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16、王女は盗み聞きする


 私は自分のトランクの1つを開ける。

 他のものと違い1つだけ鍵をかけていたこれの中には、たくさん、秘密のものをしまっている。



「……あった」



 私はそこから、精巧な小鳥の模型を取り出した。

 このところ毎日睡眠8時間。

 身体は気力充実、魔力はほぼ最大値だ。


 小鳥の模型の小さな身体に、ポッ……と魔力を送り込んだ。



「……〈見聞きする小鳥アヴィス・ヴィデレ・エト・アウディレ〉」



 ぱたぱたぱたぱた。

 小鳥はかわいく羽ばたいて窓から飛んでいく。



(うん、うまく視覚と聴覚がつながった)



 これは、トリニアス王家の継承魔法の1つ。

 ただし、兄にも妹たちにも使えないけど。

 模型の小鳥の見るもの聴くもの、すべて私の視覚と聴覚に反映される。


 小鳥は、王宮の開いた窓から入り込み、イーリアス様を見つけてその背を追った。



 ────この世界では古くから、魔法によって権力を握った者が国を作ってきた。



 現存国家の半数以上が、魔法を武力として国家を打ち立てた強力な魔法使いを始祖としている。


 ところが魔法は適性が大きく物を言う。


 そもそも、潜在的に魔法を使えるだけの十分な魔力を持つ人間は、国によって差はあれど、およそ1000人に1人といわれている。

 それが、実際に魔法を使いこなせるまでになる人間となると、さらにぐっと少なくなり、ほぼすべてが王族か貴族だ。



 一方、科学が発達してきた中で、ベネディクト王国やその近隣の先進国のように、魔法に頼らず科学によって力を伸ばす国々が出てきた。


 魔法を使えない者も、科学の恩恵なら受けることができる。


 生活は底上げされ、軍事力も飛躍的に拡大させることができ……必然的にそれらの国々では、魔法は衰退することになった。


 …………そんなベネディクト王国を、私の母国トリニアス王国は、王家や貴族でさえろくに魔法も使えない国と馬鹿にしてきたわけだ。

(そして舐めてかかって手痛い敗北を喫した)



 脱線したが、そんなトリニアス王国の王女なので、私はそこそこ魔法を使える。



 ……小鳥は静かに、イーリアス様の後をつけていく。



 異国の王宮で1人、寂しかったというのもあったけど、新居になる邸を見てみたかった。



(…………? 馬車置き場の方には行かないのかしら)



 なぜか彼はどんどん王宮の奥に行く。

 それも、王政関係者以外立入禁止だというスペースに……。



(王宮から退出する前に、誰かに私の到着を報告するのかしら?)



 続けて小鳥を追わせ続ける。

 その大きな背中を見つめながら。



 思えば私、イーリアス様のことをまだほとんど何も知らない。

 お顔の傷をどこで負ったのか。

 今まで女性と付き合ったり結婚を考えたりということはなかったのか。

 趣味も好きなものも何も知らない。


(会って間もないのにぶしつけなことを訊くと嫌がるかもしれない)

 ……そう思って、トリニアス王国を出てからの馬車の中でも、あまりイーリアス様のことを訊かなかった。

 やっぱりもっと訊くべきだった?

 あの夜会の夜のように、ずけずけと。



 イーリアス様はとある部屋の扉を開けた。

 その中は……イーリアス様より大分年上の男性ばかり10名以上が円形の会議テーブルにかけている。


 ベネディクト王国の重臣たち?

 正面中央にいるのは……70歳を過ぎた年頃の男性。

 私も肖像画で顔を知っているホメロス宰相閣下。

 イーリアス様の祖父だ。



(王太子殿下は、いないわね。カサンドラ様もいない)



 イーリアス様が扉の中へ入り、小鳥はドアの手前でとどめる。

 小鳥の聴力を上げ、ドア越しに話を聴く。



「────まずは帰還ご苦労、ホメロス少将」



 誰かわからないけど少し神経質な声の人が、まず、イーリアス様に声をかける。



「しかし当初の目的と大きく食い違う結果となっているのはどういうことか、説明を願いたい」



(……??)



「出発前、決定したのはこうだ。

『ホメロス少将はトリニアス王家の第1王女アルヴィナ殿下がクロノス王太子殿下の妃候補にふさわしいか見極めてくるように』

……と」



(!!??)



「トリニアス王国が敵国であるために妃候補からは長らく外していたが、和平交渉決着のめどがついたこと、またアルヴィナ殿下の婚約者に婚約解消の動きがあったことから、クロノス王太子殿下には内密でそのように宰相閣下より命じられたはずだ。

 それがなぜ、少将自身がアルヴィナ王女殿下と婚約して戻られたのか、説明していただこうか」



(…………そう……だったの?)



 私は本来、クロノス王太子殿下の妃候補だったの?

 いえ、そのまた候補段階だったということ?



(というか……婚約解消の動きなんて当の私さえ知らなかったのに、なんで他の国の人が把握してるのよ!?)



 ……ベネディクトの諜報機関、恐い。


 というか、それじゃ、ある意味うちは墓穴を掘ったんじゃないの?

 ベネディクト王国がうちの国の王女を王妃候補に検討していたなら、素直に和平条約を結んでから、正式に政略結婚の打診をするべきだったのでは?

 姑息なハニートラップなんか仕掛けて、印象悪くしただけなんじゃない?



(でも、ということはイーリアス様はベネディクト王国の意向に沿ったんじゃなく、自分の意思で私に求婚したの?)



「さぁ、宰相閣下の御前で説明をお聞かせ願おうか?」


「では、申し上げます」



 ────どうしよう。なぜかドキドキしてきた。


 でももしここで【求婚した理由:胸が大きかったから】とか言われたら、本気で立ち直れないんですけど。



「アルヴィナ王女殿下という女性を子細に観察させていただき、本官としては、どの国の王妃になられても、あるいは王になられても、問題のない力量をお持ちの女性であると判断いたしました」



 いきなりめちゃくちゃ誉められた。え、そこまで?



「しかし現在アルヴィナ殿下が置かれている執務環境には大きな問題がございました。

 かなりの過労を強いられていたのです。

 可及的速やかに離脱しなければ……この後王太子殿下の妃候補としての吟味に時間をかけてしまったならば、心身ともにお壊しになる可能性が高いと思われました」



(……?)



「いや、待て待て待て、それは」


「よって、本官は王太子殿下の妃候補とするのを断念いたしました。

 その上で殿下が早急に、速やかに、最悪の環境を可能な限り迅速に離れられる最善の手段として求婚を選択した次第です。

 ご説明は以上です。何かご質問がおありの方は?」



 えーと……。

 えーと……。その……。

 つまり、整理すると?



【求婚した理由:私が過労死しそうだから】



 ……本当の本当に、同情だけで求婚したってこと?

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