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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第7章 狼おじさんと猫の少女
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二度目の冬と狼の悩み

 「うぅ、寒……」


 俺の異世界生活で二度目の冬がやってきた。

 今年は去年よりもしっかりと対策を施しているとはいってもやはり寒い。


 そんな日だろうと当然仕事はある。

 最近はアルの指導も業務の一環になっている。

 教えれば冬の除雪作業とかもやってくれるだろうか。


 「……」

  

 なんだか不思議なものが見えた気がする。

 気のせいだよな、念のためにもう一度確認しておこう。


 ……

 …………

 マジかよ。


 建物の屋根の上でアルが思いっきり寝ている。

 しかも冬だというのに何も被ったりしていない、正気だろうか。

 それにしてももうすぐ出勤時間が迫っている、起こしてやらねば。


 「アル、おいアル起きろ!」

 「ン゛ニ゛ャッ!?」


 俺の声に驚いたアルは猫そのものな声を出しながら屋根から転げ落ちて行った。

 というか俺が声をかけるまで誰も気にしなかったんだろうか。


 「おはよう、よく眠れたか」

 「なんだよ急に起こしやがってよぉ……」


 すんでのところで安全な着地を決めたアルは寝ぼけ眼を擦りながら俺の後ろについてくる。

 

 「それにしても、急に寒くなったよな」


 コイツは真性のバカなんだろうか。

 俺の恰好を見ても察しがつかないらしい。


 「そりゃあ冬になったからな」

 「そっか、通りで冷え込んでるわけだ」


 やっぱり真性のバカだったようだ。

 

 「お前そんな恰好で寒くねえのか?」

 「別に。むしろ前より暖かいぐらいだ」


 今までどんな格好で冬を過ごしてきたというんだ。

 

 「さて、そろそろ仕事かー」

 「そうだな……」


 寒さに憂鬱を感じないという点ではアルの能天気が羨ましい。

 

 「おはようございまー……」


 挨拶を終えかけたところで俺は何か違和感を覚えた。

 去年の冬にはいなかったはずの人物がいる。


 「グレイさんじゃないスか。今年はどうしたんスか?」


 なんとグレイさんがいるのだ。

 毎年冬になると長期休暇を取っているらしい彼がどうしてここにいるのだろう。


 「今年も休暇取るつもりだったんだけどよ……上の方から猫から目を離すなって言われちまって」

 

 なるほど、アルの監視をするという役割がある以上はここから離れるなというお達しがあったわけか。

 損な役回りをしてるなぁ。


 「おーっす!今日は何するんだ?」


 アルは早速グレイさんに今日の業務内容の確認をしている。

 

 「午前は対暴徒用の制圧訓練、午後は俺と二人で巡回警備」

 「わかった!」


 アルがどこかへ走り去っていった後、俺はグレイさんと話し込むことにした。


 「アルの監視って、具体的には何やってるんスか?」

 「再犯しねえか見張ったり、後は定期的にアイツの家訪ねたりしてるぐらいか」

 「一緒に住んだりはしてないんスね」

 「そんなことするかよ、お前じゃあるまいし」


 それもそうか。

 ミラはまだ七歳だから仕方のないところはあるがアルはもう十五歳だ、一人で生活しても何もおかしくない。


 「んで、ちょっとばかし困ったことがあってよ」

 

 グレイさんがそんなことを言うとは珍しい。

 いったい何に困っているというのだろう。


 「猫の家にはアイツの弟と妹が一緒に住んでるんだけどよ。そいつらに妙に懐かれちまって……」


 アイツ、兄弟がいたのか。

 というか懐かれることに何の問題があるんだろう。


 「いいじゃないスか別に」

 「いいわけあるかよ。そいつらに絡まれると夜まで帰れねえんだぞ」


 ははーん、さては慣れない子守りに苦戦してるな?


 「子守りもある程度まで来れば楽しいもんっスよ」

 「そうは思えねえけどなあ」

 「ところで、その弟さんたちの歳はいくつなんスか」

 「弟が八つ、妹が五つって言ってたっけか」

 

 思いの外ミラと年齢が近かった。

 ある程度なら俺の経験が活かせるかもしれない。


 「そういえばお前んところのガキも似たような歳だったろ。いつもどういう風に接してるか教えてくれよ」

 「いつもは一緒に外出したり、ご飯作ったり、時々いろいろ教えたり教えられたり……って具合っスね」

 「たまの休日にそこまでやる余裕ねえわ」

 「いわゆる家族サービスって奴っスかねー。俺はすっかり慣れちゃいましたよ」

 「マジかよ……」


 グレイさんが言うには自分の休日を潰してまで子供と接する理由がわからないようだ。

 俺にとってはすっかり日常の一部になっていたからなんの違和感も感じていなかった。


 「でも、子供の性格によっても接し方は変わるとは思うんスよね」

 「なるほどなー。そこは臨機応変に対応しろってか」


 俺のミラに対する接し方が子供への対応の正解というわけではない。

 これはあくまで『ミラへの接し方』だ。

 それが他の子どもにも通用するとは限らない。


 「俺が面倒みるって言っちまった以上は責任もってやるけどよ…親父って言うのは常にこういう気苦労してんだな」

 「最初の内は苦労するかもしれないっスけど…でも一線を越えればそれが楽しくなってくるんスよ」

 「お前がそういうならそうなんだろうな。まあ俺も頑張ってみるわ」


 グレイさんも彼なりに頑張っているようだ。

 俺も子供と一緒に生活する人間の先輩として応援しよう。


 「ところでタカノ。折り入って頼みがあるんだが」


 グレイさんが肩に手を置いて俺に迫ってきた。

 目がなんかマジだ。


 「なんです?」

 「今度の休日、俺と一緒にあの猫の兄弟の面倒見てくれよ」


 ……マジですか。

 まさかまさかの展開だ。

 上司であるグレイさんからのマジな頼みである以上断るわけにもいかない。


 アルの兄弟かー。

 どんな奴なんだろうな。

 ミラたちも連れて見に行ってみるか。

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