魔装の謎
今回はタカノ視点の話です。
「で、その『魔装』とかいう奴の前に何もできなかったわけか」
「……うん」
まさかこんなにもあっさりオズと再会することになるとは思ってもみなかった。
しかもかつてないほどに意気消沈している。
よほどのことがあったに違いない。
「まず『魔装』とやらについて教えてくれるか?」
とりあえずはそれについて理解しなければ話にもならない。
「魔装はこの世界に三つある強力な魔力を持った武具よ。その内の一つをエルリック家が所有してる」
「三つもあるのか。残りの二つは?」
「一つはアタシたちオズ家が、残る一つはマーリン家が所有してる」
マジか。
世界に三つという割には所有者たちがこの周辺に密集しすぎているような気がしてならない。
「レイジが持ってる魔装にはどんな力があるんだ?」
「エルリック家が持つ『双蛇の盾』は所有者をあらゆる魔法から守るわ。魔力が関わっているのであればどんな攻撃も通じない」
マジかよ、反則もいいところじゃねえか。
じゃあつまりのところ……
「お前だけの力じゃどう頑張っても破れないってことだよなぁ」
「そういうことになるわよねぇ……」
オズは頭を抱えた。
自分の最大の武器である魔法が一切効かないのであれば勝てないのも当然だ。
「でも魔装はお前も持ってるんだろ?それ使えば対抗できるんじゃねえの」
「簡単に言わないでよ、そんなことぐらいはアタシだってわかってるんだから」
「ちなみにお前の持ってる魔装ってどんなの?」
オズは金色の魔法陣を展開すると手元に何かを呼び寄せた。
それはまばゆい輝きを放ち、不思議な色で周囲を照らしている。
「これがアタシの持ってる魔装『原初の光』」
「光……」
まさかの不定形だ。
俺の予想のはるか上を行っていた。
「それにはどんな力があるんだ?」
「わからない」
「えっ」
「わからないのよ」
まさかの答えが返ってきた。
自分の所持する魔装の力を知らないとは。
「マジで言ってる?」
「大マジよ。どんな力があるのか知らないし、聞いたこともない」
俺はオズと一緒になって頭を抱えた。
頼みの綱の魔装の力がわからないのでは確かにどうにもならない。
そして原初の光は相変わらず不思議な輝きを放ち続けている。
「こうなればレオナルドに頼み込んでマーリン家の魔装を……それがダメならいっそのこと強奪して……」
オズがなにやらぶつぶつと危険なことを口走っているような気がする。
それに目が泳いでいる、完全に迷走だ。
「とりあえず落ち着けよ」
「これが落ち着いていられるわけないでしょ!」
逆ギレされてしまった。
我ながら無責任なことを言ってしまったかもしれない。
「なんかすまん……」
「……」
逆ギレして我に返ったのかオズは急に黙り込んでしまった。
「そもそもこんな形のないものをどうやって扱えっていうのよ……まだ剣とか槍とかの方が使い方が見てわかる分マシじゃないの……」
言い分はわからなくもない。
俺だって無形のものを説明なしにいきなり取り扱えと言われても運用方法を理解できる気がしない。
「レオナルドさんに尋ねてみろよ?魔装に関する知識も何かしらはあるだろうし」
「あー……」
なんでこういう時に限って一番頼りになりそうな人のことを忘れているんだろうか。
とりあえずレオナルドさんに話を聞いてみることにしよう。
図書館の三階へと場所を変え、俺たちは事情をレオナルドさんに説明した。
彼の手伝いをしていたのであろうミラもその隣で話を聞いている。
「なるほど。レイジ君は君との戦いで双蛇の盾を使ったのか」
「信じられなかったわよまったく……」
オズは愚痴をこぼした。
対するレオナルドさんの表情はかなり怪訝そうだ。
「すごく厳しい顔をされてますが……」
「えっとね、魔装は本当なら人間同士の戦いでは使っちゃいけないの」
ミラがレオナルドさんの代わりに説明してくれた。
確かに、そんなに強すぎる力を持った武具があれば一人でなんでもできちゃいそうだしな。
「その通り。魔装はもともと人間の脅威たりうる存在に対抗するために大昔の魔法使いたちがつくったものなんだ。決して人間同士の戦争の道具として存在しているのではない」
「そうだったんですか……」
この世界の歴史の一部分に触れた気がする。
人間以外を相手にすることを想定しているならオーバースペックなのも納得だ。
「レオナルド、アタシが持ってる『原初の光』の力について教えて」
オズは驚くほど直球に聞いてきた。
「原初の光は三つの魔装の内、最後につくられたものだね」
「最初につくられたのが『選定の剣』、次につくられたのが『双蛇の盾』だよ」
レオナルドさんとミラが交互に説明してきた。
「それは知ってるわ。どんな力があるのかを聞きたいの」
