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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第7章 狼おじさんと猫の少女
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ギルドの魔法使いたち

今回は三人称視点の話です。

 クラリスがかけた招集によって方々に散っていたオズ派の魔法使いたちが一斉にギルドへと呼び寄せられた。

 先に手紙を送ったレオナルドも薬学の知識を持ったマーリン派の魔法使いを連れて戻ってきた。

 目的は一つ、ケガを負った薬屋の老婆の代わりに解毒薬を作るための人材を確保するためだ。


 昼下がり、クラリスたちオズ派の魔法使いたちとレオナルドたちマーリン派の魔法使いたちは薬屋の老婆の元を訪れた。

 その日の学業を終えたミラもその場に合流している。


 「しかし、よくもまあ私なんかの代わりをこんなに集めたもんだねえ」

 「ギルドの危機なんだし、アタシたちもこれぐらいやらなきゃね」


 老婆は椅子にもたれかかり、自嘲交じりにオズたちに賛辞の言葉を贈った。

 それに対してクラリスは億することなく言葉を返す。

 

 「お婆さん、今の我々には知識と手はあるが技術と経験が足りない。最適解となる解毒薬の作成方法を教えていただきたい」

 

 レオナルドに協力を乞われて薬屋の老婆は重い腰を上げた。

 それと同時に目つきが皮肉屋の老婆からベテランの調剤師のそれへと変わる。


 「手の空いてる奴は外で怪しい奴がいないか見張っておいて。もしかしたらまた誰かが狙ってるかもしれないわ。ここはそんなに広くないし、薬を作らない奴は全員外で見張りよ。ほら行った行った」


 クラリスは手の空いていそうな魔法使いたちを数名薬屋の外へと追い出して警備を命じた。

 同時に彼女も召喚魔法の陣を展開し、薬屋の屋根の上へと転移する。

 屋内での作業よりも屋外での活動の方が自分の性に合っていると何より彼女自身が理解している。


 「お婆さん、アシオリギクの解毒にはフユゴニチがより有効だと思われますが」


 マーリン派の魔法使いが老婆に尋ねた。

 フユゴニチとは冬に五日間だけ花を咲かせることからその名がついた解毒作用を持つ多年草だ。


 「確かに有効だがゴニチソウは加熱すると効果がなくなる。錠剤に使うには効率的ではないね」

 「それならすりつぶして丸薬にするのはどうかな?錠剤とは別の薬にするの」


 老婆の言葉ににミラが口を挟んだ。

 

 「なるほど。嬢ちゃんは賢いねぇ」

 

 老婆は感心したように頷き、ミラの頭をそっと手を置いた。

 年季の入った皺だらけの手に撫でられてミラの銀色の髪が小さく揺れる。


 「私の自慢の娘ですよ」

 「そうかい、なら私の知識をありったけ叩きこんでやってもいいんだね?」

 

 レオナルドの一言に老婆は目を輝かせた。

 未来のマーリン家当主に知恵を授けられるとなれば鼻高々だ。


 薬屋の外が何やら騒がしくなってきた。

 どうやら穏やかではないようだ。


 「私が外の様子を見に行くよ」


 レオナルドはそう言い残して外へと出て行った。


 「小さいのによく頑張るじゃないか」

 「うん。だって楽しいもん!」

 「そうかい。ここらで少し休んだらどうだい・お茶ぐらいなら出すよ」

 

 老婆はレオナルドたちについて手伝っていたミラに労いの言葉をかけた。

 ミラは作業の手を休め、老婆について行く。

 

 「寒い日には温かいお茶がいい」

 

 私室にて老婆はミラに湯気の立った紅茶を差し出した。

 ミラはカップを手に取り、軽く息を吹きかけて紅茶をゆっくり口にする。


 「熱っ!」

 「はっはっはっ!やっぱり熱すぎたかねぇ」

 「わかってたの?いじわる!」

 「悪い悪い。お嬢ちゃんみたいなかわいい子と接するとついついこういうことをしたくなっちまうんだ」


 ミラをからかうように老婆は笑った。

 何やら騒がしい外とは対照的に穏やかな時が流れる。


 「お婆さんはどうして薬屋さんになったの?」


 老婆に勧められたお菓子を食べながらミラは純粋な疑問を老婆へと寄越した。

 

 「私はね、若いころは医師団の一人として世界中を回っていたんだ」


 老婆は懐かしむように語りだした。


 「お婆さん、お医者さんだったの?」

 「そう、細かく言えば私は調剤師っていう医者とは少し違う人間なんだがね」

 「どう違うの?」

 「医者は患者の病気を見極めて適切な治療法を見つける人、調剤師はそれに合った薬を作る人さ」

 

 「ミラはね、大きくなったらお医者さんになりたいの」

 「ほう、魔法使いなのに変わってるね」


 将来の夢を語るミラに老婆は再び感心した。

 

