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4 魔導書店

「あの、それで、結局このキーホルダーはいくらで買い取ってもらえるんですか?」


 なんか焦るように自分から聞いてしまった。

 こういう聞き方だと、自分が金の知識がまったくないことがバレてしまうかもしれない。

 

 でも、変に話を長引かせるとボロが出てしまいそうだからさっさと取引してこの店を出た方がいい気がする。


 それにこのじいさんは、変にふっかけるようなことはしないだろうという気がした。

 感、という奴だ。



「そうだねえ、大銀貨5枚でどうだい?」


「......それじゃあちょっと、安すぎませんか?」

 とは言っても、一応かまをかけてみる。


 すると、隣で見ていたさっきのマッチョのお兄さんが口を挟んだ。


「お客さん、そりゃ流石に欲が出過ぎだよ。本当ならこんな人形、大銀貨5枚でも高すぎるくらいだ」


 しかし、マッチョのお兄ちゃんを、じいさんが片手で制した。


「お前は黙ってな、ラディ。

 はは、そうか。お客さん、ちゃんと物の価値はわかってるようだな。

 ......うん、こうなりゃ変にふっかけるのも野暮ってもんだ。金貨五枚だ。

 これがこの店で出せる限度だから、もう交渉はできないよ」


 ほら、かまかけといてよかった。


 今度はどうやら嘘はついていないようだ。


「よし乗った。それで売ろう」


 店主は足元から何枚か数えてぼろい袋に入れてくれた。


 マッチョの兄ちゃんの顔が驚愕したものになる。


「おっ、親父、金貨五枚って、そりゃ流石にあげすぎじゃねえか?」


「馬鹿野郎、それだからお前は半人前なんだ。

 本当はこれでも安いくらいだが、この兄ちゃんはそれで譲ってくれるって言ったんだ。こんな見たこともないような技術の塊、持ってくところに持ってきゃあこの店の全財産より価値があらあ」


 なになに、あのキーホルダーそんなに価値あったの? 

 まあ、そこそこ高く売れるだろうとは思ってたけど。


 適当に鎌かけただけなのに店主から ”見る目ある奴” 的な感じで見られている。

 マッチョのお兄さんは(へえー)って感心したように俺のこと見ている。


 ......なんか騙しているようで悪いな。


「そうだ、ここら辺に染料が売っているお店ありませんか?」

 ついでだから聞いておこう。


「染料? 何に使うんだい、そんなもの。そうだねえ、この通りは基本的に食料関係が多いから。もう一つ向こうの通りに、文房具屋さんがあった気がするが。

 絵具が売っていたかどうかは、......すまんがわからないな」


「いえ、十分です。ありがとうございます」


「そういえば、お前さんが着ている物もここら辺じゃ珍しい代物だね。売ってもいいんだったらかなり高額で引き取ってやってもいいんだが」


「すみませんが、この服はまたの機会にします」


 まだ黒髪のままなのでフードがないと困る。


 それにとりあえず、まとまった金で染料と水と食料を買わなくてはならない。

 

 服はちゃんとした金銭感覚を身につけてから売るかどうかを考えても遅くはない。

 このキーホルダーだって、適正価格で引き取ってもらえているかどうかは怪しいところなのだ。


「売りたくなったらうちにきな。いつでも大歓迎するよ」


「ええ、機会があれば」


 俺は一応礼を言ってその店を後にする。

 最後まで食えないじいさんだった。


 


 その後、俺は買い物ついでにいろんなお店を回り、商店街探索をした。

 鍛冶屋さんとか服屋さんとか、子供が思いつきそうなお店は通りをいくつかまたぐと大体あった。


 その結果分かったことがいくつかある。


 どうやらこの世界は、前の世界と植生が被っている部分もあれば被っていない部分もあるらしい。例えば、この世界に牛は住んでいるが、豚や鶏は住んでいない。その代わり、日本にはなかったミノタウロスやゴブリンなどのお肉を比較的安価で手に入れることができた。


 ゴブリンのお肉はなんだかクセが強そうだったので、ミノタウロスのお肉で焼いてあるやつを一つ買った。純粋に味に興味があったからだ。


 お肉の値段は、一切れ銅貨三枚。

 日本円に直すと大体三百円くらいだ。


 

 この国には、通貨として五つの貨幣が使われている。

 低い順に、


 銭

 銅貨

 小銀貨

 大銀貨

 金貨


 銀貨は二つあるが、名前の通り大きさで区別する。

 ちなみに、それぞれの比率はと言うと、

 

 銭が十枚  =銅貨

 銅貨が十枚 =小銀貨

 小銀貨十枚 =大銀貨

 大銀貨十枚 =金貨


 こんな感じになっている。

 ちなみに感覚だと、銭は日本円に直すと大体十円前後といったところだろう。


 つまり、単純計算で金貨一枚が十万円前後。


 さっき俺は、五十万円と言う大金をじいさんからもらったわけだ。


 そう考えるとじいさんとのやり取りが凄い重みを持っていたことに気づく。


 あのキーホルダーが五万円じゃ安すぎだと俺がゴネて、それをマッチョの兄ちゃんが諫めたわけだ。

 しかし、店主はそれに五十万払うと言い出した。

 そう考えると、感覚としてはマッチョな兄ちゃんの方が至極真っ当だ。

 

