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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第6章 ミラを巡る戦い
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二度目の証人喚問

今回は途中まで三人称視点の話です、後半からタカノ視点になります。

 秋の二十九日、キャメロット王国にて二度目の証人喚問が行われた。

 今回はタカノやクラリスは傍聴に来ていない、レオナルド一人だ。


 「では、開廷します」

 「今回は、原告側の証人喚問から始めます」

 

 「証人、前へ」


 ヴィヴィアン側の証人が証言台へと立った。

 その姿はレオナルドにとって見覚えのあるものだった。


 「シャロン・ラクス、二十七歳。マーリン家の使用人です」


 レオナルドは彼女のことをよく覚えている。

 忘れもしない、ヴィヴィアンが教育を本格化した頃にミラが一番懐いていた使用人だ。

 彼女は当時のミラのことを知り尽くしているといってもいい。


 「原告代理人、尋問を開始してください」

 

 裁判官の言葉を受け、ヴィヴィアンの弁護人がシャロンの隣へと移動した。


 「シャロンさん、貴方はマーリン家の使用人とのことですが娘さんとの接触経験はありますか?」

 「ミラちゃんは家出をするまではよく私にくっついて甘えていました。とても愛らしかったのを覚えています」

 「つまり、ヴィヴィアンさん以上にミラさんのことを近くで見ていたということですね」

 「はい。自分で言うのはおこがましいかもしれませんが、当時は一番ミラちゃんのことを見ていたという自負があります」


 「では、当時の様子を教えていただけますか」

 「ミラちゃんは勉強が好きな子で、私のところにやってきてはその日覚えたことを楽しそうに聞かせてくれました」

 「そんな彼女が実は勉強を嫌がっていたと聞かされていたとしたら、信じられますか?」

 「いえ、とても信じられません」

 「ヴィヴィアンさんの教育が間違っていると考えたことは?」

 「あんなに楽しそうな話を聞かせてくれたのに、それが間違っているとは思えません」


 「娘さんは学習することに対して喜びの反応を見せたとおっしゃっています。果たしてそれが間違った教育を施された子供の反応だと言えるでしょうか。以上です」


 ヴィヴィアン側の弁護人はシャロンに対する尋問を終えた。

 レオナルドは軽く顔をしかめた。

 シャロンの証言に一切の嘘偽りがないことを雰囲気から感じ取ったのだ。

 そして、これから行われる反対尋問の内容が彼女を大きく揺さぶることになるであろうことも察知している。


 「被告代理人、反対尋問を」

 「はい」


 レオナルド側の弁護人は軽く呼吸を整え、静かに立ち上がった。

 

 「シャロンさん、貴方はミラさんと最も身近な関係にあったようですね。二人の仲睦まじい関係が目に浮かぶようです」

 「ありがとうございます」

 「よくミラさんから話を聞いていたそうですね。時にはつらいこと、苦しいことを打ち明けられることもありそうなものですがそれについてはいかがですか?」

 「確かにそういうこともありました、ですがそれは微々たるもので……」

 「その中には『ヴィヴィアンさんの振る舞いについて』の話があったのではありませんか?」


 シャロンの目が泳いだ。

 その瞬間を見逃すことなくレオナルド側の弁護人は尋問を続ける。


 「答えられないのですか?決していい話ばかりを聞いていたのではありませんよね?」

 「それは……」


 シャロンは口から出かかった言葉が出せずにいた。

 それと同時にここへやって来る前の出来事が脳裏を過る。


 『貴方には私に有利な証言をしてもらいたいのです』

 『元使用人の私にできることがあるのでしょうか?』

 『貴方が味方してくださればミラが私たちの元へ帰って来る可能性があります。また、一緒にいられるようになるかもしれません』

 『私が……またミラちゃんと一緒にいられるのですか?』

 『ミラが戻ってきた暁には貴方を再度使用人として雇うことも検討しましょう』


 自分の知っていることを口にすればヴィヴィアンを裏切ることになる。

 裏切ればミラと再び一緒にいられるかもしれないという希望も断たれるかもしれない。

 そう考えると質問に答えることはできなかった。


 「あなたはミラさんからいろいろな話を聞いていたんですよね?悪い話は記憶にないのですか?」

 「異議あり。同じ質問を繰り返しています」

 「認めます。被告代理人は質問を変えてください」


 ヴィヴィアン側の異議が認められ、裁判長は質問の変更をレオナルド側の弁護人に命じた。


 「では質問を変えます。当時マーリン家の使用人は貴方に限らず複数名いたはずですが、その中でなぜミラさんは貴方に懐いていたのだと思いますか?」


 「偶然……でしょうか」

 「当時敷かれていたヴィヴィアンさんの教育方針に対して娘さんが零す弱音に唯一、貴方が理解を示していたからではありませんか?」


 (シャロンさん……すまない……)


