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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
最終章 ミラの進む道
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ミラが決めたこと

今回はタカノ視点の話です。

 「私、やっぱり世界を旅したい」


 その日の夜、夕食の時間にミラは俺たちに堂々とそう言い放った。

 この前までのいろいろと抱え込んでいた迷いをすべて捨て去った目をしている。

 

 『あの子は吹っ切れたらすぐに答えを出してくるから』


 この前のオズの言葉が脳裏を過った。

 そうか、もうこの子は迷いを捨てたんだな。


 「……そうか」

 

 俺はただそれ以外の言葉が出てこなかった。

 オズも特に何も言わず食い下がるようなことはしない。


 「お姉ちゃん、いなくなっちゃうの?」

 

 誰よりも早く口を開いたのはアリスだった。

 俺たちが毅然と受け入れていた事実に対して彼女は真っ先に食いついた。


 「そういうことになるね。旅に出たらお姉ちゃんはここからいなくなるよ」

 「そんなの嫌だ!」


 アリスは声を荒げてミラに食い下がった。

 彼女は物心つくずっと前からミラに愛情を注がれてきた大のお姉ちゃんっ子だ。

 実の姉のように慕ってきたミラが自分の前からいなくなってしまうことが彼女にとって受け入れがたい事象であることは俺にもよくわかる。


 「ごめんね。でもこれはお姉ちゃんが決めたことだから」


 ミラは動じない。

 昔からこれと決めたことに対しては異常なぐらいに頑固で、てこでも動かないぐらいに意志が固い。

 たとえそれは実の妹のように可愛がっている義理の妹からのワガママを受けたとしても揺らぐことはない。


 「嫌だ嫌だ!お姉ちゃんと離れたくない!」


 アリスは感情のままに癇癪を起こす。

 俺もオズに覚悟を促されていなかったら一緒になって癇癪を起こしていたのだろうかなどとつい邪推してしまう。

 その切実な思いに胸が締めつけられるように痛んだ。


 「あんまりお姉ちゃんを困らせないでほしいな……それに二度と会えなくなるわけじゃないから」


 ミラは諭すように、それでいてあえてアリスを突き放すようにそう言った。

 そこからは引き留めようとするアリスとそれをあしらおうとするミラの堂々巡りでもう夕食どころじゃなかった。


 

 「なあ、どうしてあの場で言おうと思ったんだ?」


 夕食が終わった後、俺は一人ミラに尋ねた。

 彼女のことだからきっと何か思惑があるはずだ。


 「みんなが一緒にいるのってきっとあそこしかないと思ったから」


 その通りだ。

 ミラの帰りが遅くなりやすくなった今は夕食のときぐらいしか家族がゆっくりと顔を合わせられる時間がない。


 「アリスがああなるのも予想はできてたんじゃないか?」

 「できてたけど。でもずっと内緒にしてる方が可哀そうじゃないかな。いきなり私がいなくなるよりはこっちの方がずっといい」


 ミラの言い分はわかる。

 彼女が家を出ていくと決めた以上、いつかはいなくなる。

 いきなりいなくなるよりはそっちの方が心の準備ができるだけマシだろう。


 「旅に出るならここを出ていくわけだろう?いつぐらいまでここにいるんだ?」

 「学校を卒業するまでかな。それまでにいろいろ準備をしないといけないね」


 『学校を卒業するまで』

 それが彼女が決めた、俺たちと一緒に過ごす時間のタイムリミットだった。


 「……」

 

 俺は何も言えなかった。

 本当は俺も引き留めたい。

 でも彼女の決意に水を差すようなことはしたくなかった。 


 「トモユキも私がいなくなったら寂しい?」

 「寂しいに決まってるだろう。でも大人の俺がわざわざお前を引き留めてもどうにもならないだろう」


 ミラからの逆問に俺は強がるようにそう言った。

 もう後戻りはしない。

 俺もそう言った以上は後腐れなくミラを送り出せるようにしないといけない。



 あと半年とちょっと。

 その間にできる限りのことをしなければ。

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