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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第6章 ミラを巡る戦い
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オズ、王国にて

今回は三人称視点の話です。

 夏の九十日、クラリス・オズは単身キャメロット王国を訪れていた。

 目的はただ一つ、現在そこに滞在しているレオナルドと話をするためだ。


 王国の入り口である門の前まで赴き、クラリスは守衛の方へと歩み寄った。

 召喚魔法で直接王国の中へ入ることもできるが許可なく立ち入れば彼女といえども不法入国とみなされる。


 「オズ家第十四代当主、クラリスよ。そこを通しなさい」


 クラリスはオズ家の紋章を提示した。

 普段は持ち歩かないがキャメロット王国に立ち寄る場合に限っては例外だ。

 検閲と身分確認の厳しいここではこうするのが最も手短だ。

 紋章を確認した守衛は脇へ下がり、クラリスを門の向こうへと通した。


 王国内へと入ったクラリスは立て続けにとある場所へと転移した。

 推測が正しければレオナルドはそこにいる。


 転移した場所は埃を被った書物が大量に並べられた薄暗い書庫の中。

 管理された図書の量がギルドの大図書館にも引けを取らないそこはマーリン家の実家の地下書庫だ。

 元々はレオナルドによって管理されていたのだが長らく管理を怠っていたせいですっかり清潔感がなくなっている。


 「やっぱりここにいたのね」


 クラリスの思惑通り、書庫にレオナルドはいた。

 痩せ気味だったその身体は少し見ない間にさらに細くなっているように感じられた。


 「やあ」


 レオナルドは変わらず穏やかにクラリスを迎え入れた。

 彼専用と思われるデスクの上には書類が山のように積み上げられている。

 クラリスはどこからともなく椅子を引っ張り出し、レオナルドと向かい合うようにデスクの反対側に腰を下ろした。


 「裁判はいつから始まるの?」

 「通告に誤りがなければ、秋の十一日から第一審が始まる」

 「勝てる見込みは?」

 「わからない。何しろ争点が『どちらが親としてふさわしいか』だからね」

 「そっか……」


 クラリスとレオナルドは二人ため息をついた。

 方や虐待同然の英才教育、方や半ば育児放棄、どちらも有利になりうる要素を持っていない。

 どちらかといえばこれまで曲がりなりにも教育に関与していた母方に分があるといったところか。


 「弁護士はついてるの?」

 「もちろん、この国の腕利きの弁護士を付けた」

 「ならいいわ。次は証人集めね」

 「そうだね。何に関する証人を集めればいいだろう」

 「そんなのは弁護士と相談することでしょ。アタシは専門外だし」


 クラリスの指摘にレオナルドは苦笑いした。

 確かにそうだ、彼女は裁判や法に関する知識はほとんど持っていない。


 「でも、本気で戦うなら二つのポイントがあるわ」

 「聞かせてくれるかな」

 「一つは自分が優位であることを示すこと、もう一つは相手が不当であることを示すことよ」


 クラリスの助言にレオナルドは興味を示した。

 特に興味を持ったのは後者の方だ。

 

 「妻が……ヴィヴィアンがミラの親としてふさわしくないと証明してくれる人物を集めてみよう」

 「なら使用人からかき集めてみなさい。何人かはあの人のやり方に異を唱える跳ね返り者がいるはずだし」

 「わかった。できるだけ声をかけてみるよ」

 「アタシもできるだけ探してみるわ」


 クラリスの助言を逐一筆記し、ノートを畳んだ。


 「私に力を貸してくれてありがとう」

 「いいわよ別に。いつか作った借りを返すだけだから」


 「じゃあね。また来るわ」


 レオナルドに背中を向け、クラリスは書庫を後にした。

 

 「さて、証人探しねぇ……」


 王国内を散策しながらクラリスは独り言を零した。

 証人集めに協力すると入ったものの、王国内でもマーリン家の内情を知る者は少ない。

 それでも行くべき場所となれば情報が集まる場所だ。


 「何?ヴィヴィアン様の噂だって?」

 「なんだっていいわ。何か知ってることない?」


 クラリスはマーリン家の屋敷がある領地を治める騎士の元を訪れていた。

 地主であれば領地内の事情をおおよそ把握しているだろうという推測からの干渉だ。


 「まあ知らないことはないけれど、そんなことを知ってどうするの」

 「まさかアンタ知らないの?」

 「何を」

 「じゃあ特別に教えてあげるわ。ちょっと耳貸しなさい」


 騎士の耳元に口を近づけ、クラリスは事情を打ち明けた。

 今回の裁判のこと、そしてヴィヴィアンが過去にミラに行ってきた非道な教育のこと、すべてを語る。 

 それを知った騎士の顔がみるみる青ざめていった。


 「そういう事情があるってわけ。誰にも言うんじゃないわよ」

 「わ、わかったよ……」

 「アンタが情報をくれればそれをもとに未来のマーリン家当主を助けられるかもしれないの。力を貸してちょうだい」

 

 半ば脅迫にも近いやり口で騎士を丸め込んだクラリスは情報を集めだした。

 ここ一年近くのヴィヴィアンの行動が手に取るように把握できる。

 だがこれといって有力な情報は得られない。


 「本当に知ってるのはそれだけ?」

 「ああ、何か使えそうな情報はあったかな?」

 「うーん……これといって決め手に欠けるなぁ……」


 騎士から得た情報はどれも決定打にはなりえない。

 だが情報を引き出せたことは大きなアドバンテージだ。


 「悪いね。力添えできなくて」

 「十分よ。こういう情報も使い方次第では強力な武器になるわ」


 「ところでなんだけど、アタシより先に向こうから接触されたなんてことはない?」

 「いえ、クラリス様が最初です」

 「そう、ならいいわ」


 最後に確認を取ったクラリスは口止め料としてキャメロット王国の通貨を数枚手渡した。

 アイコンタクトを取り、意を察した騎士は黙ってそれを受け取る。


 「また別の人も当たってみるからそろそろ行くわ」

 「お気をつけて」


 騎士と別れ、クラリスは王国を後にした。


 その晩、クラリスは入手した情報をすべてタカノに報告した。

 レオナルドが進めている裁判のこと、その相手であるヴィヴィアンのこともすべてだ。


 「なるほどなぁ」

 「相手の情報も少しは掴んだんだけどどうしても奥深いところまで入り込めないのがね…」

 「マーリン家の中の人間ならもっと詳しく知ってるだろ」

 「無理ね。絶対に口封じの根回しがされてるからアタシたちには教えてくれないわ」


 しばらく二人は考え込んだ。

 そして数分後、タカノは何かをひらめいたように目を見開いた。


 「一つだけある。マーリン家に直接入り込む方法がな」

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