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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第6章 ミラを巡る戦い
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子供の幸せ

 「なあアレン」

 「なんだ?」


 巡回警備中、俺はアレンに悩み事を持ち込んでいた。

 悩みの解決につながることはあまりないけれど一緒になって考え、そして自分なりの意見を示してくれる。

 アレンほど相談相手として頼もしい存在はない。


 「『親にとっての』子供の幸せってなんなんだろうな」

 「『親にとって』なぁ……」


 アレンは歩きながら空を見上げた。

 彼は深く物事を考えるときに上を見る癖がある。


 「我が家は奔放な一家だったからなぁ。俺はやりたいようにやれって言われて、好きなようにやってきたらいつの間にかこうなってたって感じだな」

 「そういうお前はどういう風に育てられたんだ?」

 「俺か……」


 俺は親にはあまりいい記憶がない。

 思い出す親の姿と言えば……


 『いいか?お前は黙って俺の言うことに従っていればいいんだ』

 『俺に従っていればお前は将来絶対にいい仕事に就くことができる』


 高圧的な親父のことばかりだ。

 お袋に関することは手料理の味を朧気に覚えている程度だ。


 「結構あれこれ言われてきたなぁ」

 「そうか、お前もいろいろと大変な思いをしてきたらしいな」

 

 「もしかしてさ、お前がマーリン家のガキを養ってるのは『昔の自分と重なる部分がある』からなんじゃねえの?」

 

 アレンに指摘され、俺はミラと初めて出会ったときのことを思い出した。

 家出したことを打ち明けてくれたミラをなんとか安心させようとして俺も似たような境遇だっていう話をしたっけか。

 俺は就職が決まってから家を飛び出していったから事情は違うけれども。

 

 「……かもしれねえな」

 「通りで血のつながりもない赤の他人の子供に肩入れできるわけだ」


 それはあるかもしれない。

 出会ったばかりのころは一人で家出をしたというミラが心配で仕方がなくていろいろと世話を焼いていた。

 でも今は違う、俺自身がミラの成長する姿を見たくて毎日を共に過ごしている。


 「でも子供の未来は親が決めるものではねえよな。そう考えれば俺は恵まれてたのかもな」


 アレンはふと呟いた。

 俺もそう思うがどうにも引っかかるところがある。


 「もし、自分の望み通りに子供が成長することが親の幸せだとしたら……?」

 「そいつは俺にはわからねえ話だな」

 

 レオナルドさんとヴィヴィアンさんが対立する理由に繋がった。

 レオナルドさんはミラが自由に進路を選ぶことを望んでいる、一方でヴィヴィアンさんは自分の敷いたレールにミラが乗ることを望んでいる。


 「お前にとっての子供の幸せってなんなんだ?仮にも子供の面倒見てるんだろ?」


 俺にとってのミラの幸せは……

 わからない、いくら考えても答えは出てこない。


 「わかんねえ」

 「結局のところ、子供の幸せって言うのは俺たち大人には理解できねえってことよ。たとえそれが血のつながった親であったとしてもな」


 アレンの言う通りだ。

 不思議なものだ。

 自分が子供のころに感じていた幸せがなんだったのか、大人になった今はまったく思い出せない。


 子供の幸せってなんだろう。

 もし俺たちが思い描いている幸せがただのエゴで、ミラは違うことを幸せだと考えていたら……

 ああ!もうこのことについて考えるのはやめた!


 「なあミラ、お前はどういうことに幸せを感じるんだ?」


 やはりいくら考えたところで俺一人で答えを出せるはずがない。

 俺あミラに直接聞くことにした。


 「まずはおいしいご飯を毎日食べられることでしょ、こうして好きな本をいっぱい読めること、学校でお友達と一緒に勉強ができること……それに、こうしてトモユキやお姉ちゃんたちと一緒にいられること」

 

 なるほどな。

 つまりは今の日常のありとあらゆることに幸せを感じているわけだ。

 

 「ヴィヴィアンさんのところに戻ったら、同じことに幸せを感じられる自信はあるか?」

 「ない」


 即答だった。

 ミラにとっての幸せは俺たちが側にいて初めて成り立つものか。


 「……そうか」

 「もしかして、戻らなくちゃいけないの?」


 質問の仕方が悪かったか。

 ミラの不安を煽ってしまった。


 「いや、確認しただけだ。だから心配するな」

 

 ミラと話をしているうちに、俺はこの世界に来たばかりのころを思い出した。

 いつの間にかこの家もずいぶんと賑やかになったものだ。

 最初はわけもわからず俺が一人で越してきて、越してきた日のうちにミラが転がり込んで、しばらくしたらオズが居候しに来て……

 家も最初より大きくなったし、今ではレオナルドさんまで滞在している。

 僅か一年の間に起きた出来事とは思えない。

 これもすべてミラと出会ったから起きた出来事だ。


 ミラは俺たちといられることこそが幸せだと言っていた。

 その答えは俺が考えていたことよりもずっとスケールが大きく、俺たち大人が考えるような小難しさなどは何もない。

 もしかすると、ミラにとっての幸せは家族の絆を確かめられることなのかもしれない。


 俺をはじめ、オズやレオナルドさんには家族としての絆がある。

 一方でヴィヴィアンさんにはそれがない。

 レオナルドさんとヴィヴィアンさんに決定的な違いがあるとすればそこだ。

 

 「しかしヴィヴィアンさんもかわいそうよねぇ……アタシですら築けた『家族の絆』がないなんて」


 晩酌をしながらオズがふとぼやいた。

 実の娘に拒絶されるというのは母としてどう思っているんだろう。


 「実の娘に拒絶されるなんてよっぽどのことをしたんだろうな」

 「それにしても、どうして今になってあの人はミラを取り戻そうとしてるのかしらね」


 確かに。

 今はミラが家出を決行して一年以上が経っている。

 レオナルドさんが上手く隠していたというのもあるが行動が遅すぎるような気がする。

 俺だったら我を忘れてすぐにでも連れ戻そうとするだろう。


 「考えが変わったとか?」

 「まあ、なにかしら理由があるのは確かよね」


 ヴィヴィアンさんは何を思って今裁判を起こしたのだろう。

 もしかすると、これが今回のカギなのかもしれない。


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