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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第6章 ミラを巡る戦い
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閉ざされた心

今回はタカノ視点の話です。

 あれからというもの、ミラが俺たちに対してどこか懐疑的になってしまった。

 証人喚問の一件がかなり精神的にキテいるらしい。


 ここ数日は学校に行くのも拒否して自分の部屋にずっと閉じこもっている。

 もうこれで四日目だ。

 ミラのことだから成績面での遅れはまだないと思うが外に出ないのはやはり心配だ。


 『家庭のいざこざなんて俺たちが口出しできるもんじゃねえからなぁ』

 『冷たいこと言うかもしれねえけど、そういうことって結局自分で解決するしかないんじゃねえの?』


 グレイさんやアレンにも相談してみたがまるでお手上げ状態だ。

 俺にもどうすればいいのかまるでわからない。


 そんな一方で一昨日から我が家に少し変わった来客が訪れるようになった。


 「あの……お邪魔します」

 

 夕飯前ぐらいになるとイズナ君が家を訪ねてくる。

 その日の授業内容、学校での出来事、近日中の催し事などを教えてくれる。

 近くに同じ学校に通う子供がいないから俺たちはその情報に大いに助けられている。


 「ミラちゃん、まだ来られそうにないですか?」

 「うーん、難しいかもしれないな」


 イズナ君にはミラの事情ははっきりとは教えていない。

 教えなくてもいずれはバレそうだけれども。


 「そうですか。早く元気になるといいですね」

 「そうだな……」


 純粋な気遣いだとは思うけれども胸が痛くなる。


 「そういえば」

 「なんだ?」

 「おじさんのところのドラゴン、すっかり大きくなりましたよね」


 イズナ君は庭にいるクロに視線を移した。

 気が付けばすっかり奴は成体サイズに成長したから今は庭で放し飼いだ。

 立ち上がれば三メートルほどもある巨体で動き回る様は野生だったら戦慄してしまうだろう。

 でもクロは人慣れしているから、わざと怒らせるようなことがない限りそんな心配は必要ない。


 「俺もびっくりしてるよ。はじめは抱きかかえられるぐらい小さかったのにな」

 「そうだったんですか!?」


 イズナ君は驚いている。

 今のクロからは想像もできないだろう。


 「じゃあそろそろ失礼します」

 「いつもありがとな」

 「いいんです。ボクが勝手にやってることですから」


 イズナ君は今日もミラの姿を見ることもなく帰ってしまった。

 悲しいことだが今は学校がらみの情報は彼(?)に頼るしかない。

 いずれはまたミラと顔を合わせられる日が来るんだろうか。


 「もう四日も経ったのに、まだミラは一緒にご飯食べてくれないわね……」


 食卓でオズが寂しそうに呟いた。

 いつもならミラが座っているはずの椅子には誰も座っていないし、彼女の分の料理が誰にも手を付けられることなくただ置かれている。

 俺たちが食べ終わったら冷めないうちに持っていってやろう。


 「相当重症だな」

 「信頼していた人に裏切られることを経験するにはあの子はあまりにも幼すぎたんだ」

 

 レオナルドさんの言う通りだ。

 同じ体験をしていたら今の年齢の俺でもかなり来るものがあるはず。

 

 ミラの部屋の扉をノックした。

 返事は何もない。

 わかりきった反応ではあったがなんだか寂しさを覚える。


 俺はゆっくりと扉を開けて部屋の様子を覗き見た。

 ミラはベッドの上にいて、何やら本を読んでいる。

 閉じこもっていてもやっていることは根本的には変わっていない。


 「ご飯、ここに置いとくからな」

 「うん……」


 ここ最近はずっとそうだが今日は特にミラの声に元気がない。

 

 「ずっと部屋にいると病気になっちまうぞ。たまには外の空気を吸ったらどうだ?」

 

 部屋に閉じこもってばかりだと運動不足が心配だ。

 学校に行ってほしいとまではいわないがせめて外の空気を吸ってほしい。


 「ねえトモユキ……」

 「なんだ?」

 「なんだか身体が熱いの……」


 マジか。

 言ってた矢先にそれか。


 「ちょっとデコ出してみろ」


 ミラの額に手を当てて熱を測った。

 僅かだが熱っぽい。

 これは参ったなぁ。

 さすがにこの時間になると薬屋は閉まっているだろうし、我が家には常備しているような薬はない。

 二十四時間営業の店が存在しない不便さを痛感せずにはいられない。

 

