13、王女は正体を見抜く
◇ ◇ ◇
しばらくして……襲撃者全員確保と周囲の安全が確認されて、ようやく私は車両から降りることができた。
「……御身を危険にさらし、申し訳ございません。それから、先ほどお身体に触れてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます」
「い、いえ! 緊急事態ですから! こちらこそ、不用意に外に出てしまい、本当にすみませんでした」
いまだに心臓はバクバクしている。
恐かった。ものすごく。男性にのしかかられたことも含めて。
だけどあれは……。
(……狙撃されていた間、イーリアス様は私を自分の身体で守ってくれていたんだわ。自分の身体を楯にして)
先に、あの楯の女性が、私に一時的な身体強化魔法をかけてくれていた。
だからむしろ危険だったのは、生身のイーリアス様の方だ。
一歩間違えばイーリアス様が撃ち殺されていた。
私の軽率な行動のせいで。
「……守ってくださって、ありがとうございます。イーリアス様もご無事で、良かったです」
ホームに目をやると、農具を振りかざしてきてカサンドラ様に倒された2人、それからイーリアス様に殴り倒された3人が後ろ手に縛り上げられて転がり、ふてぶてしい顔で私を睨みつけている。
「警備が行き届かず、まことに申し訳ございません。王女殿下、ホメロス将軍」
ライオットと呼ばれた女性が、他の犯人たちを引きずるように連れてきながら、申し訳なさそうに言う。
狙撃犯が持っていたという銃もその場に置かれる。
「いいえ。私がこちらに来るタイミングがなかなか確定しなかったので、人員配置も大変だったかと思います。皆さまが身を呈して守ってくださったこと、心より感謝申し上げます」
私は、イーリアス様に先んじてそう返した。
警備には人員を確保しなければならない。
そして、銃が普及したいまの時代、どこからなら要人を狙えるか?時間をかけて精査しそれらのポイントを押さえる必要がある。
予定がギリギリまで決まらないと警備も計画が立てづらかっただろう。私もまさか、命を狙われると思っていなかったし。
「取り調べはあとだ。おそらくはゼルハン島の戦いでの戦死者遺族か、あるいは彼らに雇われた者が、トリニアスへの恨みを晴らそうとしたのだろう。
まずは殿下を安全なところまでお連れを……」
「イーリアス様。少し、彼らと話してもよろしいですか?」
「え? ええ。しかし、あまり近づくと危険ですが」
イーリアス様に許可をいただいたので、私は農具を振っていた男たちから少し距離をとりながら、にっこり微笑んだ。
不思議なもので、命を狙ってきた男性でも、自分に性的な目を向けていないとそこまで恐くはなかった。
「────あなたたち、トリニアス人よね?」
トリニアス語でそう言うと、明らかに2人の────いや、ほかの者たちも含めて顔色が変わる。
「さっきの説明的なセリフ、トリニアス訛りが抜けていなかったわよ? あと、『ゼルハン島の戦い』とは言われていてもベネディクト王国に戦死者が出たのはもっと東の島での戦闘だったわ。銃もトリニアス軍が使ってるものだし」
「「……!!」」
「それでもあなたたち自分がベネディクト人だというなら、もう少しベネディクト語で何かしゃべって見せて」
「ふ、ふざけるなっ!! 俺たちはまぎれもなくベネディクトの……!!」
「あら、良く意味がわかったわね。私トリニアス語でしか話していなかったのに。農夫という設定なのに、トリニアス語がわかったってことよね」
「……………………あ」
「ば、ばか!! なにやってんだ!!」
私は念のため、周囲の衛兵に聞こえないよう、声量を落とす。
「国交の回復に水を差したいとは思えないから、国王陛下の仕業ではないでしょう。動機は私への個人的な遺恨か、あるいは戦争の口実作り。後者なら、あなたたちの主はうちの元帥あたり?」
また顔色がわかりやすく変わる。元帥か。
……母でなくて良かったと思うべきか。
「ベネディクト人のふりをして王女であるわたしを暗殺し、その報復を口実に戦争を仕掛ける。そういうつもりだったのね」
和平条約にはイーリアス様が〈誓約魔法〉をかけている。
そこには、両国及び両王家が爵位を与えている公国の領土への不可侵が含まれているから、もし万が一私が死んで、それを口実に軍部が戦争を仕掛けようとしても王家は追認しないはずだ。
だけどそれを、軍部は知らない。
「どのみち死を覚悟しているのでしょうけど、元帥が失敗した者に下す制裁は酷いわよ。早く白状してベネディクト側に保護を求めた方がいいのじゃないかしら」
「……………………」
犯人たちは次々にうなだれた。
私はイーリアス様を振り返る。
トリニアス語のわかるイーリアス様も、状況は把握したようだ。
「終わりました、イーリアス様。この度はトリニアスの者が大変なご迷惑をお掛けし、まことに申し訳ございません。深くお詫び申し上げますわ」
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