プロローグ 期待の新人!?
今回から7章が始まります。
物語の主軸になるのはもう一人のおじさんとその子供…?
秋の八十九日。
あと二日もすれば冬がやって来る。
道行く人々は冬に備えて慌ただしく動き回っている。
俺たちの職場にも新しくメンバーが一人配属されることになった。
冬前に新しく配属されるとは珍しいこともあるものだ。
そして、その人物はかなり見覚えのある人物だった。
「というわけで、今日から見習いとして俺たちと一緒に仕事することになった。おい、自己紹介しろ」
グレイさんに背中を軽く叩かれてソイツは俺たちの前に出た。
「ウチ、アルセーヌ・ベル!十五歳だ!」
誰かと思えばあの猫の盗賊じゃねえか。
そういえば服役期間が終わったらここに配属されるって言ってたっけ。
薄汚い恰好じゃなくてクルセイダーの制服を着ていると雰囲気が多少なりとも変わって見える。
「コイツは元盗賊だが今日から心を入れ替えてギルドのために働く。お前たちもいろいろ教えてやってくれ」
「なあ狼。今日は何をすればいいんだ?」
アルセーヌとか言ったか。
口が悪いのは知っているけどグレイさん相手にそれはまずいんじゃねえの?
「口の利き方をちったぁ考えろ猫。今日はぐるっと巡回警備してそれから体力作りの訓練だ」
「おい!ウチはアルセーヌっていう名前があるんだから猫って呼ぶのやめろよ!」
「テメエこそ、俺のこと名前で呼びやがれってんだ!」
俺たちの目の前で小競り合いが始まった。
口ぶりから考えるにいつもこんな風に会話をしているらしいな。
「んで、なんでお前がくっついてんだ?」
「巡回警備のことはお前らに聞けって狼が言ってたからよ」
巡回中の俺たちにアルセーヌがくっついてきている。
低身長なのに加えて彼女は機動隊では最年少、そして唯一の女だ。
一見すればマジでちびっこが俺たちの真似事をしているようにしか見えない。
「なあ、巡回警備って具体的には何するんだ?」
「そうだなー。街の人から変わったことがないか尋ねたり、怪しいことが起きそうならそれを未然に防いだりだな」
「ふーん……なるほどなー」
「後は目の前で犯罪が起きたら犯人をとっ捕まえるのも仕事だぞ」
アレンが補足を入れた。
現行犯逮捕のエキスパートの言葉には重みを感じる。
「お前の名前、言いづらいから『アル』でいいか?」
「構わねえぞ。猫って呼ばれるよりよっぽどマシだからな」
そうかよ。
アルは急に立ち止まった。
彼女の視線の先には果物屋がある。
「果物屋の主人、ちょっといいか?」
アルが果物屋の主人に声をかけに行った。
早速何か情報集めでもするんだろうか。
「あぁ!?お前盗賊の猫じゃねえか!?何しに来やがった!?」
主人はアルの顔を見るなり顔をしかめて喧嘩腰になった。
元盗賊、しかも結構顔の知れている存在だった。
早速誤解を受けている。
「今のウチはクルセイダーだから何も盗ったりしねえよ。それよりもよ、この店、品物の並べ方を考え直した方がいいんじゃねえの?」
「なんでだ?」
アルは店主に何かを教えようとしているらしい。
俺とアレンは彼女を見守ることにした。
話がこじれたらフォローしに行こう。
「だってよ、見た感じ売り子がいねえみたいだし、アンタが一対一でやり取りしてるんだろ?つまりアンタがやり取りしている間は誰も目を付けてるやつがいなくなる。おまけに店の脇からも品物が盗れるようになってるし、監視の目が足りねえからこれじゃ盗んでくれって宣伝してるようなもんだぞ。なあ牛!ちょっとここに立ってみてくれねえか?」
アルはアレンを呼びつけた。
「お、おう」
呼ばれたアレンは渋々アルが指定した場所まで移動する。
「そこでアンタが突っ立ってやり取りしてる間に……」
「ホラ、こんな風に簡単にモノが盗られちまうんだ」
なるほど。
盗賊じゃないと考えないような発想だな。
アルは実演してくすねた果物をすぐに主人に投げて返した。
「アンタ、今ウチがくすねたことに気づいたか?」
「いやぁ、さっぱりだったな」
「だろう?簡単に盗られたくなければ正面からしか入れないように店の脇に壁を作るか、新しく売り子を雇うかでもするんだな」
「それは盲点だったな。考えとくよ」
アイツ、スイッチが切り替われば意外とまともな奴だな。
「お前、思ったよりも真面目な奴なんだな」
「気まぐれだよ気まぐれ。ウチの盗賊としての経験を活かしてやろうと思っただけ」
気分でいいことをするって言うのがなんともまた猫っぽいな。
というかコイツ猫だったわ。
その後もアルは商店の抜け目を見つけてはそれを指摘して回っていた。
これがしっかりと反映されれば窃盗の被害は減っていくだろう。
元盗賊という経歴がこんな風に活かされるとは考えられなかった。
「お前ら、今までずっと盗人対策してなかったのか?」
「まあ、泥棒側の見方なんで分からなかったからな……」
「そんなだから泥棒が減らねえんだよ」
元盗賊からの指摘がとても耳に突き刺さる。
巡回が終われば昼休みだ。
アルは午後からは俺たちと別行動になる。
今のうちに気になることを質問してみよう。
「お前さ、服役中はグレイさんとどういう関係だったんだ?」
「たまーにウチと面会に来てくれてさ、いろいろと差し入れしてくれたぞ。おかげでウチは字が読めるようになったしな」
あー、あの人ならそういうことやりそうだな。
「こうしてちゃんとした仕事もくれたし。怖え顔してるし口も悪いけど、なんだかんだいい奴だ」
それに関しては俺たちも重々わかっている。
俺もここに入ったばかりのころはいろいろお世話になったし今でも助けられている。
だが口の悪さに関してはお前の言えたことではない。
「じゃあそろそろウチは移動するから。じゃあな!」
俺たちに別れを告げるとアルは飛ぶように消えてしまった。
相変わらず動きの速い奴だ。
そういえば、アルの面倒はグレイさんが見るって言ってたよな。
ということはあの二人はプライベートでも一緒ということなんじゃ……
滅茶苦茶気になるぞ。
今度覗いてみよう。




