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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第5章 おじさんたちの日本旅行
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旅行最後の思い出作り

 旅行十六日目、帰る日が近い俺たちは最後の思い出を作りにある場所へと訪れていた。

 そこは……


 「ここが『てーまぱーく』?」

 「そう、子供も大人もみんなが遊べる場所だ」


 今、俺とミラ、そしてオズの三人はテーマパークへと遊びに来ている。

 ミラたちの知らない未知のアトラクションにあふれているここは楽しい思い出を作るにはうってつけの場所だ。


 「派手な色の機械ばっかりねー」

 「そりゃあ目につきやすい色の方が視覚的にも楽しいだろうからな。地味な色ばっかりだったら気分が盛り上がらないだろ?」

 「なるほどね」


 絢爛な風景を見回しているオズのぼやきに俺は答えた。

 土っぽい色の風景ばかり眺めているよりは三原色に近い明るい色を眺めていた方が目を引かれるし気分がいい。

 

 「ところでさっきもらったこれは何?」


 ミラが手首に巻いたバンドを見せながら俺に尋ねてきた。


 「それはファストパスって言ってな。それを見せればああいうのに並ぶことなくアトラクションに乗ることができる優れものだ」

 

 俺はアトラクションに並ぶ行列を眺めながらミラに説明した。


 「えーっ!?あれに並ばなくてもいいの!?」

 「もちろん」


 こっちの世界に常在しているなら買わなかっただろうが滞在期間が決められている以上はこういうことに時間をかけたくはない。

 金なら滞在中に使いきれそうにないぐらいに持ってるし、惜しみなくこういうところに使っていける。


 「ミラは何か乗ってみたいものとかあるか?」

 「どんなのがあるのかなー」


 ミラはパンフレットを開いてじっくりと目を通している。

 文字もほとんど読めるようになったおかげでスラスラと情報を把握してくれる。

 ただ一つだけ問題があるとすれば……


 「ここまでどうすれば行けるの?」


 ミラはまだ地図を読めなかった。

 幸いにも俺は方向音痴ではないし、オズは地図を読めるから大した問題ではない。

 だがこんな場所ではぐれられたら見つけ出せる気がしないから絶対に見失わないようにしよう。


 ミラと手をつなぎ、地図の通りに足を運ぶこと約五分。

 たどり着いた先で俺たちを待ち受けていたのはすごく大きい円盤。

 それは回転しながら振り子のように左右に揺れ、乗っている人たちの絶叫が聞こえてくる。


 「なにこれ……」

 「なにこれって、ジャイアントフリスビーだけど」


 『ジャイアントフリスビー』、このテーマパークの目玉アトラクションの一つだ。

 似たようなアトラクションは他所にもあるがここの売りは回転がとにかく速いことだ。

 現にサイクロン式の掃除機もびっくりの速さで回っている。


 「まさかあれに乗るの?」


 なぜオズはビビっているんだろうか。


 「お前もあれぐらいの経験ならしてるんじゃないの?」

 「さすがにあれはないわ」


 あ、そうでしたか。

 

 「早く乗ろう!」


 一方でミラは待ちきれないと言わんばかりにパスを巻いた左腕をぶんぶん振り回してアピールしてくる。

 流石に彼女一人で乗るのは不安だし、俺も一緒に乗ろう。


 「もちろんお前も一緒に乗るよなぁ?」

 「え?それマジで言ってる?」


 ふっかけられたオズがめちゃくちゃ動揺している。

 なんでコイツは現代文明の機械に弱いんだろうか。

 ミラなんて逆にこんなに面白がってるのに。


 「まあそういうことだ。お前ひとり待たせることはできないから一緒に乗るぞ」

 「ちょっ、待っ、まだ心の準備が……あああああ!!」


 というわけでオズを巻き込んでミラと一緒にジャイアントフリスビーに乗ってみた。

 オズが右隣、ミラが左隣だ。

 

 「大丈夫?振り落とされたりしない?」

 「なんのための安全バーだと思ってるんだよ。そんなに怖けりゃそれ掴んで目を閉じてろ」

 

