ミラの夢
今、我が家にはとても珍しい来客がいる。
ミラの実の父ことレオナルドさんだ。
彼の親としての能力のなさを懸念した俺とオズの計らいによってここへ連れてきたのだ。
そんなレオナルドさんは今、あることにとても戸惑っている。
「すごく怒られたよ……どうしてだろうね」
そう、レオナルドさんは実の娘であるミラに対してどう接すればいいのかまったくわかっていない。
毎日顔を合わせているわけではなかったから今の状態に混乱しているのだろう。
女の子の部屋に前置きもなく入ればどうなるかなんてわかりきったことだ。
ミラの場合はこの程度で済むがオズが相手だったらこの家ごと消し飛ばされていたかもしれない。
「あー……部屋に入る前に扉はノックしました?」
まさかとは思うけれど念のために確認はしておこう。
「もしかしてしないといけなかったのかな?」
そんなことだろうと思いましたよ。
まずはそこから教えていかないといけないのか。
「いいですか、年頃の女の子の部屋に入るなら前もって扉をノックするものなんです」
「そうだったのか……知らなかったよ」
「あと、特別な用もなくいきなり入ったらダメです」
こちらの意図とかはすぐに察してくれるのにどうしてそういうところは対応できないんだろう。
「ちなみに、ミラは何をしてましたか?」
「読書をしていたよ。厚さから見るに学術書だね」
やっぱりこういうところは親子だよなぁ。
……学術書?
ということはミラは何か勉強をしていたということだ。
それはもしかして『彼女の夢』にまつわることではないのだろうか。
「今朝はレオナルドさんがいきなり部屋に入ってきてびっくりさせちゃったな」
その後、俺はミラと二人で話をしていた。
レオナルドさんの失敗をフォローするのも俺の役目だ。
「ごめんな、俺が先に注意しておけばよかったんだけど……」
「……」
ミラは何も答えてくれない。
もしかして怒ってる?
「どうしてお父さんがここにいるの?」
話すのを忘れてた。
レオナルドさんがここにいる理由を説明しなければ。
「へえ、だからお父さんがここにいるんだ」
「そういうことだ。わかってくれたか?」
「なんとなくわかったけど、来るなら来るって一言欲しかったな」
ごめんな、俺の急な思い付きでレオナルドさんをここに連れてきてしまって。
ミラの事情を蔑ろにしてしまっていた。
「ところでさっきから何の本を読んでるんだ?」
「医学書だよ」
「医学書!?」
思わず大声を出してミラを驚かせてしまった。
ということは将来は医者になりたいのだろうか。
ちょうどいい、彼女の夢について聞かせてもらおう。
「ミラは将来は何になりたいんだ?」
「ミラはね、お医者さんになりたいの」
やっぱりそうだったか。
いい夢を持ってるじゃないか。
「どうしてミラは医者になりたいと思ったんだ?」
「この前トモユキたちと一緒に日本に行ったときに『てれび』でお医者さんのことをやってたのを覚えてる?」
あー、なんか医療ドラマだったっけ。
よく覚えてたな、俺はすっかり忘れてたぞ。
「その時に見たお医者さんがすごくかっこよくって…それにトモユキの住んでた世界には魔法使いはいないんでしょ?なのに病気を治せるなんてすごいって思ったの」
確かに俺の住んでいた世界に魔法使いは存在しない。
治療魔法を使わずとも魔法使い以外の人間が病気を治せることに感動したのがきっかけといったところか。
「ミラも『てれび』みたいなすごいお医者さんになれるかな?」
「きっとなれるさ。でもそのためにはもっといっぱい勉強しないとな」
「うん。頑張る」
この子ならきっといい医者になれる。
そしてこの世界に大きな変化をもたらしてくれるはずだ。
「レオナルドさんはミラの将来の夢について聞いたことはありますか?」
「ないね。それがどうかしたのかな?」
ミラが寝静まったころ、俺とオズとレオナルドさんは三人で酒を交わしながら談合していた。
レオナルドさんと一緒に酒を飲むのは初めて会った時以来だ。
「何々?聞かせてよ」
オズが興味津々に食いついてきた。
すでに知ってると思ってたけどそうでもなかったんだな。
「あの子、医者になりたいって言ってましたよ」
「なるほど、医者か……」
「あの子らしいわねー」
「いつかは魔法使いじゃなくても怪我や病気を治せるようにするんだって意気込んでました。あの子ならきっとできると思います」
ミラが医者になることができたなら、やがてはこちらの世界の医療技術が俺たちの世界のものに近づくのかもしれない。
いや、きっと魔法と組み合わさってより素晴らしいものになるのかもしれないな。
「もしそうなったとしたら、魔法使いとそれ以外との差も少しは縮まるのかな」
「いいじゃない。アタシ楽しみだわ」
レオナルドさんもオズも魔法使いとその他の人たちの能力差が埋まることを楽しみにしているらしい。
オズはともかくとして、レオナルドさんはこういうことに対して保守的な人だと思っていたから意外だ。
「じゃあ、ミラの夢をかなえられるように俺たちもできる精一杯のことをしようじゃないですか」
「そうね」
「うん」
そのために俺たちができることは一つ、ミラを守ることだ。
「オズは引き続き裁判に有利な情報集めを、レオナルドさんはできるだけミラと一緒にいてやってください」
「アンタはどうするの?」
「俺は、ミラの保護者としてあの子を支える」
「すまない。私が不甲斐ないばかりに」
「だからレオナルドさんにも俺と同じぐらいのことをできるようになってもらいますからね」
自覚があるならばせめて最低限のことをしてくれるようにはなってもらいたい。
そうでないと勝機はないにも等しい。
「私にできるだろうか」
「できます。というかできるようにします」
もうすぐ裁判が始まる。
でも大丈夫、俺たちが力を合わせればきっとこの強大な試練も乗り越えられる。
そんな気がする。




