みんなの進む道は 前編
今回は三人称視点の話です。
学校にいる間、ミラの心は進路の選択のことでいっぱいであった。
自らの夢を取るか、それとも恩義を取るか。
いずれか一つしか選べず、片方を取ればもう片方は実現できない。
『時間いっぱいまで考えて、自分が望む答えを出せばいい』
ミラの脳裏にタカノの言葉が脳裏を過った。
答えの期限は自分がこの学院を卒業するまで。
それまでに自分が望む答えを出せる自信がなかった。
ふと思い立ったミラは友人たちの元へと向かった。
「ねえイズナ。イズナは将来何をしたい?」
ミラが最初に尋ねたのは彼女にとって初めての友人イズナであった。
彼は中等部に進学し、ミラと同じように今年卒業を間近に控えていた。
「ボクは中等部を卒業したらお父さんの下で経験を積んで霊術師になるんだ」
「どうしてイズナは霊術師になろうと思ったの?」
ミラは率直な疑問をイズナにぶつけた。
今の彼女が求めている答えは『どうやって自分の進路を見出したか』であった。
「霊術師としてお仕事をしてるお父さんのことをすごく尊敬してるし、ボクにもその素質があったから……かな」
父への尊敬、自らが生まれ持った資質。
それがイズナが幼いころから一貫して霊術師を目指す理由であった。
「……それだけ?」
「うん、それだけ。他に難しいことは何も考えてないよ」
「そっか。ありがとう」
質疑応答を終えたミラはただ一言お礼を告げてイズナの前から姿を消した。
そんな様子をイズナは首を傾げながら見送った。
「私のやりたいこと?」
「うん。ユキノは何をしたいの?」
ミラが次に訪ねたのは中等部に入ってからできた友人ユキノの元であった。
彼女はミラと同じく高等部に籍を置いていた。
「うーん……そうだなぁ……」
それを聞いたユキノはすぐにミラの心中を理解した。
しかしユキノはあえてそれをすぐに問い詰めることなく答えを紡ぎだした。
「私はこの世界をめぐって旅をしようと思うの。いつか私みたいに人の心を読み取る力を持った人と出会って、同じ力を持つ人同士で分かりあいたい」
自分と同じ力を持った人間と分かりあうため。
ユキノの将来の目標はただそれ一つに集約されていた。
「ミラちゃん、自分の将来のことで悩んでるんだよね」
「えへへ……やっぱりユキノには隠せないね」
ユキノに心中を見透かされたミラは照れ笑いで誤魔化そうとした。
しかし実際はその通りで彼女は『最善の選択をするためのヒント』を求めていたのであった。
「時間をかけて迷っても、ある時急に新しくやりたいことができたりするかもしれないんじゃないかな。私が旅に出たいって思ったのもかなり最近だし、あまり凝り固まって考えすぎない方がいいと思うな」
ユキノは考えている選択肢とは違う選択が新たに生まれる可能性を示した。
これまで頭の中にはなかった発想が吹き込まれ、ミラの考えに再び揺らぎが生じた。
「もし私の一言で余計に迷っちゃったらごめんね。でも答えは必ずしもミラちゃんが迷ってる二つだけじゃないかもしれないっていうことは頭の片隅にでも置いておいてくれると嬉しいかな」
「……そうかもね」
その一言を最後にミラとユキノはそれぞれ落ち合った。
『幼いころからの憧れ』『自らが生まれ持った素質』『ある時急に芽生えた願望』
友が示した答えはどれもミラにとってしっくりと来るものではなかった。
納得のできる答えを求め、ミラは学校の外へと足を進めるのであった。




