王女アルヴィナの出発から、20日。トリニアス王城。



「元帥閣下。さすがにもうやめましょう」


「なぜだ、なぜこんなに早くっ……!!」


「こんなにも早くアルヴィナ殿下の結婚式を執り行い、それを伝えてくる。これは、ベネディクト王国からの牽制です。

 無理にアルヴィナ殿下のお命を頂戴したとしても、すでに両王家からこちらが疑われているのです。

 それに加えて、もう殿下が王位継承権を失ったとなると……」



 別の重鎮たちもまた、元帥を諭すように話しかける。



「やめたほうが良いでしょう。

 イルネア殿下が拘束されたままろくに取り調べをされていないのは、やはり我々が疑われているからです」


「しばらくは予算獲得に尽力し、2年半前の闘いで失った軍備や人員をそろえなおすべきです」


「用兵も見直すべきだ。

 戦列歩兵主体の戦法から転換し、まずは、より精度の高い銃を輸入して猟兵部隊をつくらねば……」


「同時に、人を育てることも必要です。

 時間をかけて、新しい武器を使いこなせる者、また、戦闘魔法を前線で使える者も増やさねばなりませんな」



「クソ!!」



 元帥は怒りを吐き出した。



「だから、わしは金が必要だとずっと言っておったのだ……!

 それをあの娼婦が……!」


「王女を娼婦呼ばわりするような国だから負けたのではないですか?」



 若い将校の声が挟まる。

 先日インクをぶつけられたばかりの将校だ。



「なんだ、貴様。来て良いとは言っておらんぞ!!」


「商人たちなど簡単に降伏するだろう。

 魔法を使えない国など恐るるに足りず。

 そんな思い込みで実態も確認せずに、気楽に兵を送り込んで死なせてしまったのではないですか。

 アルヴィナ殿下のことを確かめもせず悪評を信じたように」


「……貴様!!」



 インク壺を再び投げる元帥だが、将校は今回はよけた。インク壺は背後の壁で粉々に砕ける。



「────元帥閣下のご長男にも確認させていただきました」



 元帥はぎょっとして目を剥いた。



「内々に握りつぶされたようですが、アルヴィナ殿下と同い年であるご長男は昔、殿下に不埒なことを仕掛け、それが発覚するや否や『王女殿下が誘ったのだ』と言い張り、まだ少年だったこともあって無罪放免となられたようですね」


「貴様、わしの息子を愚弄するか!?」


「自分が被害者だと言いながら、ほとぼりが冷めた頃にまた殿下につきまといを始めておられたとか。

 そんなお方を疑わない理由などございますか?

 殿下の元侍女たちの証言です」


「じ、侍女の言葉など……!」


「ご長男ご本人にも、少しばかり詰めましたら、簡単に白状なさいました。

 悪い大人たちからそそのかされた、王妃陛下はアルヴィナ殿下を嫌っており、いざというときは『王女殿下から誘ってきた』と言えば簡単に逃れられると聞いた、と。

 しかも相手はただ1人嫡出の王女。処女まで奪い、逃げ道を断って結婚まで持ち込めれば、高額の持参金を得られ、さらに将来有利に働くであろうと考えた……と」


「貴様!! そのような大嘘を……!!」


「嘘とおっしゃるなら、この通りのことを本官におっしゃったご長男にお詰め寄りください。

 本官が調査しました限り、昔から男らが己の欲望のためにアルヴィナ殿下につきまとっていたというのが真実だと言わざるを得ません」



 言いたいことを言えたらしい将校は、胸を張って「失礼いたします」と敬礼をして会議室を出ていった。



「……………………!!!!」



 幹部らの前で息子の醜聞を暴露された元帥は、顔を歪める。



「……ま、まぁ、あの者の言うことの是非はともかく」



 1人、幹部が口を挟む。



「アルヴィナ殿下はとてもよくやってくださっていたと私は思います。

 それは、元帥からすればもっと軍備増強を優先しろとおっしゃりたいところかと存じますが、死者や負傷者への補償など、巡りめぐれば軍全体の士気を高めるような政策を……」


「そういえば、打ち捨てられていた兵の遺骨を回収し、納める墓地を作ってくださったこともございましたな……」


「イルネア殿下に一時期でも交替して、どれだけアルヴィナ殿下が良くしてくださっていたか実感いたしました」


「やはり、本来ならば、アルヴィナ殿下こそ我々が仰ぐべき……」



「────貴様ら、いまさら手のひらを返すな!!」



 元帥はテーブルを叩いて一喝する。



「なんだ、すべて、わしが悪いと言うのか!?

 アルヴィナ殿下の暗殺には貴様らも賛同しただろうが!!

 それにもう王位継承権を失ったただの女だ。

 何を言おうが、もう遅い!!

 次期国王はダンテス……」



 再び元帥がテーブルを叩こうとした時、



「た、大変です!!」



慌てた様子の兵が会議室に駆け込んできた。



「…………先日、海路でベネディクト王国に送られたはずの部隊がっ」



 軍幹部らは顔を見合わせた。

 末端の兵は知らないことだが、それはアルヴィナ王女暗殺のために派遣されたはずの者たちだ。

 


「どうしたのだ?」


「なぜかトリニアス王都近郊にて、外出中の国王陛下を襲撃────陛下は重傷を負われました」


「は………………?」



 その報せを一瞬、ぽかんとした顔で聞いた元帥だったが、「陛下のご容態は?」と尋ねる。



「重体ではございませんが、しばらく動けなくなるほどの大怪我と」


「なるほど。適度な大怪我で、早々にダンテス殿下に王位を譲ってくれるならば良いが……それよりもだ。

 なぜ彼らが命令に反して国内にとどまった上に、国王陛下を?」


「わかりません。

 ですが、部隊の者たちは全員捕らえられ────それを命じた者として、元帥閣下のお名前を挙げておるとのことです」


「は………………?」



 再びポカンとした元帥が、その意味を理解する前に、会議室に衛兵が雪崩れ込んできた。



「────元帥閣下!!

 国王陛下暗殺未遂事件の主犯として、第1王子ダンテス殿下の御名の下に拘束させていただきます!!」


「ま、待て!!

 わしが殺そうとしたのは……!!

 ……ダンテス殿下が?」


「申し開きは、取り調べで願います!!

 またイルネア殿下ともども、アルヴィナ殿下の暗殺未遂に関与した疑いもかけられておりますゆえ!!」


「くそっ…………なぜだっ!!

 わしは国のために……!!

 ダンテス殿下ぁっ!!!」



 元帥はわめき散らしながら、衛兵たちに連行されていった。



   ◇ ◇ ◇

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