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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第5章 おじさんたちの日本旅行
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初めてのファミレス

 日本旅行初日の昼時。

 俺たちはある場所へとやってきていた。


 「やたらカラフルな看板ね」

 「ここって何のお店?」

 「ここはファミレスっていう店でな、所謂飲食店だ」


 そう、ファミレスにやってきている。

 ここは安い上にそこそこの量を食べられる。

 休日の昼時はかなり混んでいるが幸いなことにも今日は平日なので客足は思ったよりも少ない。

 順番待ちをすることもなくあっさりと席に案内してもらえた。


 「ここって何が食べられるの?」

 「そこにメニューが置いてあるから見てみるといい」


 俺はそう言いながらメニューを取り出してテーブルの真ん中に広げた。

 クロは荷物の中に押し込めて周囲にばれないようにしている。


 「読めないよ」

 「いろいろあるのはわかるんだけどなんて書いてあるかわからないわ」


 そうだった。

 ミラたちはまだこの世界の文字が読めないんだった。

 それなら……


 「じゃあこれならわかるか?」


 俺はメニューを数ページめくって写真が付いているページを開いた。

 これなら文字が読めなくてもだいたいわかってもらえるはずだ。


 「この図の下に書いてあるのが料理の名前?」

 「そういうことだ」


 よかった、どうやら理解してくれたみたいだ。

 二人はじっとメニューの写真を眺めながら食べたいものを考えている。

 さて俺は何を頼もうか。


 「ミラはこれがいい!」

 「アタシはこれが食べたいかな」


 二人はそれぞれ別のものを指さした。

 ミラはハンバーグ、オズはドリアだ。

 どちらもこの店の人気メニュー、写真が大々的に掲載されているし目を引いたのだろう。


 「あっ、あとワインもお願い」


 なぜオズは文字が読めないにも関わらず写真だけでこれがワインだと見抜けたんだろうか。

 恐るべき酒好きの直感。


 っていうか昼から飲むつもりかコイツは。

 まあ、観光中だし今は別にいいか。


 俺は呼び鈴を鳴らした。

 僅か数秒後に近くにいた店員さんが俺たちのいる席に注文を伺いにやって来る。


 「お待たせいたしましたー。ご注文をお伺いします」


 店員さんは営業感たっぷりの笑顔と共に俺たちに尋ねてきた。

 そういえば俺があっちの世界に行った初日もこんな風に注文を聞かれたっけ。


 「ハンバーグとドリア、ピザを一つ。あとワインを一つで」

 「アンタは飲まないの?」

 「いいんだよ俺は」

 「えー……」


 オズがちょっと残念そうに俺の方を見てきた。

 こいつ……いつの間に上目遣いのやり方なんて覚えたんだ……


 「……やっぱりワイン二つで」

 「かしこまりました」


 オーダーを受けた店員さんは厨房の方へと消えていった。

 オズは俺を見ながらニヤニヤと笑っている。

 この世に自分の妻に上目遣いをされて耐えられる男がいるだろうか、いやいない。


 「アンタ……すっかり甘くなったわねぇ」

 「どうやらそうみてえだな」


 俺は知らず知らずのうちに随分とオズに甘くなっていたようだ。

 最初はかなり厳しく接していたはずなんだけどなぁ。


 「トモユキとお姉ちゃんはいつから仲良しになったの?」


 ミラに聞かれて俺とオズは顔を見合わせた。

 いつからこういう関係になったんだっけか。


 「えっと……いつからだっけ?」

 「いつからだろう、去年の冬前ぐらいから?」


 俺も覚えていないし、オズも覚えていない。

 でも関係がよくなって何も困ることはないからそれでいいか。



 「よぉよぉ店員さんよぉ!ちょっといいかなぁ?」


 少し離れた席から若い男のわざとらしい大きな声が響いてきた。


 「なんか聞こえたけど何かしら?」

 「たぶん『クレーマー』って奴だな」

 「くれーまー?」


 初めて聞く言葉にミラとオズの二人は首を傾げた。


