おじさん一家と狐の子
裁判が始まるまで残り数日。
そんなこともいざ知らず、ギルドは何の変りもない時間が過ぎていく。
当然仕事だって普通にある。
「なんというかさ、お前最近難しい顔することが多くなったよな」
「そう見えます?」
「おう、なんか深刻な悩みでもあんのか?」
休憩中グレイさんに俺の心中をなんとなく推察されてしまった。
どうしてこの人といいアレンといい、俺の考えていることをすぐに見抜いてくるんだろうか。
黙っていても仕方がない、打ち明けてしまおう。
「なるほど。つまりあのガキを守るためにマーリン家の内乱にお前もなんらかの形で関わるってことか」
「そういうことになりますね」
「はぁ……お前って本当に他人の喧嘩に首を突っ込むのが好きだよな」
俺だってできるだけ避けられる戦いは避けたい。
でも身内が巻き込まれるなら話は別だ。
「不本意ではあるんですけどね」
「まあ、お人好しはほどほどにしとけよ」
誰がお人好しだ。
っていうか俺ってお人好しに見られてたのか、全然そんなつもりはなかったわ。
仕事が終わればいつも通りに帰宅だ。
少しだけ寄り道していこうか。
俺は特に理由なく外出するのは好きじゃないが今日はなんとなく気が向いた。
帰りが遅くなりそうだしお土産を用意しておくか。
こうやって夜のギルドを歩くのも久しぶりだ。
というか夜に外出すること自体が久しぶりのような気がする。
通りすがる人たちは水面下でマーリン家が内乱を起こしているとは知らずにみな呑気な顔をしている。
オズ家とエルリック家が武力で戦争を起こした時とは違い、自分たちが巻き込まれることはないと分かっているから知っていたとしても関心を持たないのだろう。
久しぶりに見るのは景色だけではない。
俺の目の前に見たことのある後ろ姿がある。
見間違いでなければあれはイズナ君だ。
声をかけてみよう。
「やあ、こんばんは」
「あっ、ミラちゃんのところのおじさん。こんばんは」
やっぱりそうだったか。
俺に気づいたイズナ君はペコリとお辞儀をしてくれた。
相変わらずの品行方正ぶりだ。
言っちゃ悪いかもしれないけどあのお母さんからこんな子が生まれるとは思えない。
「久しぶりだね」
「こちらこそ、お久しぶりです」
「今日は何してるの?」
「少しだけ調べたいことがあって……」
なるほど、お母さんのお手伝いだろうか。
「調べたいことって?」
「ミラちゃんのお母さんの噂……」
あーやっぱりかー。
タマモさんもなんだかんだで人使いが荒いよなぁ。
「そういえばミラちゃん、最近元気ないみたいですけど何かあったんですか?」
「ミラが?」
「はい。休み時間に悲しそうにため息ついてて……なんだか辛そうでした」
そっか…
なんだかんだ言ってもあの子に差してしまった影は晴れないか。
「イズナ君はお母さんのお仕事の手伝いをしてるんだよね?」
「はい」
「実はな、そのお仕事を頼んだのは俺たちなんだ」
「えっ……」
それを知ったイズナ君の表情が固まっている。
依頼人がこんなに身近にいることに驚きを隠せないみたいだ。
「どうして、そんなことをしたんですか?」
イズナ君の質問に俺は言葉を詰まらせた。
どうしてと言われても、俺もどう答えればいいのかわからない。
強いて言うなら『裁判に有利になるような情報を集めるため』なんだが……
「事情はお母さんから聞いています。ミラちゃんの親権を巡って裁判するんですよね」
「お母さんが親としてふさわしくないって証明するよりも、お父さんの方が親としてふさわしいって証明する方が大切だと思うんです」
もっともな言葉が耳に突き刺さった。
それが素直にできればどれだけいいことか。
「あの……ボク程度が出過ぎたことを言ってしまってごめんなさい」
いいんだ、イズナ君は何も悪くない。
