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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第4章 おじさんと魔法戦争
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おじさんと意外な助力

 次の戦いまで残された時間は二日。

 オズは原初の光の起動方法を見つけるべく奮闘している。

 ミラはレオナルドさんと一緒に文献を漁って魔装のさらなる秘密の解明にいそしんでいる。

 

 その一方で俺は特に何も貢献できていない。

 強いて言うなら話し相手になるぐらいのものだ。

 俺にも何か他にできることはないだろうか。

 オズがいろいろしてるのに俺はただ見ているだけって言うのがなんだかもどかしい。


 ……というのをアレンに相談したところ。


 「なぁタカノ、それを実践しようもんならどうなるかわかってものを言ってるんだろうな?」


 アレンから大マジな答えが返ってきた。

 自ずと緊張が走る。


 「この国はあくまで交易によって繁栄している。俺たちクルセイダーは治安維持と国防のために存在し、働いているのであって戦争の増援のために存在しているのではない。よってクルセイダーが戦争に加担することは絶対にあってはならん。たとえどんな理由があろうとな」


 大マジどころかガチすぎる。

 そしてアレンにこんなに強い仕事意識があったとも思わなかった。


 「お前がオズ家の女にどれだけ肩入れしようがそれはお前の自由だ。だが戦争に加担してこの国に火を放り込むようなことだけはするな、いいな?」


 たいそうな忠告を受けた。

 その剣幕に押されて言葉が出ない。


 「まあ、どうしても加担したいっていうなら手がないわけでもないけどな」


 忠告をした直後にアレンは独り言のようにボソッと口走った。


 「それは本当か?」

 「今まで俺がお前に嘘をついたことがあったか?」


 質問に質問を返された。

 確かにアレンは俺に嘘をついたことはない。


 「わざと謹慎処分を受けろ、謹慎中なら規律の管轄外で行動を起こすことができる」

 「その処分はどうすれば受けられるんだ」

 「俺が適当に手を回してやる、お前が望むならな」


 アレンは俺に決断を迫った。

 謹慎程度で済むなら安いものだ。


 「手を回してくれ」

 「そういうと思ってたぞ」


 その日の夕方、俺はグレイさんに同伴してもらってギルドマスターの爺さんと顔を合わせることになった。


 「タカノ君、過剰防衛を働いたというのは本当かな?」


 ギルドマスターから身に覚えのない尋問を受けた。

 きっとアレンが手をまわしてくれたのだろう。


 「はい…相違ないです」

 「すまねえマスター。俺の教育不足でこんなことになっちまって」


 グレイさんも茶番に乗じてくれた。

 事情を知らなければ信じ込んでしまいそうな迫真の演技だ。


 「事情はどうあれ、規律違反を働いた君には処罰を課さなければならない」

 「どんな処罰でも受けるつもりでいます」


 茶番とはいえ俺の身を削っていることに変わりはない。

 うまく手が回っているのであれば謹慎になるはずだ。


 「タカノ・トモユキ君。今日を以て君を三十日の出勤停止処分とする」


 仕込まれた虚偽の報告によって俺は出勤停止の処分となった。

 三十日後には仕事に復帰できると考えればむしろありがたいぐらいだ。

 時間は十分に与えられた、感謝しなければならない。


 「用件は以上だ。行きたまえ」


 俺とグレイさんは頭を下げた後、マスターの元を後にした。


 「ありがとうございます。茶番に付き合っていただいて」

 「謹慎中の部下にかける言葉なんてねえよ、さっさとここから去れ」


 グレイさんは冷たい言葉で俺を突き放した。

 だがその表情は決して辛辣なものではない。

 むしろ俺を後押しするような


 「今度、一緒に飲みに行きましょうね」


 そう言い残して俺は一時的にクルセイダーを離脱した。

 グレイさんは何も返事を寄越しては来なかった。


 俺にもできそうなことをずっと考え、ようやく一つの答えが出た。

 オズ派に味方してくれる魔法使いを集めることだ。

 俺自身は直接戦力にはなれないだろうが味方を集めることならできるはずだ。

 

 「ちょっと出かけてくるから。ちゃんとお風呂入ってから寝るんだぞ」

 「はーい」


 いったん帰宅してミラにご飯を食べさせ、一言残して俺は夜のギルドへと繰り出した。

 念のためにもレオナルドさんに様子を見に来てもらうように頼んでおこう。


 夜のギルドは昼間と比べれば商人たちの姿が減るが代わりに仕事帰りの人たちによって酒屋が大きな賑わいを見せるようになる、人探しをするにはうってつけだ。

 俺は魔法使いたちが多くやってくるという店へと足を運ぶことにした。


 「なんだこれ…」


 そこには異様な光景が広がっていた。

 カウンターのある現代のバー風の店内は噂と全く違い、人のいないガラガラな状態だった。

 数人程度の客がまばらにカウンター席に腰を下ろして言葉もなく酒を煽っている。


 そんな中、俺の目にある人物の姿が留まった。


 和服っぽい風変わりな衣服、金色の長髪、そして髪と同じ色の狐の耳と尻尾を持った女性。

 一人で晩酌するその姿は言葉では表しがたい艶やかさを漂わせている。

 彼女が魔法使いだとすれば彼女が何者なのかおおよその目星がつく。


 「隣、いいですか?」

 