 『まもなく始まります』


 スタッフのお兄さんのアナウンスが入り、ゆっくりと上昇し始めた。


 「だだだ大丈夫なの!?」


 機械に対する恒例行事になりつつあるオズのラップ調が始まった。

 お前いつもクロに乗って飛び回ってるのになんで今更そんなにビビってるんだ。


 「お前いつもクロに乗って飛んでるじゃねえか」

 「それとこれとは話は別なのー!」


 なにが違うんだよ。


 『ガチャン!』


 ゆっくりと上昇していたフリスビーが制止した。

 もうそろそろ落下が始まる頃だろう。


 「……」

 「まだかな?まだかな?」

 「もうすぐだろ」


 などと言葉を交わしているとフリスビーがゆっくりと横回転を始めた。

 さあ来たぞ、名物の高速回転だ。


 「ねえ、なんか回ってない!?」

 「お前はもう目を閉じとけ」


 このままだとオズの絶叫で俺の鼓膜が破れそうになるだろうし、予防策はとっておかなければ。

 

 「おおおおお!!」


 一方でミラは未知の感覚に大喜びしている。

 無邪気ってすげえなぁ。


 フリスビーは振り子のように揺れながらすごい速さで回転している。

 正直なところ俺もこういうのはあまり得意じゃない。


 三分ほど揺られてアトラクションは終わり、俺たち乗客はフラフラになりながら座席から降りた。

 

 「あー、面白かった!」


 ミラは足取りをふらつかせつつもご満悦のようだ。

 一方でオズはというと……


 「あれ……?アタシ歩いてないのに目の前の景色が回ってるんですけど……」

 

 かなり三半規管をやられているようだ。

 もしかすると彼女乗り物酔いとかをしやすいタイプかもしれない。


 「お姉ちゃんどうだった?」


 グロッキー状態のオズのことなんか知らんといわんばかりにテンションが上がりっぱなしのミラが声をかけた。


 「無理……ちょっと休ませて……」


 オズはふらつきながら視界に映ったベンチに向かって進んでいく。

 やっぱりオズは乗り物酔いをしやすい体質か。


 「えー」

 「まあまあ、少し休憩してからでもいいんじゃねえの?」

 「うーん、トモユキがそういうなら」


 近くにあったベンチにオズを座らせて小休止だ。

 酔った人間を無理に動かすのはよくないからな。


 「次はどれに乗ろうかなー」

 「もうあれには乗りたくない……」

 「あっ、これがいい!」

 「どれどれ……」


 ミラが指さしたそれはテーマパークの定番『ジェットコースター』だった。

 もしかして彼女は絶叫系アトラクションが好きだったりするのか?


 「ん?これ身長制限があるぞ」

 「身長制限?」


 ジェットコースターなど一部のアトラクションは安全バーの高さの関係で一定以上の身長がないと乗れないものもある。

 たとえば今回の場合は乗るために百二十センチ以上必要だ。


 「身長ってどこで測れるかな?」

 「たいていの場合はそういうアトラクションのすぐそばにあるぞ。もうちょっとしたら見に行ってみるか」

 「うん!」


 そして十分後。


 「むー……」


 ミラはふくれっ面をしてかなり不服そうだ。

 身長制限に引っかかってしまったのでジェットコースターに乗れなかったのだ。

 百十六センチ、あと一歩及ばずだ。


 「まさか身長足りなかったとはなー」

 「いいもん、すぐに大きくなるから……」


 いかにも子供らしい回答だ。

 子供は高い身長に少なからず憧れを抱くものだからな。

 これからの成長に期待しよう。


 「乗れないものは仕方がないから何か別のものを探すか」

 「じゃあアタシはあれがいい」


 元気を取り戻したオズが会話に割り込んできた。

 彼女が指さした先には『脱出ゲーム』なるものが設置されていた。

 最近流行っているとは聞いたがここで見かけることになるとは。


 「脱出ゲームねぇ……」

 「どう?面白そうじゃない?」


 あの手のゲームを遊んだことはないから俺もやってみたいとは思う。

 オズが付いていればまあ大丈夫だろう。


 「よし、じゃあアレに挑戦するわよ!」

 

 簡単な荷物チェックを受け、俺たち三人はチームとして脱出ゲームに挑戦することにした。

 制限時間は三十分、やりがいがありそうだ。

 

 アトラクション施設の中は迷宮のようになっていた。

 さらに行く先々には扉があって、なにかしらの仕掛けが用意してある。

 どうやら謎解きをすることで扉が開いて進めるようになる仕組みらしい。


 「へぇー、このパズルを解けば扉が開くみたいね」


 目の前にあるスライドパズルを弄り回しながらオズがブツブツと呟いている。

 コイツにパズルが解けるのだろうか。


 「なにこれ……全然うまくハマらないんだけど……」


 案の定、パズルが解けないせいでオズがイラつき始めた。

 こうなると次にどういう手を使うかなんとなく予想もつく。


 「魔法は使うなよ」

 「えっ」

 

