エピローグ オズの誕生日
俺たちがこちらの世界へ帰還した翌日、早速のイベントが発生した。
夏の八十五日、それはオズの誕生日だ。
「で、当の本人はどこへ行きやがった」
さっきからオズの姿が見当たらない。
これじゃあ何かをしようにもどうにもできないんだが。
そもそも今日中に帰ってくるのか?
「自分の家に帰ってるんじゃないかな?お姉ちゃんって部下の人たちがいっぱいいるし」
そうか、アイツには部下がたくさんいるんだった。
今頃は部下たちに祝ってもらってるのかな。
俺たちも呼んでくれればよかったのに。
「ミラたちはどうしよう?」
「そうだな……オズが帰って来た時に備えて二人でお祝いの準備でもするか」
「そうだね!」
そうと決まれば早速ミラと二人でお祝いの準備だ。
前にミラの誕生日を祝った時とは少し勝手が違うけど思いつくだけのことはやろう。
(あれ、渡せるかな)
俺はふとあることを思い出した。
日本に行ったときにオズのために購入したものがあったのだ。
向こうにいたときに渡しそびれたが今日はまたとないチャンスだ、絶対に渡そう。
「うおッ!?」
急に後ろから身体を引き込まれて思わず変な声が出た。
どう考えてもミラの力ではない。
とするとクロか?
……と、思っていたらさっきまで目の前に広がっていた俺の家の風景がいつか見たような屋敷に切り替わっていた。
心当たりがある、犯人はアイツか。
「ごめんねー。急に呼び出しちゃって」
やっぱりお前かオズ。
急にもほどがあるだろう、おかげでミラは今家で一人になってんだぞ。
用があるなら早く済ませてくれ俺はサプライズの準備をしてえんだ。
っていうかその恰好はなんだ。
普段とは全然雰囲気の違うドレス姿だ。
そういう佇まいだといいとこのお嬢様って感じがするな。
「アンタたち、よく聞きなさい!」
「アタシ、クラリス・オズはここにいる男タカノ・トモユキと結婚するわ!」
オズいきなり俺の腕を取り、結婚を宣言した。
俺が度肝を抜かれると同時に今日のために集められたであろうオズ派の魔法使いたちも唖然としている。
そしてその直後、堰を切った水のように周囲から大量の声が溢れ出た。
「クラリス様……私は感無量でございます……」
なんか後ろにいるバートさんがハンカチで目元を覆っている。
そういえばこの人は俺とオズの関係を知ってるんだったっけ。
「なぁ……ちょっといいか?」
「なに?」
めっちゃ嬉しそうな顔をしながらオズが振り向いてきた。
お酒がらみの時よりもいい表情をしている。
それはそれとして今生じている問題を報告しなければ。
「お前が俺をここに呼んだおかげでミラが家に一人になってるんだけど……」
「あっ……」
ひっそりと耳打ちするとオズはハッと我に返ったような表情を見せた。
まさか本当にミラのことが頭から抜けてたんじゃないよな。
オズならあり得そうだけど。
「ごめん!今からミラも呼ぶから!」
そういうとオズは魔法陣を展開してその中へ飛び込んでいった。
そして数秒後、オズに手を引かれながらミラが現れた。
「お姉ちゃんどうしたのその恰好!?」
ミラも普段と雰囲気の違うオズの姿に驚いている。
「ミラ、よく聞いてちょうだい」
オズはミラの両肩に手を置き、視線の高さを合わせた。
「アタシね、トモユキと結婚するの」
その一言でミラは目を見開いた。
今思えば俺とオズの関係はずっとミラに内緒にしてたんだよな。
ちょっとかわいそうなことをしたかもしれない。
「えっ……えっ!?」
いきなりの報告に戸惑いを隠せないようだ。
そりゃそうだよな。
今までずっと何気なく一緒にいた二人が自分の知らない間に結婚するんだし。
「ごめんね、今まで内緒にしてて」
「実はな、俺たち結婚するんだ」
ミラは完全に固まった。
よほどの衝撃を受けたらしい。
「あっ、あの……えーっと……」
言葉に詰まっている。
何か言いたいことがあるんだろうか。
「どうした?」
「えっと、こういう時にどういう言葉をかければいいのかわからなくて……」
意外だな。
もしかして結婚式とかには立ち会ったことないのか。
「お姉ちゃんはトモユキと結婚してどう思ってるの?」
ミラはオズに尋ねた。
かける言葉を探りたいのだろう。
「アタシはね、今すーっごく嬉しいの」
「どうして?」
「だって、アタシを変えてくれた人とこうしてずっと一緒にいられるようになったんだもの」
オズは満面の笑みで答えた。
そこまではっきりと言われるとなんだか俺も嬉しくなるな。
「へぇー、トモユキは?」
今度は俺に話を振ってきた。
「俺も嬉しいぞ。世界で一番強くて、それでいて魅力的な魔法使いと巡り合えて、こうして結婚までできたんだからな。自慢のお嫁さんだ」
さっきの意趣返しといわんばかりにオズを褒めちぎってやった。
オズは顔を真っ赤にして俯いている。
普段の勝気な態度とは真逆といってもいいほどにしおらしい。
「オズ、お前に渡したいものがあるんだ」
「アタシに?」
「ああ、家に置いてきちゃったから取りに戻らないといけないけどさ」
急に呼ばれたから今はここにない。
取りに戻りたい。
「じゃあ今から取りに行ってきてよ、どこにあるの?」
「俺の、いや俺たちの家だ」
「そっか、じゃあ行ってらっしゃい」
オズは再三魔法陣を展開した。
俺はそれをくぐり、一時的に家へと帰った。
そしてプレゼントを手に取り、すぐにオズの元へと戻ってくる。
「これ、日本にいたときに買ってきたんだ」
俺はオズに黒い小さな箱を手渡した。
「なにこれ?小箱?」
「開けてみろ。中に入ってるものがお前へのプレゼントだ」
オズは言われるがままに箱を開け、その中身を見て目を輝かせた。
「綺麗……」
「それは結婚指輪って言ってな。あっちの世界では結婚する人は左手の薬指に指輪をはめる文化があるんだ」
そう、結婚指輪だ。
渡すのが遅れたが逆にサプライズ感が増してよくなったんじゃないだろうか。
「オズ、左手を出してくれるか?」
「こ、こう?」
オズは俺に左手を差し出した。
綺麗な指だ。
指輪は見事にオズの指にフィットした。
密かにサイズ合わせまでやっておいてよかった。
「これで、俺とお揃いだな」
俺は左手を見せた。
その薬指にはオズのものと同じ指輪がすでについている。
「ありがとう……やっぱりアタシ、アンタとあえて本当によかった!」
感極まったオズが俺の胸に飛び込んできた。
久しぶりに彼女の女の子っぽいところを見たような気がする。
いつもは強気でわがままで、そして頼れる魔法使いなだけにこの一面が貴重に感じられる。
彼女との時間をずっと俺だけが持てればいいのに。
「えーっと……おめでとう!」
ようやくかける言葉を見つけたミラが俺たちを祝福してくれた。
そう、それでいいんだ。
オズの誕生日は互いにサプライズを仕掛け仕掛けられ、それでいて幸せに満ちたものになった。
そして、夏の八十五日は俺たちの結婚記念日にもなった。
結婚とはいいものだ。
今じゃ俺に鉄骨をぶつけて殺した若い衆に逆に感謝したいぐらいだ。
いい、この異世界暮らし、とても充実しているぞ!
今回で五章は完結です。
次回から新たに六章に移行します。




