第2話
それから半年後、あの日からほとんど変わらない日常が続いていた。しかし、見えないところで緊迫した状況が続いているのがなんとなく分かった。
あの日以来、由佳は一度も学校には姿を現さなかった。声のことも結局何も分からないままでそのままに日々を過ごしている。だがしかし、口には出さないが皆がこの事を不安に思っていた。
その代わりか、相変わらずに咲良は隣で本を読んでいる。マイペースに自分だけの世界をつくっていた。
学校は、由佳が姿を見せなくなったこと以外は特に何も変わりなく、毎日授業を受ける日々が続いている。
由佳の事は少し心配だが何かがあったという話は聞かないから、きっと大丈夫なのだろう。そもそも由佳の性格からして問題があるとは考えられない。
キーンコーンカーンコーン。
授業の開始の鐘が鳴って、先生が教室に入ってきた。毎日、一時間目というのは先の事を考えると憂鬱になる。いつものように先生の声をかるく聞き流しながらボーッとしていた。
その時、視界の片隅で一瞬光が見えた気がした。
「ん?」
窓側を見ようと顔を向けた瞬間、目の前で大きな爆発が起きた。
「は……?」
思わず間抜けな声が出たのも仕方のないことだろう。目の前で突然、見たことのないほどの大きな爆発が起きたのだ。
あの場所は住宅街があったはずの場所で、一体あの場所何人の人がいたのだろうか。そう考えると、背筋が寒くなった気がした。
だが、無情にもそれだけで終わることはなく、また爆発が起こった。いくつもの爆発が連続として起き、全員がそれを黙って見ていることしか出来ない。
いくつ目かの爆発の時、溯摩の目には爆発の原因が見えていた。
「人……が、飛ん、で……る……?」
空に浮いている人間の方から光がのようなものが放たれ、その先が爆発していた。
爆発していることもそうだが、人間が飛んでいることからあり得なくて考えることを放棄していたのだと思う。逃げるということを考え付いたのはクラスの誰かがパニックになって教室から飛び出してからだった。
それに反応したのは溯摩だけでなく、一人、また一人とつられていき、あっという間に他クラスも含めて廊下は混雑していく。避難誘導をしている先生の声も掻き消されるほどにあちこちから悲鳴が聴こえてくる。
溯摩もその波にのって出ようとしたとき、咲良の姿が目に写った。さすがに本は読んではいないものの、冷静を通り越してゆっくりに歩いているのを見て、咄嗟に手を引っ張って走った。
外まで着くと、教室の窓から見た以上に被害が進んでいるようだった。何処に進んでいいか分からなくて止まってしまった人だかりでなかなか前に進めない。
その時、ふと空を見上げれば爆発を起こしていた空飛ぶ人間と目が合った気がした。
勿論、距離がかなり離れていたからただの見間違いだったかもしれない。ただ、明らかに攻撃はこちらに向けて放たれていた。
何人かの生徒はそれに気づいて、無意味にも逃げようとしていた。だが、そんなものが間に合うはずがない。
もう駄目だと思って、固く目を瞑った。だが予想していた衝撃はいつになってもおとずれてこない。意を決してゆっくりと目を開けていくと空中に浮かぶ魔方陣のような物と見馴れた人の後ろ姿があった。
「由佳!!」
「やっほー、溯摩。まだ無事?」