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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第7章 狼おじさんと猫の少女
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事件の全貌

 翌日、俺たち機動隊の耳に入ったのはさらなる悲報だった。

 なんと薬屋の婆さんが何者かに襲撃を受けて負傷したというのだ。


 それを知った俺たちはすぐに婆さんの元へと向かった。


 「婆さん!」

 「大丈夫か!?」

 「あぁ?生きちゃあいるけどご覧のザマだよ」


 婆さんは一命を取り留めたようだが腕をやられたらしい。


 「婆さん……薬は作れそうか?」


 アルが心配そうに婆さんに寄り添った。

 人命を気遣ってくれてはいるが彼女にとってはあくまで仕事が可能かどうかの方が重要らしい。

 

 「腕がこれじゃあ残念だけど作れそうにないねぇ……今は売ることしかできんよ」


 婆さんはとても悔しそうな面持ちでため息をついた。

 それと同時に途方もない絶望感が俺たちを襲ってくる。


 「マジか……じゃあどうすりゃ病人どもを治せるんだーッ!?」

 「薬がなくても毒は抜けるさ。早けりゃ二、三週間ぐらいでね」


 焦って頭を掻きむしるアルに諦め半分に婆さんが答えた。

 そこまで時間がかかるということが問題なんだ。

 このままだと犠牲者が増えて確実にギルドが経済的に壊滅級の被害を受ける。


 「なあ婆さん、アンタを襲ったのがどんな奴だったか覚えてないか?」


 まだ希望が完全に断たれたわけはない。

 婆さんを襲ったのがどんな奴か分かれば大きな手掛かりになるかもしれない。


 婆さんはアルの方を見るとキッと睨みつけた。


 「なんだ?ウチが何かしたか?」


 アルはその理由がわからないというように首を傾げた。


 「ちょうど、そこにいる猫の獣人を一回り大きくしたような奴だったよ」


 また獣人か。

 オズが見かけたという不審者も獣人だと言っていた。

 この事件の首謀者は獣人のグループなのか?


 この噂はすでにギルド内にも伝わっていたらしく、道行く人々がアルに懐疑的な視線を向けている。


 「なんだよ……ウチは何もしてないじゃん」

 「今はじっとしてろ。ここで何か言ったところでどうこうなるもんでもねえから」


 どうやら獣人たちに対する不信感が高まっているらしい。

 この手の厄介ごとは俺たちの力はどうすることもできない。


 「よぉ。そこの兄ちゃんよぉ、その荷物の中ちょーっと見せてくれねえか?」


 路地裏からグレイさんの声がする。

 どうやら怪しい人物と遭遇したようだ。

 

 「俺たちも行くぞ」

 「おう!」


 特に頼まれてもいないが俺たちも応援に駆け付けることにした。


 「随分と背負ってるじゃねえか、何入ってるか見せてくれねえか?」

 

 行商人と思わしき獣人を壁に追い詰めたグレイさんがやや強引に荷物検査をしようとしている。

 あれは山羊の獣人だろうか。

 そしてグレイさんのすぐ隣にはアレンが用心棒のようについている。

 これじゃあどっちが悪人なのかまるでわからない。


 「な、なぜ私なんでしょうか?」

 「兄ちゃんよぉ、ここ最近通りすがりの薬売りが変なものをばら撒いてるっていう噂は知ってるか?」

 「いえ、知らないです……」

 「そうかぁ。おかげさまで少ーしばかり警備が厳しくなっちまったもんでなぁ。ちょーっと中身を見せてくれりゃあ済む話だからよ」


 荷物確認を渋る獣人に対してグレイさんが催促した。

 その目には苛立ちが篭っている。


 「こちとら仲間がやられちまったから仕事が余分に増えてイライラしてんだ。あんまり手間かけさせんなよな」


 アレンが首の骨をゴリゴリ鳴らしながら威圧した。

 切羽詰まっているのはよくわかるんだがそれって職権乱用なんじゃ……


 二人に迫られた山羊の行商人はついに諦めて荷物を差し出した。

 少しばかり同情しちゃうな、あんな強面な狼と屈強な大男に迫られたら俺だって諦める。


 「ああいうのって見習った方がいいのか?」

 

 アルが俺にひっそりと耳打ちしてきた。

 

 「いや、アレは真似するものじゃないと思う」 

 「そうか」


 あれってほぼほぼ恐喝だし。

 大義名分はあってもやり方に問題がある。


 「おい、これはなんだ?」


 荷物を物色していたグレイさんが何かを見つけたようだ。


 「黒い……錠剤か?」


 グレイさんから受け取ったそれをつまみ、アレンがじっと覗き込む。


 「あぁ、えっと……それは……」

 「アシオリギクのニオイがするな。これを使って何をするつもりだったんだ?」


 アシオリギクのニオイがするらしい。

 いくら口ではぐらかそうとも狼の獣人の嗅覚はごまかせない。


 山羊の獣人は視線をキョロキョロと変え始めた。

 隙を見て逃げるつもりなのかもしれない。


 「アル、いつでも出られるようにしろ」

 「わかった」


 俺はアルに警告を促した。

 それを受けてアルはすぐに建物の壁を蹴り、三角跳びで屋根の上へと移る。


 「言え、何をするつもりだったァ!!」


 声を荒げてグレイさんが迫った。

 あまりの剣幕に取り調べを受けている獣人が後退る。

 

 「おい!逃げるな!」


 やはりそうだったか。

 一瞬の隙を突いて獣人はグレイさんとアレンの隙間を抜けて逃走し始めた。

 反応が遅れたグレイさんは慌ててその後を追う。


 「アル!ソイツを取り押さえろ!」


 アルを配置しておいて正解だった。

 すぐにアルは獣人の逃げた先の屋根に飛び移り、その眼前へと立ちはだかる。


 「ほらよっ!」


 アルは素早い足払いで獣人の足を取ると背後を取ってすぐに組み伏せた。

 彼女はアレンやグレイさん、そして俺に比べれば筋力そのものは弱い分、それをを体術で補っている。

 日頃の訓練の賜物とでも言うべきか。


 「そんなにここで話したくねえなら署でじっくり聞いてやる。覚悟はできてるな?」


 アルが取り押さえていた獣人の首根っこをアレンが入れ替わりでつまみ上げて連行していった。

 これで事件の全貌が明らかになるのだろうか。


 「やったぞ狼!ウチが取り押さえたぞ!」

 「おう、よくやった!」


 手柄を立てたことを喜ぶアルをグレイさんが我が子のように褒めた。

 今まで全く進展のなかった事件の捜査に大きく関わることでもあるからなおさら嬉しいのだろう。


 「ギルド侵略!?」


 あの山羊の獣人を取り調べた結果、衝撃の事実が明らかになった。

 今回の事件は首謀者がいて、故意的に薬をばら撒いてギルド中の人間を毒に犯してしまおうとしていたらしい。

 解毒剤を調合できる薬屋の婆さんがピンポイントで狙われたのも邪魔になるからだろう。


 そしてその首謀者の名前は……


 「スノウ・ベル……」


 ベル……

 確かアルたちの苗字も『ベル』だったな。


 「嘘だろ……」


 首謀者の名前を聞いたアルがかなり動揺している。

 やはり関係あるのだろうか

 

 「スノウ・ベルってまさか」

 「ウチの兄貴だ……」


 嘘だろ……

 この事件の首謀者が……アルの兄?


 驚愕の事実を前に俺たちは呆然とその場に立ち尽くす他なかった。

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