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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第5章 おじさんたちの日本旅行
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おじさんたちと海 前編

 日本旅行四日目。

 俺たちはとある場所へと訪れていた。


 「海!」

 「ついに来たわね!」


 そう、海だ。

 恐らくミラにとっては初めての体験、オズにとっても珍しい海だ。


 「お前は行ったこととかあるんじゃねえの?」

 「来たことは数えるぐらいしかないし、どれも別の大陸へ渡るためだから遊ぶために来るのは初めてよ」


 そうだったのか。

 じゃあオズにとっても初体験だな。


 「よーし!じゃあ早速海に……」

 「待て待て待て!」


 いきなり海へ入ろうとしたオズたちに慌てて声をかけて制止させた。


 「なによ急に」

 「準備運動をしてないだろう」

 「準備運動?」

 「なにそれ」


 ミラたちは首を傾げた。

 水泳のみならず、運動をする前には準備運動が必要不可欠だ。

 単なるウォーミングアップにのみならず、軽く身体を慣らしておくことで思わぬケガの予防にもなる。

 軽いストレッチを三分ぐらいかけてやるだけでも結構な効果があるから侮れないものだ。


 「本当にこれが効果あるの?」

 「おう。これやるだけでケガしにくくなるぞ」


 よし、準備運動は終わりだ。

 オズたちは大はしゃぎで海まで走っていく。

 俺はビーチにシートとパラソルを突き刺して拠点づくりだ。


 「トモユキは海に入らないの?」

 「俺はここでお前たちのこと見てるだけでいいわ。疲れたり具合が悪くなったらここに来いよ」

 「わかった!」


 シートの上に荷物を移動させ、俺は日陰の下にどっかりと腰を下ろした。

 日陰にいても、サングラスをかけていても、水着のミラたちの姿が目に眩しい。


 ミラは麦わら帽子に青色のワンピースの水着だ。

 白い肌に水色の瞳、銀色の髪は季節外れの雪みたいだ。


 オズは黒いビキニの上に赤いパーカーを羽織っている。

 肌の色はミラとだいたい同じだが赤い髪、赤い瞳、黒の水着はミラと比べると正反対と言っても過言ではない。

 そして身長のわりにデカい胸がパーカーの上からでも目立つ。


 一方で俺の恰好はグラサンに青いアロハシャツ、迷彩柄の海パンだ。

 あの二人と並ぶにはあまりにもつり合いが合わない。

 むしろよく今まで並べていたものだ。


 それにしても平日なのにすごい人の多さだ。

 とは言っても世間は夏休みシーズン、子連れの親や学生たちがたくさんいる。

 俺は社会人になってからこの時期はずっと仕事してたからこんな風景を最後に見たのは学生の頃だったっけか。

 またいろいろと懐かしい思い出が俺の胸の中で燻ってくる。


 「おーい!」


 海の方からミラたちの俺を呼ぶ声が聞こえる。

 声のする方を見てみると確かにミラたちは水に足を浸けていた。


 「水温はどうだ?」

 「ぬるーい!」


 オズの方から返答が来た。

 だろうな。


 「あーっ!一昨日の公園のお姉ちゃん!」

 「げっ!?アンタたちなんでここにいるの!?」


 一昨日の公園の子供たちとオズたちがばったり出くわしていた。

 こんな偶然もあるもんなんだな。


 「お姉ちゃんこの子たち知ってるの?」

 「あー、一昨日公園散歩してたらちょっとね」


 そうか、あの子たちとミラは今日が初対面なのか。


 「そっちの子は誰?」


 子供たちの内の一人の男の子がミラのことをオズに訊ねた。

 見比べてみると子供たちの身長はミラよりも高い。

 ざっと小学四~五年ぐらいといったところか。


 「この子はミラ。年の離れたアタシの妹分」

 「お姉ちゃんの子供じゃないの?」

 「ちょっ!?馬鹿な事言わないでよ!?」


 確かに年の差的には娘だと思われてもあまり不自然ではない。

 実際はかなり複雑な事情があってうちで預かってる娘なんだけどな。


 「俺シンジ!」

 「俺はケンタロウ!」

 「僕リョウタ」

 「私エリカよ!」


 子供たちは次々とミラに自己紹介をした。

 なるほど。