「それは、私にもわからない」
「えっ」
「えっ」
まさかの言葉に俺たちは唖然とした。
「すまない、私にもわからないことはある」
予想外すぎた。
まさかレオナルドさんにもわからないことがあるなんて。
「ミラ、悪いけど奥の書斎から魔装についての古文書を取ってきてくれるかな。原初の光のことも記されているかもしれない」
「わかった!」
レオナルドさんから依頼を受けてミラは席を外し、小走りで図書館のさらに奥の方へと向かっていった。
「じゃあ、ミラが戻ってくるまで二つの魔装についての説明をするとしよう」
気を取り直したレオナルドさんは再び語り始めた。
「私が持つ『選定の剣』は持ち手を選ぶ魔装。手にすることができるのは我々マーリン家の血を引くもの、そしてその我々が持ち手にふさわしいと認めた者だけなんだ」
「まさに『選ばれた者にしか使えない』魔装なんスねぇ」
レオナルドさんが言う通りならミラもその剣を扱えるんだろうか。
ちょっと見てみたい気もする。
「剣は持ち手の魔力を飛躍的に向上させる。それこそ『双蛇の盾』でも抑え切れないほどにね。そして一度力を発揮すればその戦いでは必ず持ち手に勝利をもたらすとされる」
「マジすか」
オズの魔法を完全に防ぎ切った盾ですら防ぎ切れなくなるのか。
もはやその能力はファンタジーだらけのこの世界でも一際オカルトじみている。
「じゃあさ、手っ取り早くアタシをその剣の持ち手として認めてくれない?」
「それはできない」
レオナルドさんは驚くほどの即答でオズの申し入れを拒否した。
「なんでよ?それなしでどうやって魔装に対抗しろっていうの?」
「気持ちはわかるけれど今のクラリスちゃんを剣の持ち手と認めるわけにはいかない。それに、一度剣に触れたら召喚魔法で気軽に手元に呼び寄せようとするよね?」
オズは引きつった笑みを浮かべた。
自分の考えをすべて言い当てられたといわんばかりの反応だ。
というかそんな物騒なものを気軽に取り出されたらたまったものじゃない。
そしてレオナルドさんは頑なに剣を使わせることを拒んでいる。
魔装の持ち手としての管理責任があるのだろう。
「じゃああの盾の弱点の一つや二つでも教えてよ」
これ以上食い下がっても認めてもらえないと察したのか、オズは盾の方へと話題を切り替えた。
「双蛇の盾は持ち手をあらゆる魔力から守る盾。手にしている限り持ち手の命は永遠になるとも伝えられているね」
「で、何か弱点とかないの?」
「強いて言うなら『盾そのものには攻める力がないこと』と『魔力の絡まない攻撃に対してはただの頑丈な盾ぐらいにしかならないこと』ぐらいだろうね」
「マジっスか……」
「魔装は完璧な武具としても設計されているからね。防具としての双蛇の盾に欠点は存在しない」
大昔の魔法使いたちはなんてものをつくったんだ。
「『こもんじょ』持ってきたよ!」
ミラが大きな書物を抱えて戻ってきた。
足取りが少しよろめいているように見えるが大丈夫だろうか。
「はいっ、お父さん」
「ありがとう」
ミラから古文書を受け取ったレオナルドさんはそれをテーブルのデスクの上にドンと置くとそれを開き始めた。
「うわ……なにこれ……」
オズが気持ち悪いものを見るような目を本に向けた。
書物のページには見たこともないような文字が無数に羅列されている。
俺もこの世界の文字はだいたい読めるがこれについてはまったく解読できない。
「大昔に使われていた文字だからね。幸いなことに五年ほど前にようやく全文が解読されたんだ」
レオナルドさんは古文書をめくりながら嬉々として語る。
研究職の人間にとってはこういうことが楽しいらしい。
「あった……原初の光については……」
とある一ページを見たレオナルドさんはページをめくる手を止めた。
それと同時に俺たちの注目も一斉に高まる。
「『剣と盾。二つの魔装相打つ時あらば、その光、荒ぶる力を鎮める希望と為らん』とあるね」
「どういうこと?」
「文を見る限りでは『魔装を抑えるための力がある』ということじゃないかな」
そうか、それが原初の光の力か。
これで謎が解明されたぞ。
「よし!これであのクソ野郎に後れを取ることはないわね」
オズは再び意気込んだ。
先日よっぽど嫌な思いをさせられたことが感じ取れる。
そして前にもまして口が悪くなっている。
「一つだけ警告しておくよ」
一人テンションの高いオズに対してレオナルドさんが警告を入れた。
「魔装は私たちの常識をも超える強大な存在だ。何を引き起こすかわからないからくれぐれも長時間の使用は厳禁だよ」
「わかってる。短時間でカタをつけてやるわ」
すべての魔装の力が明らかになり、オズもレイジの魔装に対抗する手段を得た。
今のオズならきっと勝てる。
根拠はないがそんな予感がした。