 レオナルドは尋問の様子を直視することができなかった。

 シャロンが何を考えているか、胸の内に何を抱えているか想像がつくのだ。

 

 「当時、新人使用人であった貴方はヴィヴィアンさんの教育方針をあまり信用しておらず、その教育対象であったミラさんにて同情し理解を示した。他の使用人が冷たく聞き流すように対応していたのに対し、貴方だけが娘さんの話を親身に聞き、励ますように温かい言葉を返した。だからミラさんは貴方に懐いたんです」


 シャロンは思わず両目を手布で覆った。

 ミラに対する思いが思わず口から溢れそうになるのを必死になって堪えた。


 「最後にもう一度質問させてください。当時のヴィヴィアンさんの教育方針に対して本当に異はありませんでしたか?」

 「……」


 シャロンは震える口をゆっくりと開いた。


 「……ありました。ですが、当時は私以外は誰も誰も異を唱えなかったので逆に私が間違っているのかと錯覚してしまい、公に口にすることはできませんでした」

 「ありがとうございます。以上です」


 喚問後、シャロンは膝から崩れ落ちた。


 ――――――――


 「ヴィヴィアンは証人にシャロンを駆り出してきた。向こうも本気だね」

 「確かシャロンってミラが一番懐いてた使用人だったわね」


 マジか。

 ミラが知ったらショック受けるだろうなぁ。


 「相手が情に訴えてくる戦法を取って来たんだ」

 「いくら裁判官とはいっても我々と同じ人間だ。感情を揺さぶられたら判決に影響する可能性もある」


 判決基準ガバガバじゃねえか。

 司法の権化たる裁判官がそれでいいのかよ。

 

 「じゃあ、どうやって対応する?」

 「野暮なことをするかもしれないが、こちらも情を揺さぶるしかない」


 人情合戦か、裁判所でやるようなことじゃねえなあ。

 これも勝つためには仕方のないことなのだろうか。


 「相手はミラの過去の様子を詳細に語って揺さぶりをかけた。なら今度は現在のミラの様子を語ればいい」

 「現在のミラのことを知ってる人間は……」

 「君たちのことだね」

 「つまり、俺たちに証人になってくれと」

 「そういうこと。協力してくれるかな?」


 こうなることになるかもしれないという覚悟はあったけれど、まさか現実になろうとはな。

 

 「アタシたちが出ればいいのよね?」

 「頼む、君たちの力を貸してくれ」

 

 オズはもうその気になっている。

 俺も気持ちを切り替えないとな。


 「シャロンがお母さんに付いたって、本当なの?」

 

 その晩、ミラに尋ねられて俺は心臓が止まりそうになった。

 どうやら俺たちの話をこっそり聞いていたらしい。


 「俺は直接見ていたわけじゃないからわかんねえけど……レオナルドさんは確かにそう言ってた」

 「どうしてシャロンが……」

 「たぶん、ヴィヴィアンさんに何か吹き込まれたんだろ。きっと本当はミラに味方したかったはずだ」

 「ミラに味方したいのに、お母さんの方に付いたの?」

 「あー……大人っていうのはいろいろと難しいんだ」

 

 向こうの事情はわからないし、こう説明するほかにないだろう。

 

 「トモユキたちはずっとミラの隣にいてくれる?」


 マズい、ミラが疑心暗鬼に陥っている。

 なんとかこの場だけでも安心させてやらねえと……


 「心配するな、俺たちは絶対にお前の側にいる」

 

 ベタな言葉かもしれないけれど、ストレートな表現の方が伝わるだろう。

 

 「……ッ!?」


 ミラ、泣いてるのか。

 前に泣いたときもそうだ。

 彼女は誰かが辛い思いをするのを何よりも悲しむ。

 今回は親しかった人間が自分のことで辛い思いをしているのを気にかけているんだ。

 とても七歳の子供の考えることとは思えない。


 「よしよし……」


 今はこうしていよう。

 感情を共有することはできないけれど、一緒にいれば少しぐらいは心が安らぐはずだ。


 この泥沼裁判、いつまで続くんだろうか。

 いや、俺たちが終わらせなければならないんだ。

 そうだ、必ず俺たちの手で終わらせよう。


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