 俺は狐の獣人の女性にひと声をかけた。


 「構いませんよ」


 承諾を得て俺は女性の隣に座った。

 なんというか、こう…隣にいるだけで妖しい香りがする。

 不思議な人だ。

 俺はとりあえずカクテルを注文した。

 ほどなくして俺のもとへグラスに注がれたカクテルが送られてくる。


 「あの……イズナ君のお母さんですよね?」


 ストレートに訊ねてみた。

 遠回りなことができない俺はこれぐらいしか接触する方法を知らない。


 「あら、うちの子のことをご存知ですの?」


 予想通りだった。

 やはりこの人はイズナ君のお母さんだ。


 「少し、お話を聞いてもらってもいいですか」

 「どうぞ、静かすぎて退屈していたところですわ」


 お淑やかというか、奥ゆかしいというか、話していて引き込まれる人だ。


 「今、オズ家とエルリック家との間に戦争が起こっているのはご存知ですよね」

 「ええ、噂には聞いております」

 「力を貸していただけませんか。俺、オズ派に味方してくれる魔法使いを探しているんです」

 「身元の分からないお方の頼みごとは聞き入れられませんわ」


 確かにそうかもしれないな。

 まだしていなかったし、ここで自己紹介しておこう。


 「申し遅れました。俺、タカノっていいます」

 「タカノ……初めて耳にする名前ですね」

 「このギルドでクルセイダーやってます。今は謹慎中ですが……」

 「まぁ、クルセイダーのお方でしたの?」


 イズナ君のお母さんは意外そうな表情を見せた。

 クルセイダーの自分が戦争に加担するようなことをしているのが信じられないといったところだろうか。


 「せっかく名乗っていただいたのですし、私も簡単に自己紹介させていただきます」

 「私『タマモ』と申します、方々で裏仕事をしておりますわ」


 タマモってあの日本の大妖怪のアレだよな。

 いかにも狐って感じがする。


 「裏仕事?」


 どんな仕事だろう。


 「実は私、こんな魔法を得意としておりまして」


 そういうとタマモさんは一瞬でその姿を変化させた。

 そして俺の目の前には……


 「おぉ……」


 もう一人の俺がいた。

 俺の姿を完璧に写し取っている。


 「変身魔法……ですか」

 「ご名答。これを使っていろいろとお仕事をしております」


 なるほど、他人に成りすましていろいろと裏で暗躍しているわけか。

 イズナ君が変身魔法を得意としているのも納得できる。


 「それで、オズ家に協力してほしいとのことでしたわね?」

 「はい」


 変身を解いたタマモさんは妖しげに笑みを浮かべた。


 「承りましてよ」

 「本当ですか」

 「ええ、直接戦いに出ることはできませんが私にできる範囲でお力になりましょう」


 タマモさんは驚くほどあっさりと俺の頼みを受け入れてくれた。

 これも何かの運だろう。


 「それに、エルリック家には少々の私怨がありますので…」


 事情を察した。

 この人は協力という名目でエルリック家に対して何か嫌がらせをするつもりだ。


 「では、依頼金のお話をいたしましょうか」

 「え?依頼金?」

 「当然ですわ。私が人に力を貸しますのよ、依頼される分には相応の対価を受け取る権利があるのではなくって?」

 

 あっさりと快諾されたと思ったらそういうことか。

 この人は拝金主義なんだ。


 「十万ルートで手を打ってはくれませんか?」

 「物足りませんわ。もう一声欲しいですの」


 タマモさんはこちらの提案を聞き流すように毛繕いを始めた。

 妙に色っぽいのがなんか腹立つ。


 「では、十五万でどうでしょう」


 それを聞いたタマモさんは毛繕いをやめてこちらに耳を傾けてきた。

 条件に応じる気になったのだろうか。

 貯蓄がまだ残っているとはいえ、その金額は決して安くはない。

 だがオズのためならいくらだって投げ出す覚悟がある。


 「わかりましたわ。それで手を打ちましょう」


 強かな人だ。

 イズナ君も将来はこうなるのだろうか。


 「では、また明日ここで会いましょう。お代はその時に払ってくださいな」

 「今日出せます、少し暇さえいただければ」

 「……はい?」

 「今日払います。一括で」


 タマモさんは一瞬だけ面食らったような表情を見せた。

 からかっていたつもりだったのだろうか。

 今は手段を選んでいられないし時間も惜しい。


 酒屋を後にし、俺はタマモさんを連れて図書館の五階へと戻ってきた。

 当然だが夜も遅いのでミラは眠っている。


 「十五万ルートです。納めてください」


 俺は千ルート札百五十枚をタマモさんに差し出した。


 「確かに、受け取りましたわ」


 驚くほどの速さで札束を数え切ったタマモさんはそう言い残して忽然と姿を消してしまった。

 彼女にとってはお金を受け取った瞬間から仕事が始まるらしい。


 思わぬところで頼りになりそうな助っ人を拾うことができた。

 まだ俺にもできることはあるはずだ。

 我が身を削ってまで乗り掛かった?以上、手は尽くそう。


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