表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第6章 ミラを巡る戦い
77/521

最初の証人喚問

 秋の二十三日、二度目の裁判が開廷した。

 今回からいよいよ証人喚問だ。


 俺は初めてオズと一緒にキャメロット王国へと訪れていた。

 オズが付いていたとはいえ、入国手続きだけで一時間近くも潰れることになるとは思わなかった。

 俺一人で来ていたらもっと時間がかかったのだろうか。


 「ミラはなんで来なかったんだろうな」

 「そりゃあここに戻って来たらヴィヴィアンさんと再会するかもしれないからでしょ」


 それもそうか。

 それにしても会話をするどころか顔も見たくないとはすごい拒絶ぶりだ。


 俺はオズと一緒に裁判所の門壁にもたれかかって時が過ぎるのを待っていた。

 今回の裁判は家庭内でのトラブルが内容であるが故に内縁関係ではない俺たちは傍聴することはできないらしい。

 一応、俺たちにも関係していることだからなんとももどかしい。


 「こっちの証人はどんな人なんだ?」

 「マーリン家の屋敷が立ってる土地の領主よ。周辺事情はだいたい把握してるって言ってたわ」

 

 なるほどな。

 つまり家出をする前のミラのことも知っているというわけだ。


 待てよ。

 マーリン家の屋敷がある土地の領主ということはヴィヴィアンさんの息がかかっている可能性もあるわけで……


 「その証人、ちゃんと信用できるのか?」

 「心配いらないわ、裏切ればすぐに刺客を送り込むから」


 さらっと怖いこと言うよなぁコイツ。

 オズ派は傭兵とかの武闘派が多数いるっていうのは知ってるけどまさか殺し屋までいるんじゃないだろうな。


 裁判の様子はどうなっているんだろうか。

 なにはともあれ、今はそれが特に気がかりだ。


 ――――――――


 「証人、前へ」


 裁判官に呼び出され、一人の男が証言台へと立った。

 

 「ガレス・ウェル、四十四歳。アバロン地方の領主を務める騎士です」


 証人、ガレスの自己紹介に裁判官たちはどよめいた。

 騎士はキャメロット王国において国王、王妃に次いで高い権威をもつ身分であり、このような場所には滅多なことがない限りはまず現れないのである。


 「では被告代理人、尋問を開始してください」


 レオナルド側の弁護士が尋問を開始した。


 「ガレス様。まずは今回この場に出て頂き感謝します」

 「貴方の管轄であるアバロン地方にはマーリン家の屋敷が所在していますね」

 「はい」

 「ということはマーリン家の様子も知っていらっしゃるということですね。当時の様子を御自身のわかる範囲でお話していただけますか」

 

 弁護士に促され、ガレスは当時の様子を語り始めた。


 「私は魔法使いではないのでその内容こそ存じませんが、数年前からヴィヴィアンさんが娘さんに対して厳しい教育を行っていたとは領内では有名でした」

 「彼女の教育風景を実際に見たことはありますか?」

 「二年前、一度マーリン家の屋敷を通りかかった際に娘さんが大泣きしながら飛び出そうとしたのを使用人たちと共に取り押さえるヴィヴィアンさんを見ました」

 「なぜ、娘さんはそのような行動を起こしたのだと思いますか?」

 「恐らく、ヴィヴィアンさんからの仕打ちに嫌気がさしたんだと思います」

 「以上の点から、ヴィヴィアンさんの教育に対してどのように考えますか?」

 「我が子を立派に育て上げようという理想を持つのは親として当然だとは思いますが、それを子供の意思に反して日常的に押し付けるのはかえって悪影響を及ぼすかと」

 「その悪影響として娘さんが家出をする事態へと発展したのでしょうね。以上です」


 ガレスは自分の知る限りの当時のマーリン家の様子を供述した。

 それはヴィヴィアンが日常的にミラに対して行っていた教育の厳しさを物語っていた。


 「原告代理人、反対尋問は?」


 裁判官からの言葉を受けたヴィヴィアン側の弁護士が立ち上がってガレスの方へと歩み寄った。


 「ガレス様、ヴィヴィアンさんの様子を語っていましたが当時のレオナルドさんのことはご存知ですか?」


 その質問を受けたガレスは一瞬表情を固めた。

 

