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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第6章 ミラを巡る戦い
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水面下の情報戦

 秋の四日。

 裁判が始まるまであと一週間しかない。

 それまでに武器になる有力な情報を集めるため、俺たちはある手を打った。


 「変わらず人使いの荒いお方ですこと…」

 

 俺たちからの扱いを嘆きながらタマモさんはテーブルの上に丁寧に資料を並べた。

 そこにまとめられているのはすべてミラの母、ヴィヴィアンさんに関する情報だ。

 以前もオズが情報集めをしてきたがその時は深いところまで入り込むことができなかった。

 今回はタマモさんお得意の変身魔法でマーリン家の内縁者に成りすまして内部に入り込んでもらったというわけだ。


 「それで、何か使えそうな情報は?」

 「私にはわかりませんのでそこにまとめてある中から見つけてくださいませ」


 食いついてくるオズに対してタマモさんはそっけなく返した。

 そりゃそうだよな、俺たちが必要な情報をタマモさんが理解する由はない。


 「引き続き潜入調査をお願いできますか?」

 「追加営業はお高くつきますわよ?」

 「追加料金はレオナルドさんにつけといてください」

 「毎度ありですわ」


 タマモさんに情報収集の継続を依頼し、それを引き受けたタマモさんは再び王国に向けて姿を消した。

 レオナルドさん、勝手につけちゃってすみません。

 調有能な探偵の依頼料だと考えれば安いと思うので許してください。


 その晩、タマモさんが帰った後に俺たちは改めて集められた情報を見直していた。

 流石はマーリン家の人間、俺たちの常識を遥かに逸した噂ばかりだ。


 「何してるの?」


 紙の山を睨んでいた俺たちの様子を珍しがったミラが近寄ってきた。

 もう夜も遅いのにまだ起きてたのか。


 「裁判するからこっちが有利になるような情報を集めてんだ」

 「裁判?なにか悪いことしたの?」


 いくら勉強ができてもミラはまだ社会を知らない子供だ。

 裁判に関しての知識はまだまだ浅いらしい。

 とはいっても俺もオズも司法に関してはずぶの素人だが。


 「俺たちは何も悪いことはしてねえよ。ちょっとお手伝いをしてるだけ」

 「へぇー」


 ミラは俺たちの後追いをするように書類の山に目を通し始めた。

 俺たちが目を通すより数倍も早い、流石は本の虫だ。


 「なんだか悪いことばかり書いてあるね」


 それが誰のものか知ったらどんな顔をするのだろう。

 気づかれるのは時間の問題だろうがひとまずは黙っておこう。


 「こんなに書かれてて…誰なんだろう?」


 いよいよミラが噂の正体を探り始めた。

 もうそろそろ気づく頃か…


 「ヴィヴィアン…マーリン…」


 その名前を読んだミラの表情が凍り付いた。

 それは、かつて自分の心に恐怖を刻み込んだ張本人の名だ。


 「どうして…お母さんのことを?」


 ミラは恐る恐る俺たちに聞いてきた。

 これはまたマズいことになったな。


 「えーっと、これはだな…」

 「ミラ、よく聞いてちょうだい」


 事情を話すのを躊躇していた俺を差し置いてオズが口を開いた。

 こういう時に臆せずに話をしてくれて本当に助かる。


 「レオナルドはヴィヴィアンさんと親権を競うためにこういう情報を集めてるのよ」

 「レオナルドが勝つためには『ヴィヴィアンさんに母親としての能力が欠如している』ことを証明しないといけないの」


 親としての能力の欠如、それが証明できればレオナルドさんの勝ちがぐっと近づくはずだ。

 だがそれを争点にする場合は一つ重大な問題がある。


 「でもレオナルドさんも親としての能力があるかって言われるとなぁ…」 

 「それなのよねぇ…」


 仮にヴィヴィアンさんに親としての能力が欠如していることを証明できたとしてもレオナルドさんに親としての能力があるかと言われたら答えはノーだ。

 あの人、会いに行けば応対してくれるけどほぼ一日中図書館に引きこもってて向こうからは接触してくれないし、さらに言えば今もこうしてミラの世話を俺たちに委任している。

 もしここを突かれたらひとたまりもない。

 この弱点を埋めるためには…


 「本当にお父さんは勝てるの?」

 「大丈夫だ。レオナルドさんには心強い味方が何人もついている」

 「もし負けちゃたら…?」


 どうしてもそっちの不安が付いて回ってくるようだ。

 その場合の結末が彼女にとって最悪のものだから仕方のないことではある。


 「心配するな。そうならないようにこうして俺たちも一緒に戦っているんだ」

 「そう、だからアタシたちを信じなさい」


 どれだけ宥めてもミラの中の不安は消えないようだ。

 こればかりはどうにもならない、俺が今のミラだったとしても同じことを考えていただろう。


 「明日も学校だろ?早く寝ないと朝が大変だぞ?」

 

 時刻はすでに十時を回っている。

 もう学校も再開しているし、そろそろミラを寝かしつけなければ。


 「そうだね…おやすみ…」


 ミラは眠そうに目を擦りながら俺に言われたとおりに自分の部屋へと戻って行った。

 この頃の彼女は不安や心配に満ちた表情ばかりしていてどうにも気の毒だ。


 「最近のミラ、辛いことばかり聞かされててなんだかかわいそうね」

 

 それに関しては俺も同感だ。

 両親が自分を奪い合っているという現実が彼女にとってどれほど重圧になっているのだろう。

 まだ七歳の少女が経験するにはあまりにも辛すぎる。

 これがあとどれぐらい続くのだろう。

 このままミラの心が壊れてしまわないか心配でならない。


 「もしかしたら…ミラに証言台に立ってもらうことになるかもしれないわ」

 

 なんだと!?

 俺たちが証言台に立つぐらいならどうということはないが今のミラにそれはあまりにも過酷すぎる。

 

 「できるだけそうはさせたくないな…」

 「アタシも同じこと考えてるけど、なんかそうなりそうな気がして」


 やめろオズ、お前の予感は結構な確率で当たる。

 できるだけそういうことは予感しないでほしい。


 レオナルドさんは今頃何をしているのだろう。

 俺たちと同じように情報や証人探しに奔走しているのだろうか。

 それとも一人何か別のことをしているのだろうか。


 裁判が始まるまであと一週間。

 それまでにこちら側も戦略を固めなければならない。


 すでに水面下での戦いが始まっている。

 血の流れない、冷たく泥臭い戦いが。

 


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