 あらかじめ牽制をかけておいた。

 この調子だと魔法を使った力尽くの解決に走りそうだし。


 「アンタこれどうやって解くかわかる?」


 あっ、俺に振ってきやがった。

 こういうのは苦手なんだよなぁ……


 「えー……」


 あ、これ見たことあるぞ。 

 確か最短で十五手ぐらいで完成させられる奴だ。

 俺はやり方知らないけど。


 「えーっと、ここをこうしてこうすればいいんじゃないかな」


 オズの後ろでずっとその手を見ていたミラが俺を差し置いてパズルをいじり始めた。

 解くための方法をずっと自分で考えていたのか、その手が淀みなく進んでいる。

 そしてミラがパズルを解き始めて数十秒後。


 「できたー!」


 最後の一手を動かし終えたミラは両手を上げてパズルの完成を喜んだ。

 あまりの早業に俺とオズは唖然として目を丸くするしかなかった。

 やはりミラには天性の才能がある。


 「アタシの苦戦したこの数分はなんだったんだろう……」

 「気にすんなよ。得意分野はそれぞれ違うんだからさ」


 頭脳の差をまじまじと見せつけられて落ち込んでいるオズを励ましながら扉の向こうへと進んだ。

 歳の差もあるからなおさらショックは大きいだろうな、俺だったら立ち直れないと思う。


 そんなこんな壁伝いに迷路を進むとまた新しい扉にたどり着いた。

 さっきとは仕掛けが違う、元来た道に戻ってきたわけではないようだ。


 「おっ、これは……」


 今度はバーを動かしてボールを穴の中に入れるやつだ。

 こういう手先を使う作業は俺の得意分野だ。


 「アンタ意外とこういうの上手いのね」

 「そりゃあこっちの世界ではこんな感じの仕事やってたからな」


 思ったより難しくて手こずったが、ものの数分でギミックが解除できた。

 仕事で培った技術というのは案外衰えないものだ。


 最後の仕掛けはひたすらに周囲が真っ暗な迷宮の中を進んでいく単純にして難解な仕掛けだ。

 壁伝いに移動していてもちゃんと進めているのかわからない。

 

 「ヤバいぞ」

 「何が?」

 「時間だよ時間、あと五分で時間切れだ」

 「マジで!?」

 

 暗闇の中で時間が迫ってくると必然的に焦りを覚える。

 かなりヤバいぞ。


 「どうしよう?ちゃんと進めてる?」

 「こうも暗いと来た道かどうかもわかんねえんだよなぁ」

 「あーもう!これじゃあらちが明かないわ!」


 痺れを切らしたオズが魔法陣を展開し、何かを取り出した。


 「こうなりゃ奥の手よ、持ち込んだものじゃないからセーフよね」


 ゲームを開始した時点では持っていなかった魔装『原初の光』を召喚魔法で取り寄せるという滅茶苦茶な荒業を使ってオズは周囲を照らし出した。

 確かに言う通りではあるんだけれどそりゃあねえだろう。

 

 「さあ、あと四分だし急ぐわよ!」


 そういうとオズは先陣を切って明るくなった迷路の中を進みだした。

 なんというか、思い切った後の行動力が本当にすげえよなぁ。


 「見えたぞ!あそこが出口だ!」


 すぐ目の前に出口と思わしき光がさしている。

 残り一分、まだ間に合うぞ。


 「もう疲れたー」

 「おんぶしてやるから早く乗れ」


 疲れて動けなくなったミラを背負って俺はオズの後について走った。

 

 「セーフ!」

 

 オズが叫びながら出口まで飛び込んでいった。

 すぐ後ろについていた俺も数秒差で脱出に成功する。

 ミラは俺の背に乗ってるし、これで全員ゲームクリアだ。

 クリア成功の記念品としてこのテーマパークのマスコットキャラの小さなぬいぐるみを三つもらえた。

 意外とかわいい顔をしている、みんなで大事にしよう。


 その後も俺たちは時間を忘れ、気の向くままにいろいろな場所を回った。

 ミラもオズも同様に時間を忘れてはしゃぎまわった。


 「もうこんな時間か」

 

 気が付けば時刻はもう五時を回ろうとしていた。

 そろそろ帰らなければ。


 「今日はどうだった?」

 「楽しかった!」

 「また来たいぐらいね」


 そうか、そう言われると俺も連れてきた甲斐があったってもんだ。

 ミラは身長が伸びたら次こそジェットコースターに乗るんだって意気込んでたし、また来られるといいな。


 ゲート前で当日限りのファストパスを処分し、俺たちは旅行最後の思い出を作った場所を後にした。


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