 「その点に関して私から補足いたします。レオナルドさんは当時から王国の外に出向いていることが多く滅多に帰ってくることがありませんでした。ガレス様の目に映らないのはやむを得ないかと思われます」


 ガレスが開けた間を埋めるようにレオナルド側の弁護士が補足を入れた。

 

 「では、当時のレオナルドさんの様子はご存じないということですね?」

 「はい」

 「では質問を変えます。ガレス様は現在お子様をお持ちですね?」

 「異議あり、本件とは無関係です」

 「関係あります。家族に対する感情に関する質問です」


 レオナルド側の弁護士の異議の申立をヴィヴィアン側の弁護士が遮った。


 「続けてください」


 異議は却下され、反対尋問の続行が命じられた。


 「はい、息子が二人」

 「そのようですね。しかも長男は貴方様と同じ騎士を志していられるようで」

 「その通りです」

 「長男のご教育には当然貴方も関わっているんですよね?」

 「はい」

 「どのような教育をなされていますか?」

 「騎士としてあるべき姿を座学で教えることに始め、剣術の指導などを…」

 「見事なものですね、時には反発を受けそうなものですが」

 「確かに反発を受けることもあります。その都度説得を行い、意識を改めさせています」

 「ヴィヴィアンさんも同じことを行おうとしていたとは考えられませんか?」

 

 ガレスは完全に固まった。

 レオナルド側の弁護士も補足の余地がなく硬直する。


 「では、最後に確認させてください。騎士を志したのは息子さん自身の意思ですか?それとも貴方様がそうさせたのですか?」

 「……息子自身の意思です」

 「以上です」


 ヴィヴィアン側の弁護士は反対尋問を締めくくった。

 レオナルド側の弁護士は悩まし気に頭を抱えている。


 「続いて原告側、証人尋問を要求します」

 「認めます。ですが今回は時間が押していますのでいったん閉廷し、次回は原告側の証人尋問から開始しましょう」

 「今回はこれにて閉廷します」


 こうして一度目の証人尋問は終わった。


 ――――――――


 もうどれぐらい待ったかな。

 そろそろオズとの会話で暇を潰すのも限界が来たぞ。

 

 「あっ、来たわ!」

 

 何かを見つけたらしいオズがその方向を指さして声を上げた。

 その方向を見ればレオナルドさん、と一人の女性の姿が。


 「どうだった?一度目の証人喚問は」

 「ガレス様は打ち合わせ通りに証言してくれたけど予想外の場所を責められたよ。まだ相手の証人が残っているし、状況はあまり芳しくないね」

 「そうですか……」


 それなら仕方がない。

 裏切ったわけではないだろうからオズ派に首を狙われることもなさそうだし、そこは少し安心した。


 「オズ家の当主様がなぜこちらへいるのでしょうか」


 レオナルドさんと並んでいた女性に声をかけられたオズの表情が一瞬で緊張で歪んだ。

 

 「傍聴しに来たんですよ。直接見られないのが残念でなりません」


 マジかよ、あのオズが敬語を使ってるぞ。

 まさかこの人って……


 「ヴィヴィアン、次回はこちらも存分に行かせてもらおう」

 「望むところです」


 短く言葉を交わし、女性はどこかへと行ってしまった。

 レオナルドさんは彼女を『ヴィヴィアン』と呼んでいた。

 ということは……


 そうか、あの人がミラの母親か。

 話には何度も聞いていたが実際に姿を見るのは初めてだ。

 マーリン家の人間であると一発でわかる銀色の髪をしているが彼女の髪色は少し青みがかっていた。

 ミラやレオナルドさんは水色の瞳をしているのに対してヴィヴィアンさんは黄色の瞳をしていた。

 肌は白かったがレオナルドさんに比べればずいぶんと健康的な色だ、というかレオナルドさんが白すぎるだけか。


 よく見るとオズの魂が抜けかけている。

 こんなになってるの日本で初めて電車に乗った時以来だぞ。


 「なんでそんなに緊張してるんだ?」

 「だって、あの人の雰囲気超苦手なんだもん……」


 わからなくもないぞ。

 ああいう冷たい雰囲気の女の人はどことなく会話がしづらい。


 「一度戻ろう。今後の作戦の話をしたい」


 レオナルドさんの意思に基づいて俺たちは帰ることにした。

 

 今後の作戦か、まずは展開を巻き返すところからだろうな。

 どうすればいいだろう……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