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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
最終章 ミラの進む道
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夢語らい

今回は三人称視点の話です。

 タカノとアリスが出かけているのと時を同じくして、ミラはクラリスを駆り出してギルドの近隣の国家へと赴いていた。

 薬師を招致するための告知のためである。

 そして今活動に区切りをつけ、二人は休息をとっていた。


 「ねえお姉ちゃん」

 「んー?」


 日陰のベンチに腰を下ろし、ミラはクラリスに声をかけた。

 クラリスはミラの隣に腰を下ろすと気の抜けた返事をよこす。


 「一人で旅をするってどんな感じなのかな」

 

 ミラからの突拍子もない言葉にクラリスはすぐに答えを返せなかった。

 きっと冒険家であった自分であれば答えを知っているであろうと踏んだのかもしれない。

 しかしその見当は少し外れていた。


 「んー……わかんない。アタシ、これでも一人で旅をしたことはないからさ」


 クラリスには一人旅の事はわからなかった。

 彼女は幼いときには両親が、両親亡き後は部下たちが絶えず傍についていたからである。

 

 「そっかぁ」

 「ミラがそういうことを聞くってことはつまり……?」


 クラリスがミラの考えていることを察するのに時間は要しなかった。


 「私ね、旅に出てみたい」


 予想通り、ミラは己の願望を打ち明けた。

 しかしクラリスにはなぜミラがそう考えたのかが理解できなかった。


 「どうして旅に出たいわけ?」

 「きっと、本当に助けが必要な人はそこまで足を運べないから。だから私が自分から足を運んで、手を差し伸べに行きたい」


 それはミラ自身の体験から得た思想であった。

 助けが必要な人だと判断すれば誰にでも手を差し伸べようとする彼女だからこそでもあった。


 「アイツにはもう話したんでしょ?どう言われたのよ」


 ミラが何か相談事をするときは決まってタカノに先に話をもちかけることをクラリスは知っていた。

 今回とて例外ではない。


 「『自分のことは全部自分でなんとかする覚悟がないならやめた方がいい』って」

 「なるほどね」


 クラリスはミラに対して適当な相槌を打つ。

 タカノからの忠告は至極真っ当なものであった。

 

 「アタシもだいたい同じこと思ったなー。ミラがどうしてもそうしたいって言うなら止めはしないけど」


 クラリスはほどほどに圧をかけつつミラに決断を促した。

 彼女はミラが非常に芯の強い子であることを重々に理解している。

 だから迷っている彼女の姿を見るのがなんとももどかしかった。


 「お姉ちゃんはどうやって今の道を選んだの?」

 「決まってるじゃない。アタシがそうしたかったからよ」


 ミラからの問いにクラリスは当然のようにそう答えた。


 「オズ家の当主になったのも、世界を冒険したのも、トモユキと結婚したのも?」

 「そう。全部アタシがそうしたかったから決めたこと。当主になったのは成り行きもあったけどね」


 『自分がそうしたかったから』

 それは我を貫き続ける彼女だからこその答えであった。


 「まあ肩の力抜きながら落ち着いて考えればいいのよ。焦ってもいい答えなんて出せないし」

 「……それもそうだね」


 俯くミラの肩をクラリスは軽く叩いた。

 ミラの思い詰めすぎる悪癖を予防するための彼女なりの気遣いであった。


 「ここでやれることはもうないし、次の場所に行くわよ」


 これ以上話を続けても何も進展は起こらない。

 そう判断したクラリスは話を切り上げ、召喚魔法の魔法陣を開いた。

 ミラはそれについていくようにクラリスの後ろを追従する。


 

 ミラが将来進む道、それはまだ誰にもわからなかった。

 クラリスにも、タカノにも、そしてミラ自身でさえも。

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