0-3 学園生活スタート
2020年4月5日。
春。
快晴。
ここ百華魔法学園にも桜の花びらが舞う。
入学式なら無事に終わった。
毎年、入学式に何かしらトラブルが付き物な百華において、今年も何かよからぬ事件が起きるかもしれないと職員・生徒会一同は神経質になっていた。去年なんかは学園行きの魔導列車ジャック事件なんかがあって入学式は後日改めて仕切り直しをしたという話もある。
だから、今年はなんとか入学式だけは無事に成功したみたいで皆が一安心している模様。
魔法生たちは列をなして自身の教室へと向かっていく。各クラスの列を引導する担任教師が学園施設を案内していく。そんな姿を眺めて職員・生徒会一同は胸を撫でおろしていた。
例の少年・雨衣蒔苗は無事に入学して、鏑木エルと再会した。
12月24日に出会った2人。そして、再会した2人。
「エル、久しぶりだね」
「……なんだ、雨衣ですか。相変わらずのめめっちい女顔で安心しました。おっさん顔に成長していたらガン無視キめてこんでいるところでしたし。まぁ、何はともあれ入学おめでとうございます」
「エ、エルも入学おめでとう……だね」
しかし感動が薄い。
雨衣の期待していた展開とはなんか違う。
久しぶりの再会だというのに、素っ気ない態度というかこのお嬢様は冷めた目でこちら一瞥するだけ。
立ち止まる雨衣を通り越して1人校舎へ向かおうとした。
雨衣は苦笑いしながらも、それでもこの学園に知り合いは1人しかいないのだから、めげずにエルの背中を追いかけた。
燃え上がるような黄金の髪を持つ少女。
あの日と何も変わっていないな……と思う。
少女が1人先を行き、追いかける構図が……しかし、それを思い出してクスリとなる。
―――相変わらずエルらしいね。
雨衣は後を追いかけた。
次にエルの横に並んだ時、煙たがられて手で押しのけられたりもしたが一緒に行動した。
これが雨衣じゃなくどこぞの馬の骨ともわからない輩だとこうはいかない。エルの父親が黙ってはいなかっただろう。ここは東京湾に浮かぶ要塞のような魔法学園。例えば、敷地の端っこから東京湾に沈m……
とにかく、これは雨衣が12月24日にエルと出会い共に事件を解決したからこそ認められたポジションである。
「元気にしてた?」
「別に…屋敷に引きこもってましたよ。ワタシ、陰キャというやつらしいですし」
「えっと……」
下を俯く少女。
あの日から何も変わっていなかった。
「雨衣こそ、受験勉強頑張ったみたいじゃねーですか。あの人から聞きましたよ。自力で赤点回避したと。一般人がよくゼロから独学で頑張りましたね。ワタシなら丸投げして天命に任せるというのに……」
「え、そうなんだ。勉強頑張ってよかったよ」
ファンタジー世界に夢見た甲斐があったというものだ。
他にもいろいろ頑張れる理由があった。
口にしては言わないけども。
エルに褒められて嬉しいのには変わりない。
「まぁ、でも雨衣が百華に入学できたのはコネですけどね」
「………」
元も子もないこと言っちゃったよこのお嬢様。
それは言っちゃいけないやつだ。
「勉強しようが勉強しまいが入学は強制で確定していましたし……」
「でも、クラスは上位を目指したかったんだ」
「それも無駄な努力ってもんですよ。オマエの魔法はこの学園の規定基準に向いていません。ワタシも然り、オマエもEクラスになる運命でした」
「……そんなバカな」
確かに、言われてみれば実技の試験で何度も【測定不可】の結果だった。
「というか、エルも??」
「はい。勿論ワタシもコネ入学です」
「そ、そうなんだ……」
そんなドヤ顔で言われてもってかんじだ。
「笑っちゃいますよね。学園理事長の娘が碌に魔法が使えないとか」
「そんなことないけど……」
「この際ですから先に暴露しておきますが、雨衣が何かの間違いで学力・実技どちらとも良成績で上位のクラスになろうってもんなら嫌がらせであの人に頼んでEクラスに落としてもらおうと思ってました」
「……それは本人に言っちゃいけないやつだよ」
少女は立ち止まる。
下を俯いて何か言いたそうにしていた。
やがて、俯いていた顔を上げ雨衣の顔を捉える。視線がバッチリ合う。
道中、お互い見つめ合った。
通行の邪魔でしかない2人だけの空間。
エルが何か言いたそうにしていた。
それはあの日も同じだった。
だから、雨衣は待った。それとも自分から何か言ってあげた方が良かったのか……
「雨衣…ワタシのパシリとして3年間よろしくお願いします」
「あ、うん、友達としてだよね。こちらこそよろしくね、エル」
12月24日にとある事件を解決した。
東京が日本の地図から消え去るような大事件をだ。
でも、これで終わりじゃない。
雨衣の中で、これだけはハッキリと分かっている。
あれで自分たちの物語は終わりじゃない。
これから始まるトラブルだらけの学園生活は、
ほろ苦いぐらいがちょうどいい甘さの青春も添えている。
そんな予感がする。
次回、第1章突入の予感