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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第6章 ミラを巡る戦い
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エピローグ 和解調書

 あれから数日。

 泥沼の戦いの禍根を忘れたように俺たちは元の生活に戻っていった。


 ミラは元の明るさを取り戻してまた学校に行けるようになったし、友達との交流も前より増えたらしい。

 レオナルドさんはヴィヴィアンさんと話を続けると言ってこちらへ戻っては来なかったがあの人ならきっとうまくやってくれるだろう。


 そんなある日、俺たちの元に一通の手紙が届いた。

 差出人はレオナルドさんだ。

 そしてその内容は……


 「和解?」

 「ああ、二日前に裁判所で正式に調停されたんだってよ」


 そう、ヴィヴィアンさんとレオナルドさんの間で和解が成立したのだ。

 つまり、もう争うことはなくなったのだ。


 「互いに親権停止はなし、ミラに関しては現状を維持、訴訟費用は原告と被告で折半……」


 オズが和解条件を読み上げた。

 現状維持ということはミラはこのまま俺たちの元で暮らしていけるということだ。

 恐らくヴィヴィアンさんの方から手を引いてくれたのだろう。


 「そして被告側は三十日に一度原告へミラの様子を書面あるいは会談で報告し、一年に最低でも一度ミラとの面会をする機会を与えよ……だってさ」


 これはきっとレオナルドさんの温情だろう。

 本当に極端で不器用な夫婦なんだなぁ。


 「しかし、今考えるとヴィヴィアンさんもかわいそうな人だよなぁ」

 「どうして?」


 「だってさ、本人はいたって真面目にミラのことを思ってああしたわけだろ。なのにミラからは受け入れられなくて、結果的に自分の元から離れて行っちゃってさ」

 「うーん、それもそうかもねぇ……」


 でも、ヴィヴィアンさんの教育によってミラの中に育まれたものがあるのも事実だ。

 例えば知識に対する探究心がそうだ。

 本人は自覚していないだろうけれど、きっとそれはヴィヴィアンさんによって育まれたものだろう。

 彼女の教えは確かにミラの中で生きている。


 それにしても穏やかな日だ。

 こういう時は全員揃ってどこかへ出かけるのもいいだろうか。

 そうだ、いつか前にミラと交わした約束を果たそう。


 「本当に覚えててくれたんだ」

 「俺がお前との約束を忘れたことなんてあったか?」


 俺たちはとある飲食店に訪れた。

 そこは俺とミラが初めて出会った場所だ。


 「ここに来る約束してたの?もっといいところなら他にもあるじゃない」


 オズが不思議そうに首を傾げている。

 そういえばこのことは話したことがなかったっけ。


 「ここはな、俺とミラが初めて出会った思い出の場所なんだ」

 「へぇー……ってマジで!?」


 オズはかなり驚いている。

 

 「本当だよ。ここで一緒にご飯を食べたの」

 

 その通り、俺たちのすべてはここから始まった。

 

 「じゃあ、約束通りに何か食べるか」


 思えば久々の外食だ。

 数十日ぶりぐらいか。


 店の雰囲気は前に入った時から全く変わっていなかった。

 一年ほどしか経っていないのにすごく懐かしさを感じる。


 そうそう、こんな感じのにミラと向かい合って座ったなぁ。

 ゆるーい雰囲気の店員が注文を伺いに来て……


 「いらっしゃいませー。ご注文がお決まりになりましたら呼び鈴を押して呼んでくださいねー」


 そうそう、こんな感じの雰囲気の。

 ちょっと待て、あれ当時の店員じゃないか?


 「あの人って前もミラたちのところに来た人だよね……?」


 どうやらミラも同じことを考えているらしい。

 

 「常連でもないのによく店員の顔なんて覚えてるわね」

 「なんていうか、特徴のある人の顔って一回見ただけでも結構覚えてるもんだからさ」


 あの独特の緩い雰囲気はなぜか印象に強く残る。

 向こうの世界で言うところの『ゆるふわ系』って奴だろうか。


 「何食べよっかなー」


 オズは品書きに目を通している。

 

 「俺たちにもそれ見せろ」

 「はいはい」


 オズはテーブルのど真ん中に品書きを広げた。

 身を少し乗り出して俺たちはそれを覗き込む。


 「懐かしいなぁ。ミラが食べたのはこのハンバーグだったよな」

 「トモユキが食べたのはワイバーンのステーキ!」


 ミラも俺のことをよく覚えていた。

 俺たちが思い出話で盛り上がる一方で当時のことを知らないオズがニヤニヤしながらそれを聞いている。

 

 「二人はここで出会って、それからどうしてたの?」

 「俺がこっちで暮らすための生活用品を買って、ミラが一緒に暮らすようになって…」


 俺はオズにミラと出会ったときのことを語った。

 とはいってもオズも結構早い段階で同居することになったからそれほど語ることもないのだが。


 人生は絶えず何かとの出会いを繰り返すことで成り立っている。

 でも、一度出会った何かとの関係が続いて行くことは何気ないようで実は奇跡にも等しいことだ。

 俺はこの世界でミラと出会い、関係が繋がってこうして今も一緒にいることができている。

 さらにはミラから繋がってオズも一緒にいる、なんてすばらしいことだ。


 ちょっと変わった成り立ちをした俺たち家族の繋がりを絶とうとする者はもういないだろう。

 これからもきっと、俺たちの生活はこうして続いていく。


 

今回で6章は完結です。 

次回から7章に入ります。

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