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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第5章 おじさんたちの日本旅行
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街へ飛び出して

 俺たちは街を目指して電車に揺られること十数分。

 道中の駅に停車するたびに乗客が少しずつ増えていく。

 ミラは車窓から風景を見ては気になったことを俺に質問してくる。

 案外こちらの世界にはミラの方が早く適応するのかもしれない。


 「…」


 オズの方はというとさっきから完全に固まってしまって何もしゃべらない。

 カルチャーショックを受けるにもほどがあるだろう。


 『まもなく、ノガヤ、ノガヤ』


 アナウンスが車両内に響く。

 いよいよ目的地に到着だ。


 「着いたぞ、オズ」

 「本当!?」


 魂が抜けかけていたオズが一気に息を吹き返した。


 「ミラ、電車から降りるぞ」

 「はーい」


 電車は目的地へと到着した。

 地元では一番の大都市ノガヤ。

 各地の流行が集まる最先端の地だ、見物するにはちょうどいい。


 「初めての電車はどうだった?」

 「すごかった!」

 「超怖かったわ…」


 駅のホームを歩きながら感想を聞いてみた。

 楽しそうに目をキラキラさせるミラとは対照的にオズはしぼんでいる。

 そのまま空気が抜けきって風で飛ばされたりしないか心配だ。


 「オズ、これは残念なお知らせなんだがな」

 「な、何よ」

 「帰りにもう一回乗ることになるぞ」


 心なしかオズが脱色しているように見える。

 初めての異世界の乗り物は彼女にとって悪い意味で刺激が強すぎたらしい。


 「クロは…」


 俺の肩の上に乗せているクロに聞きかけたところでやめた。

 クロは呑気に眠っている。

 眠っている間はクロのことはぬいぐるみとでも言っておけば誤魔化せそうだ。


 「いっぱい人がいるね」


 ミラの言う通り、ノガヤは様々なところから多くの人間が足を運んでくる。

 働きに来る者から観光客まで目的も多種多様だ。


 「なんかアタシたち、やたら見られてない?」


 オズがひっそりと耳打ちしてきた。

 彼女の言う通り、確かに周囲の視線が俺たちに向けられているような気がする。

 原因はすぐに理解できた。

 オズの恰好が浮きまくっているからだ。

 現代のこの世界において、いかにもファンタジー世界から飛び出してきた魔法使いである彼女の出で立ちは目立ちまくる。

 おまけに鮮やかな赤髪に赤い瞳、日本人離れしたルックスも少なからず関係しているはずだ。

 恐らく周囲の人間は彼女のことをコスプレイヤーか何かだと思っているだろう。

 ミラの服装はそこまで浮いていないので外国人の子供ぐらいに見られているかもしれない。


 「あー…事情は帰ったら説明するわ。街を歩くぞ」


 切符を入れて改札を抜け、俺たちは駅の外へと出た。


 「ほぇー…」

 「はぁ…」


 駅の外の光景に圧倒されてミラたちは気の抜けた声を出した。

 駅の外はすさまじい密度の歩行者であふれかえり、車道は無数の自動車が絶え間なく走ったり止まったりを繰り返している。


 「すっごーい…」

 「日本の街ってこんなに人が多いの?ギルドと全然違うわね」


 その直後、オズは嫌そうに口と鼻を覆った。


 「くっさ…鼻が曲がりそう」

 「このニオイは何…?」


 ミラも鼻こそ覆っていないがそれとなく嫌そうな表情をしている。


 「そんなに臭いか?」


 正直なところ、十何年も嗅ぎ続けてきたニオイだし俺は慣れてしまっている。

 一年近く嗅いでいなかったから久々のはちょっとキタけどすぐに元の感覚を取り戻した。


 「どう考えたって普通じゃないでしょ。ここは瘴気にでも覆われてんの?」

 「なんでみんなは平気な顔して歩けるの?」


 そうか、ミラたちは排気ガスの存在を知らないんだったな。

 いきなりここに連れてきたなんて酷なことしたかな?


 「このニオイはな、車から出る『排気ガス』っていうのが主な原因だな」


 ほかにもこのニオイを作る原因はあるけれども主立って挙げるならこれだろう。


 「はいきがす?」


 排気という言葉も知らなければガスの存在も知らないのだろう。


 「そこに車がたくさん走ってるよな」

 「うん」

 「この世界の車はガソリンっていうのを燃やしてその力で動く。んで、そのガソリンは燃やされるとガスになって外へ流れてくんだ」

 「そうだったんだ」

 「そんな仕組みがあったのねぇ」

 「排気ガスっていうのも一台ならそう大した量も出ないんだけどここまで多く車が走ってるとどうしてもな…」

 

 これぐらいにしておこう。

 いつまでも俺が講義をたれるより、もっとノガヤを回る方が有意義なはずだ。


 「二人はどこか行きたいところとかあるか?わかる範囲で連れてってやるよ」

 「本屋さんに行きたいな」

 「アタシは何かおいしいものが食べたい」


 二人とも見事に意見が違う。

 昼まではまだ時間があるし、まずはミラの要望から応えていこう。


 「うわぁー!」

 「ねえ!ここにあるのって全部この世界の本なんだよね!?」

 

 本、本、どこを見ても本。

 初めて見る異世界の書店にミラは大はしゃぎだ。


 「随分と綺麗な内装してんのねぇ」

 「そりゃあこの街で一番デカい書店だからな」


 今俺たちがいるこの店はノガヤにある書店の中でも最大手の店舗だ。

 一階から五階までそれぞれジャンルの違う本がずらりと並んでいる。


 「もっと見よう!早く早く!」


 興奮が冷めないままミラは俺の腕を引っ張ってくる。


 「落ち着けよ。時間ならたくさんあるんだからさ」

 「そうそう、ゆっくり見ていけばきっといいものが見つかるわ」


 文字が読めないミラの代わりに俺が翻訳し、その都度ミラは嬉しそうな顔を見せる。

 その中でも特に彼女が特に興味を示したのが…


 「この本は何?」


 一冊手に取ったそれはマンガだった。

 剣と鎧を装備した少年と魔法使いっぽい少女が表紙に描かれている。


 「それはマンガって言ってな。絵と一緒に物語を読む本だ」

 「絵本とは何が違うの?」


 何気ない疑問をぶつけられたが説明が難しい。

 確かに絵本とマンガの違いってどう説明したらいいんだろう。

 明らかに違うということはわかるんだがそれを言葉で説明するのが難しい。

 俺はミラの手にしたマンガを開いて少しページをめくってみた。

 …そうだ!


 「例えばこれ、マンガには吹き出しっていうのが付いてるんだけどな。この中に書いてある文字が誰かの言葉だってわかるようになってるんだ」

 「どうすればわかるの?」

 「よく見てみろ、この吹き出しはこの男の子の方から伸びてるだろ?」


 俺はとある一コマを指さしながらミラに説明した。


 「本当だ!」


 吹き出しの意味を理解したミラは感嘆の声を上げた。


 「ミラにも読めるかな?」

 「読める読める。そのために文字も一緒に覚えないとな」

 「うん!」


 俺はミラにマンガを数冊買い与えることにした。

 ミラが他にも興味を示していた歴史の本や文字を覚えるための教本も一緒に購入する。

 知識を得ることに貪欲なその姿勢は流石レオナルドさんの子だ。。


 「えっへへー」


 たくさんの本を購入してミラはすっかりご満悦だ。

 しばらくは家にいる間は読書漬けになりそうだ。


 さて、そろそろいい時間になったし、次はオズの要望に応えるか。



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