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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第5章 おじさんたちの日本旅行
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初日の夜

 そんなこんなで俺たちは初日から街へと繰り出し、様々な場所を周った。

 ミラたちはこの世界の文明に逐一驚かされ、ことあるごとに俺に質問攻めを浴びせてきた。

 難しいことは俺にも答えられなかったがそれでも関心を抱いてくれた。


 「いーやーだー!アタシもう電車には乗りたくないのー!」

 「乗らねえと四駅間の距離を徒歩で移動することになるんだぞ!何時間かかるかわからねえんだから乗れ!」


 今、俺とオズは電車の利用を巡って駅前で低レベルな寸劇を繰り広げている。

 どうしても彼女は電車に乗るのが怖いらしく、子供っぽく駄々をこねているのだ。


 「もう日が暮れちゃうよー。乗ろうよー」

 「うっ、うぅ……」


 ミラに催促されてオズの心が揺れかかった。

 攻め落とすなら今しかない。


 「ミラは全然平気みたいだぞ。まさかお前がミラを困らせるなんてことはねえよなぁ?」

 「わ、わかったわよ!乗ればいいんでしょう乗れば!」


 よし、かなり強引な手を使ったがその気にさせることができた。

 切符を買い、改札を抜けて来た時とは反対側のホームに入る。


 『まもなく、電車が参ります』


 ほどなくしてアナウンスが入った。

 もうすぐ電車が来る。


 「大丈夫大丈夫大丈夫……」


 オズはかなり念を押している。

 どうして電車が怖いんだろうか。

 あとで聞いてみよう。


 とりあえず電車に乗り込んだ。

 帰宅が始まる時間帯なのもあって車内は結構込み合っている。

 シートがほとんど空いていなかったのでとりあえずミラだけを座らせて俺とオズはその前で吊り革を握って立っていることにした。


 「お前、どうして電車が怖いんだ?もっとデカいドラゴンとかは全然平気なのに」

 「だって……生物感が全然なくてなんか不気味じゃない?」


 そりゃあ電車は全部機械だからな。

 向こうの世界の乗り物はだいたい動物に牽かせてたし、金属の塊が勝手に動いているという感覚が理解できないのだろうか。


 「ミラはなんとも思わないの?」

 「別に?全然なんとも思ってないよ」

 「えっ」


 ミラはきょとんとした様子でオズを見つめる。

 対するオズは予想外の反応に戸惑っている。


 「子供の方が適応が早いみたいだな」

 「そうみたい」


 オズの肩を軽くたたいて耳打ちし、オズもそれに同意する。

 子供の適応力は本当にすごい。

 俺も歳を重ねた今になって実感したことだ。


 何事もなく四駅を通過し、俺たちは最初の駅まで戻ってきた。

 またオズは魂が抜けかけていたが来た時に比べれば落ち着いている。

 

 「帰ったら日本の文字を覚えるのー!」

 「ミラは賢いからすぐに覚えられるだろうなぁ」

 「本当に!?」

 「本当だとも」


 学習に意気込むミラや魂を取り戻しつつあるオズと共に俺たちはアパートへと戻ってきた。


 「あっ、やべぇ」

 「どうしたの?」

 「晩飯の用意ができてねえや」


 すっかり忘れていた。

 食べるものがない。


 「どうするの?」

 「今から近所のスーパーで買ってくるわ」

 「スーパー?なにそれ」

 「スーパーマーケットっていういろいろなものを売ってる店があるんだよ。主に食料だけどな」


 うちから徒歩で無理なく行ける範囲にはスーパーがある。

 自炊ができなかったこれまでは惣菜や弁当を買うぐらいしかしなかったが今なら話は別だ。


 「でもこんな時間にやってるの?」

 「大丈夫だ、この世界の店はだいたい夜遅くまでやってるからな」


 向こうの世界ならもう閉まっているだろう時間帯でもこっちの世界なら問題なく営業している。

 文明が進んでいるこちらの世界ならではの利点だ。


 「んじゃ、ちょっくら行ってくるから待っててくれよ」

 「はーい!」

 「早めに帰ってきなさいね」


 二人に見送られて俺はすぐにアパートを飛び出した。


 ――――――――


 「あー、遅くなった」


 タイムセールでいい感じに食材が安くなってたから買い込んでたら思いの外時間がかかっちまった。

 オズたち怒ってるかなぁ……


 「ただいまー」

 「遅ーい!」

 

