第5話
「あなたが何を思おうと、あなたの自由です。ですが、それに私が合わせる気はありませんし、必要もないと思っております」
淡々とそう言った咲良の目には何も映ってはいなかった。
「んー、まあ溯摩の気持ちも分からなくはないんだけどね。それが大多数の意見だろうし、間違ってないってことも分かるよ。それでも、まあ咲良には選ぶ権利があると思うんだよね」
「そう、だな……」
放課後、図書館で咲良と出会った。本来、普段溯摩は図書館には行かないのだが、この日はなんとなく咲良はいるだろうと思って行った。
「咲良……」
「何かご用ですか?」
咲良はおそらく借りるのであろう本を3冊持っていた。
もう外はは夕方で、西日が差し込んでいる。
「朝のこと、悪かった」
「気にしておりませんので、お気になさらず。そのためにわざわざ来られたのですか?」
本当に気にしてはいないようだった。だが、なんとなくそれではいけないような気がしていた。
「それでは私は失礼させて頂きます」
そのままカウンターの方へ歩いて行った。
ただ邪魔してしまっただけだったかもしれない。その事に少し悪く思いながらも、もう帰ろうと思った。
その時_____。
突然、地面が揺れた。
立っていられないほどではないが、かなりグラグラと揺れている。地震かとも思ったが、そうではない。
少し前の出来事が、昨日の事のように甦る。嫌な予感がした。
揺れがおさまったすぐ後に、このままでは本が倒れたりして危ないため、職員の人が避難誘導していた。
その途中、偶然にも咲良が隣に避難してきた。一瞬目があったが、お互いに一言の会話もなく避難する。溯摩はかける言葉がなく、咲良は話す気は全くない。
そのまま、取り敢えず無事に避難することは出来た。だが、外は予想していた最悪のことになっている。
「またかよ……」
溯摩は、思わずそう呟いてしまうほど最悪だった。
空を見上げれば、また別の誰かが空を飛んでいる。それだけならまだ良かったのだが、どうもその人間が攻撃しているらしい。つまり敵だ。
あの時と同じように、ただ魔法がこちらに向かないように祈ることしか出来ない。だがその願いは通じず、空の人間がこちらを見てニヤリと笑った。そして、攻撃の手を向けてきた。
今なら分かる。あの時にも空の人間と目があった気がしていたのは、近くにいた咲良を見ていたのだのだ。
慌てて周りを見ても、あの時のように由佳は近くには見えない。もうだめだと思った時、咄嗟に咲良を攻撃から庇っていた。何も考えずにでた自分の行動に、正直溯摩自身も驚いていた。
それから一秒も経たない間、背中にものすごい衝撃を感じた。力が全く入らなくなって、倒れ込むのを咲良が支える。怪我は背中だけのはずなのに、全身に痛みを感じる気がした。
「どうしてこんな事をしたのですか……」
そう言った咲良の顔は今までに見たことのない、驚きに満ちた顔だった。無表情が常に顔に張り付いたような咲良だったため、少し驚いた。
「さあ……な……………」
あまりの痛みに段々と意識が薄くなっていく。
こりゃ、さすがに死ぬかも。そんなことを思いながら、意識を手放した。