 「今は魔法を使ってるけどいつかは魔法に頼らなくてもいろんなケガや病気を治せるようになりたいんだ」

 「面白いことを言うね。ならいいことを教えてあげよう」

 「なになに?」

 「大きくなったらダモンという男に会いに行きな。きっとお嬢ちゃんを立派な医者にしてくれるはずさ」

 「お婆さんの知り合いの人?」

 「かつての仲間の息子さ。親父の後を継いで医者になったんだ」


 

 ――――――――



 一方その頃、外で見張りをしていた魔法使いたちは薬屋を狙っていた獣人たちを返り討ちにして数名を捕らえた。

 ごく一部には逃げられてしまったがそれでも大きな進展だ。


 「アンタたち、なんで薬屋を狙ったの?」


 クラリスは身の丈ほどもある杖をクルクル回しながら体格のいい猫の獣人に尋問した。


 「知るかよ。俺たちはただやれと言われてやっただけだからな」

 「ふーん……」


 クラリスは一瞬目を背け……

 と見せかけて再び睨みつけた。


 「アンタ……嘘ついてるでしょ」

 「ハッ、どうかな」


 獣人は悪態づいた。


 「悪党はどこまでも悪党ってわけね。それならこっちも相応のやり方をさせてもらおうかしら」


 クラリスは指を鳴らすと自分の側に巨大な何かを呼び寄せた。


 「グルルルルル……!」


 クラリスはおろか、その場にいる人間たちをもはるかに上回る体躯。

 一対の大角、巨大な翼、全身を覆う黒い鱗、首元には赤いスカーフが巻かれている。

 その吐息は口元を白い靄で覆い隠すほどの熱気を放っている。


 「ド、ドラゴン……」

 「そう、うちのペットなの。かわいいでしょ」


 クラリスたちタカノ一家のペット、フェアリードラゴンのクロだ。

 

 「この子はアタシたちの言うことを素直に聞いちゃうのよねぇ。アンタが嘘をつき続けるなら…言わなくてもわかるわよねぇ?」


 そう言いながらクラリスはクロにアイコンタクトを送った。

 意図を察したクロは低い唸り声を上げながら首を下げ、獣人たちを至近距離で睨みつける。


 「さぁ教えなさい。アンタたちはどうして薬屋を襲おうとしたの?」

 「スノウ様に命じられたんだ……薬屋を封じておけって……」


 小型とはいえ、他の生物を凌駕する力を持ったドラゴンの前ではあらゆる抵抗が無にも等しい。

 クロに迫られた獣人はあっさりと白状した。

 

 同時にクラリスたち魔法使いは初めて事件の黒幕の存在を知ることとなった。


 「で、そのスノウとかいう奴はどこにいるか聞かせてもらおうかしら」

 「知らねえよ!」


 クラリスは再びクロにアイコンタクトを送った。

 コンタクトを受けたクロは吐息が懸かるほどに切迫し、獣人に爪を突き立てた。


 「知らねえよ!スノウ様がどこにいるのか俺たちは本当に知らねえんだ!信じてくれよ!」


 生命の危機にさらされた獣人は必死になって訴えかけた。

 その迫真ぶりからどうやら嘘ではないと察したクラリスはクロを下がらせる。


 「とりあえず今ここにいるアンタたちは全員クルセイダーに突き出すから」

 「ギルドの街を滅ぼす行為に加担した罪は重い。相応の覚悟をしておくんだね」


 レオナルドは指を鳴らした。

 それと同時に捕らえた獣人たちが一斉に意識を失い、人形のように崩れ落ちた。


 

 ――――――――

 


 「アンタたちのおかげで数百人分の薬を作ることができたよ。恩に着るね」


 夕暮れ、薬屋の前で老婆は魔法使いたちに感謝を告げた。

 

 「後はこれを必要とする人たちに届けに行けばいいのよね」

 「そう、私一人ならあと何日かかっただろうね」

 「アタシたちがいればざっとこんなものよ。もっと頼りなさい」

 「じゃあ、明日はこれを届けに行ってもらおうかね」

 「任せなさい!」


 クラリスは得意げに胸を張った。


 「今夜は数人で朝までここを護りなさい。獣人たちがいつまた来るかわからないわ」

 「それなら私がここに留まろう。クロを貸してもらってもいいかな」


 レオナルドが薬屋の警護に名乗りを上げた。

 さらにクロを警護につけることを提案してきた。


 「クロ、一晩だけここにいてくれる?」

 

 クラリスはクロに確認した。

 クロは問題ないというようにゆっくり首を縦に振った。


 「いいってさ」

 「ありがとう。とても心強い」


 「さあ、帰ろっか」


 クラリスはミラの手を引いた。


 「ミラはもうちょっとここにいたいなぁ」

 「帰らないとアイツが心配するわよ?」

 「それもそっか。お婆さんまたね!」


 帰り際、ミラはクラリスに左手を引かれながら振り返って老婆に手を振った。


 「うむ!いつでもおいで!」


 老婆もにっこり笑ってミラの背を見送った。

 その表情は年甲斐を忘れた一人の女性そのものだった。

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