 「ミラ・マーリンっていうの!よろしく!」


 子供たちに自己紹介されたミラは元気よく自己紹介を返した。

 いつの時代もちびっこ同士の打ち解けの早さはすごい。


 「そういえばお姉ちゃんはなんて名前なの?」


 リョウタ君がオズに尋ねてきた。

 一昨日は教えていなかったのか。


 「アタシはクラリス・オズ。オズ家第十四代目当主よ!」


 オズはドヤ顔で自己紹介したが子供たちはよくわからない様子で首をかしげている。

 そりゃあそうよ、だってこの世界には魔法使いがいないんだもの。


 「オズだってよ!」

 「オズの魔法使いだ!」

 「すげー!」


 一瞬の困惑の刹那、子供たちは別件で盛り上がり始めた。

 そういえばあったなぁ、そんなタイトルのおとぎ話。


 「ミラちゃんも一緒に遊ぼう?」

 「うん!」


 子供たちからの誘いにミラは快く乗じた。

 こっちの世界でも友達ができたみたいで一安心だ。

 というか今気が付いたんだがミラたちって日本語しゃべってるんだな。

 異世界語を勝手に日本語に翻訳されてるのかと思ってたわ。


 「スイカ割りしようぜ!」

 「スイカ割り?」

 「なにそれ?」


 ケンタロウ君の提案にミラとオズは首を傾げた。


 「お姉ちゃんたちスイカ割り知らねえの?」

 「きっと外国人だからわかんないんだよ」


 確かにミラたち外国人なんだがさらに言うとこっちの世界の人間じゃないからな。

 こっちの文化や遊びはほとんど知らないにも等しいぐらいだ。


 「じゃあ教えてやるよ。棒を使ってこのスイカを割るんだ」


 ケンタロウ君はスイカを取り出し、シートを敷いてその上に置いた。


 「それだけ?」

 「聞いただけだとつまらなそうね」

 「そこで!目隠しをしてみんなの声を頼りにスイカを探して棒を振り下ろすんだ」


 シンジ君がアイマスクを取り出して自分の目を隠してみせた。


 「じゃあ俺が一回やってみるから見てな」


 シンジ君はスイカと距離を取り、目隠しをして棒を構えた。

 ケンタロウ君、リョウタ君、エリカちゃんはミラとオズの手を引いてその場から離れた。


 「シンジ!もっと右!」

 「違う行き過ぎ!」

 「そう!そのまままっすぐ!」


 ケンタロウ君たちが口々にシンジ君に指示を送る。

 そんなシンジ君の足取りをミラたちは真剣に見守っている。

 懐かしい、俺も小さい頃はよくああいう風にスイカ割りやったっけか。


 「そこ!ストップ!」

 「よっしゃ行くぞ!!」


 リョウタ君にストップにかけられ、シンジ君は棒を高く振り上げた。

 ミラたちはその瞬間固唾を飲む。


 「うおおおおお!」


 シンジ君の手によってスイカ目がけて一直線に棒が振り下ろされた。

 棒はスイカの頂点に命中し、不格好にスイカが割れる。


 「おおー!」

 「すごい!すごいわ!」


 ミラたちは惜しみなく拍手を送る。

 どうやら見ていて面白かったみたいだ。


 「ところで割れたそれはそうするの?」

 「それも知らねえのか。これ食べられるんだぜ」

 「本当に?」

 「もちろん」

 

 そういうとケンタロウ君は割れたスイカの一片を手に取り、口へと運んだ。

 割れたスイカを無駄なく処理できるのがスイカ割りのいいところだ。


 「ミラにも一口ちょうだい!」


 ケンタロウ君がおいしそうにスイカを頬張るのを見たミラがケンタロウ君の手にしているスイカに口をつけた。

 そのあまりに大胆な行動にケンタロウ君は思わず後ずさる。


 「うーん……甘くて水っぽくて不思議な食感かも」


 スイカってほとんど水でできてるもんな。

 氷とは違う、肉の付いた水を食べているような感覚だ。


 「どれどれ、アタシにもちょうだい」

 「はい、どうぞ」


 オズにエリカちゃんがスイカの欠片を手渡した。

 迷いなく一番大きいのを選んだ辺り、よくわかった子だ。


 「うわ、めっちゃ水っぽいわこれ」

 「スイカってほとんどが水でできてるんだよ」

 「へぇー、そうなんだ」


 オズの隣でスイカを食べながらエリカちゃんが耳打ちした。

 ミラもシンジ君たちと一緒にスイカを食べている。

 仲良しで何よりだ。


 初めての海。

 二人にはいい思い出が作れそうだ。

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