 帰ってきて早々にミラに怒られてしまった。


 「悪い悪い、今から飯作るから待ってろ」

 「アタシも手伝うわ」


 買ってきた食材を床に置き、俺とオズは長らく使っていなかった台所へと並び立った。


 料理をローテーブルに並べ、ソファーに腰を下ろして少し遅い夕食を食べながら俺はこの世界の事情について語った。

 いろいろと反応はあったがその中でも一番驚かれたことは……


 「ええーっ!!この世界に魔法使いはいないの!?」


 こっちの世界に魔法使いがいないという事実だ。

 ミラとオズは思わず大きな声を上げるほどに驚いていた。

 自分たちの存在がイレギュラーだとは微塵も思っていなかったようだ。


 「ああ、さらに言えば獣人もいない」

 「嘘ー!?」

 「じゃあ一般人しかいないの?」

 「そういうことになるな」

 「っていうことは」

 「この世界に魔法使いはアタシたちだけ……」

 「どうしようお姉ちゃん。ミラたち特別な人間だよ」

 「ウヘヘ……特別っていいわねぇ」


 ミラとオズは顔を合わせてニヤニヤしている。

 あっちでは特別珍しくはない魔法使いがこっちにはこの二人しかいないとなれば嬉しくもなるだろうか。

 なんだか俺が蚊帳の外にされている気がしなくもない。


 「さて、そろそろ夜の暇つぶしでもするか」


 俺はおもむろにテレビのリモコンを取り、電源を付けた。


 「板の中で人が動いてる!!」

 「どうなってんのこれ!?」


 テレビの映像にミラたちの目は釘付けになった。

 テレビの液晶画面とその裏側を交互に覗いては目をぱちくりさせている。


 「まあまあ、テレビ見ようぜ」


 俺はミラたちをソファーまでに呼び寄せて座らせた。

 テレビでは俳優たちが芝居を演じている。

 所謂ドラマって奴だ。


 「てれびの中の人たちは何をしてるの?」

 「お芝居をやってるんだ」


 ミラに尋ねられて俺は適当に答えた。

 慣れない単語を舌足らずに使っているのがなんともかわいらしい。


 「へぇ、芝居ねぇ」

 「テレビを通じてこの芝居は今日本中で流れてる」

 「マジ?」

 「あぁ、大マジだ」


 ドラマを見ながら俺たちは会話を弾ませた。

 そんなこんなでいよいよドラマもいよいよクライマックスが近づいている。

 大勢に囲まれた主人公が大立ち回りを演じる殺陣シーンが始まった。


 「行けっ!いいわ!そこよ!」

 「がんばれー!」

 

 オズたちはドラマにすっかり夢中になっている。

 なんだかんだで熱中しているようだ。


 そして数分後。


 「すごく面白かった!」

 「早く続きが見たいわ!」


 かなりハマったらしい。

 機械に対してなにかと否定的なオズにも受け入れられているあたり、娯楽の力はすごいな。


 「じゃあまた来週のこの時間まで待つんだな」

 「来週ってことは……」

 「七日後だな」


 一週間の長さはあっちは六日でこっちは七日。

 こういうところでも差が生じている。

 時差ボケとかしてしまわないか心配だ。


 風呂に入り、掛布団を取り出した。

 生憎なことにも以前は一人暮らしだったし、敷布団なんて持っていなかったからまともに寝られるのは一人だけだ。


 「ミラはソファーの上で寝ろ。俺たちは床で寝るから」

 「トモユキたちが床で寝るならミラも床で寝るよ」

 「床で寝ると身体を痛めるぞ」


 経験者の俺が語るのだから間違いない。

 子供は床で雑魚寝なんてするもんじゃない。


 「そうそう、痛い思いするのはアタシたちだけでいいから」


 俺とオズに説得され、ミラはソファーの上で布団にくるまった。


 「じゃあ、おやすみ」

 「「おやすみ」」


 ミラにおやすみの挨拶をして部屋の電気を消した。

 俺とオズは床に雑魚寝だ。


 「悪いなぁ、お前も床で寝させることになっちまって」

 「別にいいわよ。アンタと一緒なら」


 絨毯の敷かれた床の上に寝そべりながら俺とオズはやり取りを交わした。

 以前だったらオズはすさまじい猛抗議をしてきたことだろう。


 「甘くなったなぁ、『お前も』」

 「ふふっ、お互い様ってことね」


 俺はいつの間にかオズに甘くなっていたがオズもいつの間にか俺に甘くなっていたらしい。

 これが夫婦って奴だろうか。


 こうして日本旅行一日目は幕を下ろした。


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