ミラの故郷
レオナルドさんは今頃何をしているんだろうか。
ミラの親族ということもあってどうしても気がかりで仕方がない。
確かキャメロット王国とかいったな。
そこに行けばレオナルドさんに会える可能性はある。
もしかすればオズに頼めば連れて行ってもらえるかもしれない。
「キャメロット王国に行きたい?」
「ああ、どうしても真相を確かめたいんだ」
オズは難しそうな顔をしながら考え込んだ。
なにか問題でもあるのだろうか。
「あそこは入国審査があるのよねぇ…アタシは顔パスで通れるからいいけど、アンタの場合は向こうの役所でかなり足止め喰らうわよ」
「マジか」
「マジよ、キャメロットは検閲が厳しいの」
そうなんだ。
そんなところに顔パスで通れるってすげえなお前。
「ところでさ。お前の夫だって言えば俺の身分証明にならねえかな?」
「無理だと思うわ。言うだけならいくらでもできちゃうし」
それもそうか……
じゃあ大人しく検閲を受けることになるのかな。
「ていうかそこまでして噂を確かめたいの?」
「ああ、やっぱり確かめたい」
「ならアタシが一人で行ってきてあげようか。そっちの方が手っ取り早いし」
オズ一人で行く方が早く解決するのならそうするのも手だとはわかっているが自分の目と耳で確かめたいという欲望が決断の邪魔をしてくる。
なんとももどかしい。
「どうするの?アンタも行くの?」
オズに決断を迫られた。
ここは早く答えを出すのが男というものか。
「一人で行ってくれるか?そっちの方が早く真実を確かめられるならそれでいい」
「はいはい。じゃあ明日一日家空けるからね」
少しでも早く確かめられるならやはりそっちの方がいいだろう。
今回は俺は諦めることにした。
レオナルドさんの噂に関する真偽はすぐにわかることだ。
なら今度は王国のことについて聞いてみよう。
オズにはもうこれでもかというほど聞いたし、それなら次に聞くべき人物は…
「キャメロット王国のこと?」
「そう、自分の故郷のことならいろいろ知ってると思ってさ」
やはりミラに尋ねるのがいいだろうか。
ついさっきまで少し暗い顔をしていたから聞き出せるかどうかは不安はあるが。
「キャメロットは王様とそれに仕える騎士様たちに治められてる国だよ」
「国の周りが厚くて頑丈な壁に覆われてるし、さらに騎士様たちが守ってるから外から攻め込まれたことは一度もないの」
そうなんだ。
そこまで守りが固いのならマーリン家が戦わない主義なのも納得できる。
「国の中の様子はこの近くとそう大して変わらないよ。商人たちが集まる街があったり、そのはずれには畑とかもあるし」
「なるほど」
「でもはっきりと違うところは偉いのが商人じゃなくてその土地を治めてる騎士様っていうところかなぁ」
聞いた感じだと王様が絶対的な権力を持っていて、それに仕える騎士は特権階級といったところか。
魔法使いはどういう身分なんだろう。
「魔法使いはどういう身分なんだ?」
「うーん……よくわかんないけど、たぶんいい方だと思うよ」
「よくわかんない?どういうことだ」
「だって、王国には魔法使いはミラたちマーリン家しかいないから……」
それマジかよ。
ギルドだとそこそこ見かける魔法使いも王国だとミラたちの家系しかいないのか。
そういえば前々から気になっていたことがある。
ミラのお母さんって何をしている人なんだろう。
この手の話題になるとミラにそれとなく話題を逸らされていつも聞きそびれていた。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ、ミラのお母さんって何をしてる人なんだ?」
「あっ、えっと、それは……」
案の定ミラは言葉を詰まらせた。
ちょっとかわいそうだが今日こそ確かめたい。
「ミラのお母さんは……王子様の教育係をしてるの」
「は?」
まさかのまさかだった。
父親は大図書館の司書、母親は王子様の教育係ってバリバリの教育一家じゃねえか。
レオナルドさんはミラに対していろいろな意味で放任主義だけどどうやらその結果としてお母さんの徹底された英才教育に繋がっちまったらしい。
将来の王様を育てるための教育法がそのまま自分の子にも当てはめられてたって考えるとやっぱりきついよなぁ。
そんな境遇だったら俺でも家出してただろうし。
「なぁ、そのお母さんとレオナルドさんが争いを始めるかもしれないって言ったら、お前は信じるか?」
「えっ……」
あー、やっぱりショックだよなぁ。
もうちょっとオブラートに包んだ言い方とかできればよかったのかな。
「あぁ!?あくまで噂で聞いただけだからな!?」
このままだとかなりヤバそうな雰囲気になりそうだったから慌ててフォローを入れた。
正直フォローになってないって自分でもわかってるけど。
「どうしてお父さんとお母さんが喧嘩するの?」
これもあくまで噂で聞いただけだが正直に話すべきなんだろうか。
でも『親権を巡って争う』なんて子供に言える気がしない。
ミラはこの上ないぐらい不安そうだし俺も冷や汗が背筋に伝ってきている。
考えろ、こういう時はどうすればいいんだ…
「わかんねえなぁ、あくまで噂で聞いただけだし」
ちょっと考えたけど、やっぱり面と向かっていう度胸は俺にはない。
結局その理由を明かすことはできなかった。
「そうなんだ……」
ミラがすごく不安そうだ。
このままだと泣き出しそうなぐらいにおどおどしている。
もうこれ以上話を聞くのはやめよう、なんとか宥めなければ…
「心配するな。ミラに何かあっても俺たちが守ってやるから」
「本当?」
「ああ、約束する」
そっとミラを抱き寄せて背中をさすった。
俺も小さい頃にお袋にこうしてもらうと不思議と心が落ち着いたものだ。
もしかするとミラも落ち着いてくれるかもしれない。
「今日はもう遅い。お風呂入って寝よう」
「……うん」
宥められたかどうかはわからないけど気を紛らわすことはできただろうか。
一晩だけでミラに辛い思いをさせてしまった。
『もしかすると、これから先ミラに辛い思いをさせることになるかもしれないわ』
オズの言葉はこうなることを予言していたんだろうか。
もしかすると、これもほんの始まりに過ぎないのかもしれない。
夜中になってもいろいろと考え事をしていたら目が冴えて眠れなくなってしまった。
明日も仕事なのに参ったなぁ。
「ねえ、トモユキ起きてる?」
珍しい、こんな時間なのにミラの声が聞こえる。
声のする方を見るとそこには確かにミラの姿があった。
「どうしたんだ?こんな時間に」
すでに時刻は夜一時を回っている。
いつもならとっくに眠っている時間のはずだ。
「怖い夢を見て……そしたら眠れなくなっちゃって……」
さっきの話でミラに怖い話をさせてしまったのだろうか。
だとすればこうなったのは俺のせいだ。
「こっちへおいで、朝が来るまで一緒にいてやるから」
俺に呼ばれるがままにミラはベッドの中に潜り込んできた。
小さいころ、眠れない夜は俺もこんな風に親の布団に潜り込んでたっけ。
「大丈夫、俺が付いてるから安心して眠れ」
数十分ほどして落ち着きのなかったミラの呼吸は穏やかな寝息へと変わっていった。
ごめんな、俺があんなこと口にしたせいで怖い思いをさせちまって。
「ごめんな……」
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。




