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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第6章 ミラを巡る戦い
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おじさんの試み

 俺はとあることについて考え込んでいた。

 どうしてヴィヴィアンさんは一年以上経った今になってミラの親権を取ろうとしてきたんだろうか。


 まず一つはミラの足取りが掴めなかったというのはあるだろう。

 レオナルドさんが上手く隠していたし、一見すれば何の関係もない一般人の俺のもとでミラは暮らしていた、発見が遅れるのは当然のことだろう。


 そもそもヴィヴィアンさんは何を考えてミラにトラウマを植え付けるほどの教育を施していたんだろう。

 ただ娯楽的にそうしていたわけではないはずだし、彼女なりの思惑というものがあるはずだ。

 いったい何を考えて裁判を起こしたんだろう。


 こういうことはいくら考えたところで真相がわかるはずがない。

 やはり直接確かめるべきなんだろうか。


 確か、ヴィヴィアンさんは国王の子息の教育係をしていると言っていたな。

 どうやってアポを取ればいいんだろう。

 ヴィヴィアンさんと対等の立場の人間に頼むしかないだろうか。

 身近にいる中で対等の立場の人間と言えば……


 「ヴィヴィアンと直接話がしたいって?」

 

 レオナルドさんしかいない。

 彼に頼めば、もしかすると対話が実現できるかもしれない。


 「たぶんしてくれるとは思うけれど……どうして話をしたいと思ったのかな?」

 「訴えを起こした思惑が知りたいんですよ。どうして今になって親権を主張してきたんだろうって。だって、ミラが見つからなくたってレオナルドさんを直接訴えていればもっと早く裁判ができたんじゃないですか?」

 「ふむ……確かにそうだね」


 レオナルドさんも俺の言いたいことをなんとなく察したようだ。


 「だから、ヴィヴィアンさんの意図が知りたいんです。もしかすれば平和的な解決につながるかもしれませんし」

 

 和解っていうんだっけか。

 お互いに納得できる解決法があるのならばそれを選ぶに越したことはない。


 「平和的な解決……か」


 レオナルドさんはどこか遠い目をしながら呟いた。 

 彼もできることならそうしたいのだろうか。


 「わかった、掛け合ってみよう」


 レオナルドさんは紙とペンを取り出し、手紙を書き始めた。

 そして数分後、びっしりと文字が敷き詰められた手紙が完成した。


 「こういうことは相手にもできるだけ早く伝えられる方がいいからね。使い魔に頼もう」


 レオナルドさんの使い魔か。

 ある程度の魔法使いなら誰でも持っているという話をオズから聞いたことがあるがオズ以外の使い魔を見るのは初めてだ。


 レオナルドさんが肘を水平に曲げ、腕を持ち上げるとそこに掴まるように大きな真っ白い鳥が現れた。

 鷹、あるいは鷲にそっくりだ。


 「この手紙をヴィヴィアンの元へ届けてくれ、できるだけ早く頼むよ」


 レオナルドさんからの命を受け、手紙の入れられた封筒を掴むと鳥は王国目指して飛び立っていった。

 

 そして二日後、まさかまさかのことが起こった。

 なんとヴィヴィアンさんから返事が来たというのだ。

 その内容は……


 「対話に応じるとのことだよ」


 手紙を読みながらレオナルドさんが俺に報告してくれた。

 まさか向こうも応じてくれるとは思っていなかった。


 「時間と場所は?」

 「秋の四十一日、場所はキャメロット王国の私たちの屋敷だ」


 レオナルドさんの屋敷……つまりミラの実家か。

 込み入った話をするにはちょうどいい。


 「というわけで、ヴィヴィアンさんと話をすることにした」


 夕飯時、俺はミラたちにもその趣旨を伝えた。

 ミラとオズは信じられないと言わんばかりに唖然とした様子を見せる。

 

 「お母さんと何の話をするの?」

 「まあいろいろとな。大丈夫だ、心配することはねえよ」


 「ミラ、一緒に来てくれるかな?」

 

 レオナルドさんがミラに声をかけた。

 まさかヴィヴィアンさんと対面させるつもりなんだろうか。

 対するミラは何も答えない。


 「お母さんに会わせようとは思ってないよ。でも、ミラも何かやりたいことがあるんじゃないかな?」


 レオナルドさんは穏やかにミラを諭した。

 その口ぶりはまるでミラの胸中を悟っているかのようだ。


 「……もう一度シャロンに会いたいな」


 ミラは静かにそう言い放った。

 シャロンというのはミラが家出をする前に慕っていた使用人だ。

 彼女は現在もマーリン家の使用人として働いているらしい。


 「会ってどうしたいの?」

 「もう一度お話がしたいの。ここに来てからのこともいろいろ聞かせてあげたくて」


 なるほど、そういうことか。


 「王国の家に戻ればシャロンに会えるかもしれない。無論お母さんと会うこともあるかもしれないけれど、その時は私たちが守ろう」

 「一緒に来てくれるかい?」


 ミラは黙って首を縦に振った。

 彼女が一大決心をしてくれたんだ、それを無碍にするわけにはいかないな。


 「ありがとう」

 「ミラの方はアタシが見るから、アンタたちはヴィヴィアンさんと話をするってことでいい?」

 

 脇から話を聞いていたオズがプランをまとめ上げた。

 それで問題ないだろう。

 というよりもオズがいないと王国に行くまでにかなりの時間がかかる。


 そして来る秋の四十一日、俺たちはキャメロット王国へと訪れた。

 

 「これがマーリン家の屋敷……」


 俺は初めて訪れるミラの実家の外観に圧倒された。

 オズの屋敷とはまた異なった雰囲気に満ち満ちている。


 さあ、いよいよヴィヴィアンさんとの対談だ。

 彼女の意中を明らかにしようじゃないか。


 

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