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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第5章 おじさんたちの日本旅行
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帰還の日

 日本旅行十八日目。

 とうとう俺たちが向こうの世界へと帰る日がやってきた。


 「どれをお土産にしようかなー」

 「持って行きたいものが多すぎて迷っちゃうわねー」


 ミラたちはお土産選びをかなり迷っている。

 昨日から考えているがいまだに決めきれないらしい。


 「これ全部アタシが送っちゃダメ?」

 「ダメだ。家に置き場がないから絞れ」

 

 確かにオズの魔法で転送してしまえば持ち込むの簡単なんだがそんなに持って行ったところで今度は置き場がない。

 彼女たちには残念だが一部は諦めてもらうしかない。


 「ところで選ばなかったものはどうするの?」


 何気なくミラに尋ねられたがそういえばそこは何も考えていなかったな。

 残りのものはどうしようか。


 「そうだな、じゃあここに置いてくことにするか。また来ることがもしかしたらあるかもしれないし」

 「またここに来られるかな?」

 「わかんねえけど、機会があればまた来られるといいな」


 向こうに来たばかりのころはあんなに嫌気がさしていた現代日本も久しぶりに訪れてみれば意外と楽しかった。

 ミラたちも初めて目にする異世界の文明、特に機械に逐一驚かされていてまるであっちに来たばかりのころの俺のようだった。

 きっとあの頃の俺を見ていた彼女たちは今の俺と同じようなことを考えていたに違いない。


 「あっ、そうだ!」


 何かを思い出したらしいオズが手を鳴らした。

 やり残したことでもあるのだろうか。


 「帰る前にシンジたちに挨拶しておかなきゃ」


 ああ、あの小学生四人組か。

 いろいろと世話になったし、帰る前に挨拶ぐらいはしておいてもいいかもな。


 「携帯貸してよ。せめて連絡してぐらいおきたいの」

 「はいはい」


 オズに頼まれるままに俺は携帯を手渡した。

 機械系が苦手な癖して家電の扱いだけはものにしてるんだよなぁ。


 「うん、うん、そうなんだ。うん、夕方まではこっちにいるから」


 声色が嬉しそうだ。

 ということは最後にもう一回会えるんだろうか。


 「お昼過ぎに会いに来てくれるって!」

 「本当に!?」


 約束を取り付けるのが上手いなぁ。

 それなら今のうちに準備を済ませておかないとな。


 「うーん、これも持って行きたいなぁ……あぁ、でもこれも……」


 さっきからミラが土産選びで迷い続けている。

 小さな子供は選べと言われてすぐには答えを出せないものだ。

 俺は今でも結構迷ったりするぐらいだからなかなか難しい。


 「何を迷ってるんだ?」

 「お父さんへのお土産。どれがいいかなーって」


 ミラの目の前には分厚い装丁の本が数冊。

 どれもはじめからここにあったものではない、いつの間に買っていたんだろうか。


 「どれが何の本なんだ?」

 「えっとねー、これがこの世界の歴史書でー、これが生き物の図鑑、それからそれから……」


 ちょっと待て。


 「もしかしてお前……」

 「ミラはもう全部読んだよ」


 マジかよ。

 いつの間にそんなに読み進めていたんだろう。

 

 レオナルドさんへのお土産ならその手の書物が一番いいのは確かだ。

 でも荷物としてはかなり重い、ミラの力で持ち切れるとは思えない。

 そういえば俺の分はほとんどないからそこに少しぐらいなら詰め込めそうか。


 「ちょっとぐらいなら俺が持って行ってやるよ」

 「本当に!?ありがとー!」


 そんなこんなしていたらもう昼になっていた。

 もうそろそろシンジ君たちとのお別れ会になりそうだ。


 「お土産は決まったか―?」

 「うん!」

 「アタシも大丈夫」


 よし、じゃあ日本旅行最後の昼食を取ろう。

 腕によりをかけて……といいたいところだがそんなに時間をかけられない。

 


