表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

遅刻魔

作者: 黒い怪鳥

「やべえ、遅刻しそう……」

 約束まで後20分。待ち合わせ場所まで電車で30分。男には得意先との打ち合わせが待っている。すでに1回遅刻している男にはとって、2回目の遅刻はどうしても避けたい。だが、男にはなんとか正当に言い訳できる方法を持っている。


 男は学生の時からよく遅刻していた。入学式や定期試験、部活の集合、受験、デートの約束。どんなに重要な予定でも必ず遅刻していて『遅刻魔』と呼ばれていた。

 だがそれは毎回、()()()理由で許されていた。

『人身事故の影響で現在運休しております』

『車両故障の影響で遅延しております』

 ――不謹慎な話だが男にとっては救いの言葉だった。


 男が遅刻しそうになると毎回、遅延や運休が発生する。そうすればそれを言い訳にできるからだ。

「そろそろだろう……」

 苛立つ気持ちを抑え、じっと待つ。

 しかし、なかなか遅延も運休も発生しない。さらに電車もなかなか来ない。1分1秒が永遠と続いてるように感じられる。

『電車が参ります。危ないですから――』

 ついに電車が駅に近づき、男の期待は裏切られてしまった。

「チッ……今日に限ってマジかよ……」

 悪態をつくと急に視界が傾く。

 あたりに轟く金属を擦り合わせた音。耳をつんざく警笛。女性の甲高い叫び声。

 結果として男は得意先に間に合わなかった。そのかわり、2度と行かなくて済んだ。いや、2度と()()()()()()()のだ。

 そして、聞こえてくるあの言葉。

『人身事故の影響で現在運休しております』

 その救いの言葉は男には届かない。

「助かった……。これで運休を理由に遅れられる」

 ホームにいた()がそう呟いたのは誰も気がついてない。

『遅刻魔』は新たな人に憑依する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