 俺だったら、自分の店の親父があんなキーホルダーに五十万も払おうとしたら殴ってでも止めるに違いない。


 そんなことを考えながら。


 最終的に買ったものは、


 食料:骨付き肉(なんの肉かは知らない)と見たこともない果物    ・・・小銀貨一枚

 染料:とりあえず緑の絵具(雨に濡れても落ちなさそうなものを選んだ)・・・銅貨三枚

 カバン                    ・・・小銀貨四枚と銅貨二枚

 衣服:このままの格好だと、目立ってしまうため ・・・小銀貨四枚


 結局両手いっぱい買い物をしてしまった。

 

 衣服は、天使の分も買ったので高くなってしまった。食料は、とりあえず今夜の分だけである。あまり買いすぎて腐らせてしまってはもったいないからだ。


 カバンは天使の分も合わせて二つ、結構大きめのものと小さなものを買った。

 もしこれから亡命するようなことになったら、荷物を持って何キロも歩く必要が出てくるからである。

 そして、かなり大きめのバックを買ったのにはもう一つの理由がある。


 天使を突っ込むためである。

 あの小動物を隠すのに、考えた結果これ以上の名案が浮かばなかった。

 空気穴もあるし、嫌がったらまたその時考えよう。


 絵具は、迷ったが緑にしておいた。


 緑と青色で迷った。

 でも、緑って柔らかい感じがして好きなのと、

 髪に塗るこの町では緑の髪の人間が比較的多い。


 まあこんなものは、似合わなかったらいくらでも変更できる。

 

 最後に、今のままの格好では嫌でも人目についてしまうから、この世界に合わせた衣装が必要だ。

 できるだけ地味な色の、街の人がきているような作業服を選んで買った。


 ちなみに水は、そこかしこに綺麗な噴水が出ているのでこの街では売る価値もないらしい。

 掬って飲めという話だ。


 全部を選んでも、一万円ちょい。後四十九万円も残っている。


 だからと言って簡単に懐を緩めるわけにもいかない。

 こんなの、すぐになくなってしまうだろう。


 金が入ってくる目処が立つまで、財布の紐は硬く閉じておかなければ。





 そろそろ天使のところに戻ろうと思った時、俺は視界の隅にある店の看板を捉えた。


 !!!!!




 買いてある文字を見て、俺は思わず叫びそうになる。


 その店の名を『魔道書店』


 鳥肌が立つのを感じる。

 期待で胸がいっぱいになる。


 幼い頃、誰もが見る。

 魔法が使えるようになりたい、という夢。


 それが、この世界にはあるのだ。


 ヤバイ、感動で泣きそうだ。

 泣かないけど。


 だって魔法だよ?


 レッドと相対した時もしかしたらとは思ったけど、実際にそれを確信すると感慨深いものがある。


 ってことは俺も手から火の玉を出したり空を飛んだりできるのだろうか。

 夢が広がるうううう!!



 あれ?

 でもよく考えると、天使が使ってた転移魔法もそういえば魔法だったな。

 すると俺は魔法と初対面ではなかったわけだ。


 でも天使のあれは天界のことだったし、地上に立って魔法があると確信することに意味があるというかなんというか。

 感動したんだからそれでいいよな。うんそうだ、そうに決まってる。



 好奇心を押さえきれず、俺はその店のドアをそっと開けて中に入った。

 赤茶けた、分厚い本がずらりと並んでいた。


『火魔法基礎』『詠唱時間の最先端研究』『魔道具大辞典』......。


 字面だけでロマンが夢のように広がっていく。

 『魔道具大辞典』なんて美しい響きなんだ。


 でもどれ読めばいいのかは、ぱっと見ではわからない。


 その本棚の中から適当に一冊抜き取り、裏に買いてある値段を見てギョッとする。


 金貨二枚。


 つまり、二十万円。

 高いだろうと思ってはいたが、それよりずっと上だ。


 他にもいろんな本の値段を見たが、みんな似たようなものだった。


 

 俺はその中から比較的薄めの本を抜き取る。

 タイトルは、『基本魔法の詠唱とコツ(初・中級魔道士編)』である。


 内容をパラパラとめくると、練習方法まで図解で丁寧に解説してあった。

 うん、これなら俺でもなんとかできるかもしれない。


 値段は金貨一枚と大銀貨三枚。十三万円。


 ......よし、買おう。

 ここで買わないで後悔するより、買って後悔しよう。


 俺は男のロマンに屈した。

 俺も魔法が使えるかもしれないのだ。


 店番のおじさんに値切って金貨一枚と大銀貨一枚まで負けてもらう。


 俺は魔導書を手で撫でる。

 さらさらさらと、なんていい感触なんだ。



 絶対に無くさないように、魔導書はさっき買ったカバンの奥深くに入れた。


 大金を払ったぶん、大事に読み進めなければ。


 それにしても魔導書一冊で、今日一日の買い物ほとんどの値段を軽く超越してしまった。

 

 まだ三十八万円残っているとはいえ、これ以上お金が入ってくるあてはないのだ。

 それに、俺と天使は逃亡していて明日がどうなってもおかしくない身。

 

 今度こそ財布の紐をきつく結んでおかないとな。

 天使には、二時間くらいで戻ってくるといってあったが、少しすぎてしまった。

 あんなところに一人で二時間待たされたらきっと今頃不安に思っていることだろう。

 魔法書店のせいでちょっとオーバーしてしまったから、急いで帰ろう。


 ......呑気に寝ている気もするが。


 それにしても、天使天使と呼ぶのもなんか変だよな。

 帰ったら名前つけてあげよう。



作者は未熟なので、コメントをいただけると泣いて喜びます。

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