 結局昼食は炒飯になった。

 去年の今頃なんてカップ麺にお湯を注ぐぐらいしかできなかったのに気が付けば随分と料理できるようになったもんだ。


 ちょうど昼食を食べ終えた頃、インターホンが鳴った。

 シンジ君たちが来た、そう確信したころにはオズが玄関へと飛ぶように向かっていた。


 「おじゃましまーす!」


 玄関からシンジ君たちの元気な声がする。

 この声を聞くのもおそらく今日が最後だ。


 「おじさんたち、本当に今日で帰っちゃうの?」

 「ああ。本当はもう少しここにいたいけど、ここにいられるのは今日までなんだ」

 「じゃあさ、最後の思い出に写真撮ろう!」

 「いいね、俺が撮るよ」


 リョウタ君が携帯をカメラモードに切り替え、俺たちは中心に集まった。


 「ちゃんと全員入ってる?」

 「もうちょっと真ん中に固まれば全員ちゃんと写れると思う」


 確認を取るエリカちゃんに対してリョウタ君は細かく答えた。

 こうして集まっていると修学旅行の記念撮影を思い出すな。

 

 「よーし、撮るぞー!」


 シャッターを時間差に設定したリョウタ君は素早く俺たちの元へと飛び込んできた。

 そして数秒後、携帯はフラッシュを発生させてシャッターを切った。


 「どう?撮れてる?」

 「もちろん、バッチリ撮れてる」


 撮り映えを気にするシンジ君たちはリョウタ君の携帯を覗きこみ、それに対してリョウタ君は親指を立ててクオリティを保証している。

 子供の友情っていいなぁ。

 

 「おじさんにも送りますね」

 「おっ、頼むよ」


 リョウタ君にそういわれた直後に俺のもとに写真が送られてきた。

 俺たちはその写真を初めて確認した。


 「すごーい!ミラたちが完璧に写ってる!」

 

 そういえばミラとオズは写真撮影は初体験か。


 「なんでオズはこんなにびっくりした顔してるんだ?」


 なぜかオズだけは驚いた顔をしている。

 理由はなんとなくわかるが聞いてみよう。


 「だってあんな小さいものから眩しい光が出るなんて思わなかったんだもん!」


 やっぱりそんな気はしてたわ。

 この二十二歳、最初から最後まで機械に振り回されっぱなしで可愛い。


 「あ、あの……」


 ケンタロウ君が神妙な口ぶりで話を切り出してきた。

 俺たちにどうしても伝えたいことでもあるんだろうか。


 「俺、もっと勉強しておじさんたちが住んでる世界に行ける技術を作ります!」


 衝撃発言が飛び出した。

 勉強できそうな顔だとは思っていたがまさかこんな形で彼に目標を与えることになろうとは。


 「だから、俺たちのことを忘れないでください!」


 うん、さっきの一言のインパクトのおかげで忘れないぞ。

 むしろ日本の未来を担うであろう技術者の卵が誕生したのに立ち会えてうれしい。


 「よし、忘れ物はないな?」

 「大丈夫!」

 「最後にもう一度確認しましょう。忘れたら取りに戻るのにすごく手間がかかるし」

 

 俺、ミラ、オズ、そしてクロ。

 旅行者は全員揃っている。

 荷物を改めて確認した、忘れ物はない。


 「これでしばらくのお別れね。今度はアンタたちから会いに来てくれるのを楽しみにしてるわ」

 「じゃあねー」


 オズは召喚魔法で手元に杖を呼び寄せ、俺たちの周囲に金色の魔法陣を走らせた。

 それはこっちへ来た時と同じものだ。


 「巻き込まれるかもしれないから下がっててね」


 最後に帰還を見送るシンジ君たちに注意を促した。

 魔法陣の範囲内にいれば彼らも一緒にこっちの世界に来てしまいかねない。

 まだ小学生である以上、そんなことに巻き込んでしまうようなことがあってはいけない。

 シンジ君たちは魔法陣の外側へと下がって小さく手を振りながら俺たちを見守っている。


 「大いなるものよ!その高貴なる魔力を以て、我らを元在る地へと導かん!」


 オズは詠唱とともに手にした杖を勢いよく振り下ろした。

 魔法の発動に応じて陣からミラたちの髪を巻き上げるほどの強い衝撃が走り、眩い金色の光が迸る。


 「じゃあね!」

 「さようなら!」

 「また会おうな!」

 「バイバーイ!」


 口々に別れの言葉を受け、魔法陣の光と共に俺たちは日本を後にした。

 この十八日、君たちがいていろいろあって、楽しかったよ。


 これからまたあっちでの生活が始まる。

 気分を入れ替えていかないとな。


次回で五章は完結になります。

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