第1話 日常の終わり
17年前、壁が世界に突如として現れた。当時は相当な騒ぎだったらしいが、まだ産まれたばかりだった俺には今の壁のある状態が当たり前のように思われる。
偶然なことに、壁が現れた日はちょうど俺が産まれた日だった。まあ、どうでもいい話だが。
因みに、今日がその俺の誕生日で壁が現れた日だ。本当にどうでもいい話だがな。
「あ、おはよう、溯摩。誕生日おめでとう」
「ありがと、由佳。それにしても、よく覚えていたな」
「あはは。朝から壁のニュースばっかだからね」
「それがなかったら忘れたのかよ」
今日は壁が現れてちょうど17年目という事で、朝からどの番組も壁の事ばかり放送していた。
未だに謎の多い壁は、何の素材で出来ているのかさえ判明してはいない。ただ、その壁の出来た当時には、どこかの国が壊そうとしてミサイルか何かを使ったららしいが、それでも傷一つ付かなかったほどの強度の素材で出来ている。
溯摩は自分の机に荷物を置いて座る。
「おはよう、咲良さん」
「おはようございます、溯摩君」
隣に座っている咲良は、いつものように本を読んでいた。挨拶をすれば返すが、それだけだ。無視はしないのだが自分から話し掛けることはしないし、話が終わればまたすぐに本を読み出す。
そんな彼女が笑っているところは、誰もみたことがない。笑うどころか、怒っているところや泣いているところすら誰も見たことがないだろう。
彼女の感情というものを誰もみたことがない。その姿はまるで、心のない人形のようだった_____。
「どしたの、咲良の事じっと見ちゃって?これは一目惚れだ!!」
「何言ってんだよ!そんな冗談やめろよ!」
「ははは、ごめんごめん。じゃあね何でそんなに咲良の事そんなにじっと見つめてるの」
「別にちょっと気になっただけだよ!」
何も考えずにいたら、咲良の方を無意識に見ていたようで由佳にからかわれる。
「咲良はモテるね」
「だから違うっていってるだろ」
咲良はちらりとこちらを見ただけで、直ぐに視線を本へと戻す。
その時_____。
『これより、審判を始める』
「何これ!?」
「どこから聞こえてるんだ!?」
突然、何処からともなく声が聴こえてきた。放送とか近くの誰かが言っているという感じではなく、本当に音源が分からなかった。
『5年後までに12の中から1つを選ぶのだ。ルールは簡単。シングル、ダブル、トリプルの3つのランクの者がそれぞれの壁に存在する。相手ののトリプルの者を倒せば勝ちだ」
辺りはしんと静まりかえっていて、嫌でも声が頭の中に入ってくる。淡々と進んでいく声は聞き取り易いはずなのに何を言っているのか理解が出来なかった。
『以上』
淡々と一方的に言ったその声は先の言葉を最後に聴こえなくなっていた。
「なんなんだよこれ!?」
「なんなのよさっきの声!!」
周りが混乱していくなかで、隣からいつも以上に落ち着いた声が聞こえた。
「始まっちゃったか。仕方ないなー」
そのまま、由佳は教室の外へと出ていった。いつものテンション高めで明るい感じとまるで違う、冷めきったような雰囲気の由佳に驚きすぎて溯摩は声をかけられなかった。
さらに反対側にいた咲良は相変わらず、こんな時にも本を読んでいた。