 「確かにちょっと熱っぽいな。寒気とかはないか?」

 「ううん、大丈夫」


 よく見ると顔も少し紅潮している。

 寒気はないみたいだし、ストレスからくる発熱だろうか。


 「ごめんな。薬屋はもうやってないし、今日のところはこれで我慢してくれ」


 事情を話してオズに枕を氷嚢に変えてもらった。

 一晩冷やすにはちょうどいいはずだ。


 「熱っぽく感じたのはいつからだ?」

 「今朝から……」


 ということは俺が仕事に行った後か。


 「オズやレオナルドさんには言ったか?」


 ミラは黙って首を横に振った。

 そりゃそうだよな、初めて知ったのがついさっきの俺なんだから。


 「言えなかったのか」

 「……」

 

 ミラは黙ったまま今度は縦に首を振った。

 

 「部屋に閉じこもってていつものように話をしづらいのはわかるけどそういうことは早めに言わないとダメだぞ。俺たちは何があってもミラの味方だから絶対にお前を見捨てたりはしない。だから、もう少しだけ俺たちを信じてはくれないか?」


 今の状態のミラを叱ったってどうにもならない。

 むしろ心身共に弱っているところへ追い打ちをかけて状態を悪化させかねない。

 

 「お姉ちゃんも、お父さんも怒ってないかな?」

 「大丈夫だ。二人ともお前のことを怒ったりしてない」

 「そう、それならいいの」


 「飯は食えそうか?」

 「少しぐらいなら」

 

 食欲があるなら大丈夫だろう。

 ひとまず今晩は様子見だ。


 「無理して全部食べなくてもいいからな。食べ終わったら机の上に置いておいてくれ」

 「わかった、おやすみ」


 俺はミラの部屋から退室した。

 早く回復してくれるのを待とう。


 「で、容体はどうなの?」

 「今のところは微熱だから何とも言えねえな。上がるかもしれないし下がるかもしれない」


 オズにミラの様子を伝えた。

 それはそうとレオナルドさんがさっきから何やら台所でうごめいている。


 「何してるんですか?」

 「薬学のことを思い出してね……何か栄養の摂れる薬を作ろうと思っているんだが……」


 すごく胡散臭いけどレオナルドさんが言うなら大丈夫な気がする。

 我が家にあるものだけで作れるのだろうか。


 「作り方教えなさいよ。アンタ料理したことなさそうだしアタシたちがやるわ」


 普段は面倒くさがるオズが珍しくやる気を出している。

 ミラのためとなれば話が変わるのだろう。


 作業開始から約一時間後、レオナルドさんの知識に基づいた栄養剤が出来上がった。

 一応味見もしたが薬というだけあってかなり不味い。


 「さて、後はこれを固めて……」


 レオナルドさんは魔法で鍋の中の栄養剤を固めて丸薬へと作り替えた。

 あとはこれを何錠かミラに飲ませれば回復に向かってくれるはずだ。


 待てよ。

 何錠飲ませればいいんだろう。

 

 「なんで固まってんの?」

 「どれぐらい飲ませればいいんだろうって思ってさ……」


 薬の適量というものは服用者の体重で決まる。

 俺が飲むのとミラが飲むのでは容量がまるで違う。


 「うーん……ミラぐらいなら二錠程度でいいんじゃないかな」


 本当ですか。

 俺信じますからね。


 「ミラ、まだ起きてるか?」

 「うん、なぁに……?」


 ミラは潤んだ目を擦りながら返事を返した。

 うとうとしていたところを起こしてしまったようで申し訳ない。

 

 「これ、お前のためにレオナルドさんが作ってくれたぞ」

 「お父さんが?」

 「そう、これを作るためにオズも協力したんだ」


 これもすべてはミラに早く体調を回復してほしいという俺たちの一心でやったことだ。

 俺たちの思いが一欠片でも伝わってくれればいいんだが……


 ミラは丸薬を二錠口の中へ入れた。

 すぐに伝わるすさまじい苦みに思わず顔をしかめている。


 「水で流し込め、普通に飲むより楽だぞ」


 そう言って水を差しだすとミラはすぐに手に取って飲み始めた。

 錠剤はだいたい水と一緒に飲むのが基本だ。


 「ぷはっ……」


 よほど急いで飲み込んだのだろう、丸薬を飲み込んだミラは勢いよく息を吐きだした。


 「これですぐによくなる?」

 「ああ、きっとすぐによくなるさ」

 「……ありがとう」


 久々に聞いたミラからの感謝の言葉。

 こちら側としてもやりがいがあるってものだ。


 「寝ようとしていたところを起こしてごめんな。今度こそおやすみ」


 不幸中の幸いといったところか、ミラは熱を出してしまったがそれがきっかけで俺たちの思いはそれとなく彼女に伝えることができた。

 元気になればミラはあの明るさを取り戻してくれるはずだ。

 そうすれば、また外に出て学校にも行けるようになるかもしれない。


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