 「ことあるごとに文句をつけてくる輩のことをまとめてそう呼ぶんだ。中にはまともな理由で文句をいう奴もいるんだがだいたいは理不尽に文句をつけてくる迷惑な奴だ」

 「へぇー、アレはどっちなのかしらねぇ」

 「ちょっと聞けばわかるさ」


 俺たちはこっそりと事の様子を覗き続けることにした。


 「この料理にさー、髪の毛が入ってたんだけど厨房の衛生管理どうなってるわけぇ?」


 男は文句を並べ始めた。

 なるほど、料理に髪の毛が混じっていたらしい。


 「そんなことで文句つけてくるの?」

 「この世界はやたら衛生に厳しいからな」


 あっちの世界とは事情が違う故にオズたちはそれごときで文句をつけることが信じられないらしい。

 正直なところ俺だって信じられない。


 「申し訳ございません。すぐに作り直します!」


 店員さんは何度も頭を下げている。

 クレームの処理は本当に大変そうだ。


 「なにもそこまでしなくてもいいのに……」


 ミラも同情するようにポツリと呟いている。

 この世界では客の方が立場が上にある以上、こういう対応になるのはやむを得ない。


 「時間ねえしそういうのはやらなくてもいいからさ。返金しろ返金」

 「そ、それは……」

 「聞こえなかったかぁ?へーんーきーん!」


 男はわざとらしく怒鳴り散らした。

 その大声で垂れ流される文句の数々は無関係なはずの俺たちまでも苛立たせる。

 やはりこの手のクレーマーはその場にいるだけで空気を悪くする。

 

 「なんか腹立ってきたわ」

 「奇遇だな、俺もだ」


 オズはかなり苛立っているようだ。

 ミラも不機嫌そうな表情をしている。


 「アイツをここから追い出してもいいわよね」

 「かまわん、やれ。ただしやりすぎるなよ」

 「わかってるって」

 

 待っていましたと言わんばかりにオズは目を光らせた。

 そしてその直後にクレーム男に狙いを定めて指を鳴らす。


 「さっさと返金しろよ!応じねえなら出るとこ出」


 文句を垂れ流していた男の声がピタリと止んだ。

 突然の異変に周囲が徐々にざわめき始める。

 男は自らに起こった異変に気付かずに相変わらず大声でまくしたてているように見える。

 だがどれだけ荒げようとも、発声源を近づけようとも、その声が周囲に届くことはない。


 「お姉ちゃんなにしたの?」

 「ちょっと『沈黙』させてやっただけよ」


 思い出した。

 お小遣いのことでミラにごねられたときにかけてもらった魔法だ。


 自分の声がまったく周囲に届いていないことに気が付いた男は顔を真っ赤にして何かを叫びながら半狂乱になって外へと飛び出していった。

 迷惑なクレーマーが突然店を飛び出していき、他の客たちは歓喜と困惑の入り混じったように多様な反応を見せた。


 「あの……お客様……」


 何か声が聞こえたので振り向くと、そこにはかなり狼狽えた様子の別の店員さんが料理を持って待機していた。

 申し訳ない、野次馬するのに夢中でまったく気づかなかった。


 「こちらハンバーグとドリア、ピザを一つ、ワインが二つになります」


 すっかり忘れていた。

 店員さんを待たせてしまってなんだか申し訳ない。


 「あぁ、すいません。気づかなくて」

 「いえいえ、ごゆっくりどうぞ」


 料理はまだ熱を持っていて温かさを感じる。

 さぁ、昼食にしよう。

 ミラはナイフとフォーク、オズはスプーン、俺はピザカッターを手に取った。


 「おいしい!」

 「いやぁー、いいことをした後の飯は美味いわ!」


 ミラとオズは初めて食べる異世界の料理に目を輝かせている。

 俺も連れてきた甲斐があるってもんだ。


 「アンタのそれ、どういう食器なの?」

 「ピザカッターっていってな。これを切り分けるのに使うんだよ」

 

 俺はピザの切り分けを実演してみせた。

 それを見たミラもオズも感嘆の声を上げる。


 「それ一切れちょうだい!」

 「アタシも」


 六枚に切り分けられたピザをねだられた。

 もちろんOKだ。


 日本での初めての食事、少しばかり外部の邪魔は入ったが受け入れてもらえたようでよかった。

 これで二人の要望はとりあえず叶えたぞ。

 さあ、次は何をしようか。

 


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