そうだ、せっかく久しぶりに会ったんだしイズナ君ともう少し話をしてみよう。
「イズナ君ってどんな家族構成してるの?」
「お父さんとお母さん、ボクと三つ下の妹の四人です」
妹がいるのか、意外だったな。
お母さんとは顔見知りになったけどお父さんは何をしているんだろう。
「お父さんは何してるの?」
「お父さんはお母さんと同じ魔法使いです。変身が得意なお母さんと違って死霊術が専門ですけどね」
「死霊術?」
「死んだ人の魂を追い払ったり呼び戻したりするんです。今この世界に死霊術師はお父さんを含めて六人しかいないんですよ」
死霊術師の存在はこの前オズから聞いたことがある。
まさかイズナ君のお父さんがその内の一人だったとは。
いずれどこかで会うかもしれないな。
「お父さんとお母さんが喧嘩してるところを見たことある?」
「いや、全然ないです」
夫婦仲はかなりいいようだ。
方や密偵、方や死霊術師、裏で仕事をする者同士気が合うのだろうか。
「イズナ君は将来何をやりたい?」
「ボクは、お父さんみたいな立派な死霊術師になりたいと思ってます。だから死霊術をちゃんと勉強したくて学校に入れてもらったんです」
そうだったのか。
イズナ君、ちゃんとした志を持ってるんだな。
「おじさんはミラちゃんの夢、知ってますか?」
「ミラの夢……」
そういえば聞いたことがないな。
母の示した道を拒んだということはキャメロット王国の王様の教育係にはなりたくないことは確かだ。
「今度聞いてみるのはどうですか?何かヒントが手に入るかもしれませんよ」
ミラの夢がヒントねぇ……
『一見関係ないような情報でも使い方次第では武器になるわ』
ふとオズがこの前言っていたことを思い出した。
確かにヒントになるかもしれない。
「いろいろ話をしてくれてありがとな」
「いえ、こちらこそ楽しかったです」
軽く与太話をするぐらいで済ませるはずがつい話し込んでしまった。
俺はイズナ君と話を終えて帰路に就くことにした。
帰宅後、俺はオズとまた話をしていた。
「ヴィヴィアンさんの悪評を集めるのはこれぐらいにしてさ、そろそろレオナルドさんに親としての能力があるってことを証明しないか?」
「それができれば苦労はないんだけどねぇ……」
オズは頭を抱えてため息をついた。
悩む理由は俺にもよくわかる。
あの人は魔法使いとしては偉大かもしれないけれど親としての能力は皆無にも等しい。
俺の方が断然上だと言い切ることすらできるだろう。
「証明ができないならさ、今から証明できるようにすればいいんじゃないか?」
「ちょっと何言ってるかわからないわ」
「つまりさ、レオナルドさんに親としての能力を今からつけてもらうんだよ」
オズは無言で納得したように首をゆっくりと縦に振った。
理解こそしたものの、どうも考える部分があるらしい。
「でもさ、どうして急にそんなこと言いだしたわけ?」
「あー、それはな……」
「もしかして誰かの入れ知恵?」
相変わらずオズの直感ってすごいよなぁ。
なんでいつもこんなに当ててくるんだろう。
もしかして俺が知らないだけで本当は心を読む魔法でも使っているのではないだろうか。
「あの狐の子の入れ知恵ねぇ」
「あの子のいうことももっともだと思ってさ」
「じゃあ、ここにレオナルドを連れてこればいいのね」
「そうだな……あっちの事情も多少はあるだろうけどそれしか方法はない」
「はいはい、じゃあ今から連れてくるから少しここ空けるわね」
そういうとオズは夜も遅くにどこかへと転移していった。
明日にはレオナルドさんがここに来ているのだろうか。
流石に待っている余裕はないし、今日はもう寝よう。
ミラの夢ってなんだろう。
そういえば今まで聞いたことなかったんだよな。
彼女は将来何かをしたいとかあるんだろうか。
今度の休日に聞いてみることにしよう。




