おじさんとギルド防衛
今回はタカノ視点の話です
オズが戦争をおっぱじめてもう数日が経った。
戦地はギルドから遠く離れているはずなのに時々爆発の音が聞こえてくる。
噂ではオズが周辺地域を全部焦土に変えちまったなんて聞こえたこともあった。
ギルドでは残った商人たちがいつも通りに商いをしている。
だが規模は普段よりもかなり小さい上に、行商人がまったく通らないせいで通りは賑わいもなく、むしろ寂しささえ感じるほどだ。
それどころかギルドマスターによって封鎖令が敷かれ、異国から来る行商人はギルドに入ることすら認められない。
この態勢は戦争が終結するまで維持されることだろう、生活物資の確保が心配だ。
そして、俺たち機動隊をはじめとしてクルセイダーはこの頃かなり重要な仕事を任されている。
それが……
ギルドそのものの防衛だ。
「南方よりゴーレムの接近を確認!機動隊は直ちに防衛に赴けェ!」
高台で見張りをしていたグレイさんから出動要請が入った。
ギルド中に響く大声を聞き、商人たちは一斉に店を畳んで身を隠す。
俺たち機動隊は大盾を手に取り、門を抜けてギルドの南の外壁へと走った。
門を出た俺の視線の先にどこかで見たことがあるようなバカでかいゴーレムが映り込んだ。
覚えがある、冬にオズが錬成魔法で雪から作っていたあのゴーレムと同じ形だ。
きっと魔法使いの制御から外れたんだろう。
「総員、一列横帯配置ィ!」
外壁の頂上へ移ったグレイさんからの号令で俺たちは外壁を覆うように一列に並び、大盾を構えた。
アレンは支給品の大盾に身体が収まりきらないせいか特注のさらに大きな盾を構えている。
はぐれゴーレムがギルドへと迫る。
近づいていくにつれて遠目でもわかるその巨体がますますその大きさを増していく。
「総員、構えェ!」
号令がかかり、俺たちは一斉に身を隠すように姿勢を低くした。
同時に反撃用に各々の武器を構える。
盾を構えてゴーレムの接近に備える。
ゆっくりと歩みを進めるゴーレムがついに俺たちの目前まで迫って来る。
俺たちを認識したゴーレムが拳を振り上げた。
敵を排除するように命令されているからだろうか。
「伏せろ!」
グレイさんからの命令で俺たちは盾を斜めにしてその下に身を隠した。
その矢先、ゴーレムの腕の一撃が機動隊を襲ってきた。
直に受けていないにもかかわらず、すさまじい衝撃が伝ってくる。
「今は耐えろ!ゴーレムが隙を作る瞬間を待て!」
壁の上から指示が飛んでくるが今は自分たちが吹き飛ばされないようにするので精一杯だ。
こういう時、俺にアレンぐらいの怪力があればなぁ。
……アレン?
アレンはどうしてる!?
「ヌオオオオオオ!!」
「すげぇ……」
すげぇ。
それ以外に言葉が出てこない。
アレンは単身でハンマーと大盾を手にゴーレムと格闘戦を繰り広げている。
自分以上の巨体を誇るゴーレムでも相手にアレンは一歩も譲らずに渡り合っていた。
「総員武器を取れ!足元を狙ってアレンを援護するんだッ!」
グレイさんから号令がかかり、機動隊たちが一斉に武器を取ってゴーレムの足元へと突っ込んでいく。
例え一人では微々たるものであろうが相手はゴーレム一体、大人数で囲めばその能力差は覆る。
俺たち機動隊に足元を集中攻撃され、ついにゴーレムは仰向けに倒れ込んだ。
「今だ!アレン!」
「任せろ!」
合図とともにアレンは盾を投げ捨て、ハンマーを振りかぶって大きく飛び上がる。
その形相はさながらどこかの暴れ牛の如くだ。
「ウオラアアアアアッ!!」
気合いの入った掛け声とともにアレンは力任せにハンマーを振り下ろした。
強鎚一閃、直撃を受けたゴーレムの身体は粉々に砕け、身体を形作っていた土塊が周囲一面に飛び散る。
「ふぅ……とりあえずはこれで一件落着ってか」
気の抜けたアレンの一言で機動隊たちの緊張が解れたのか一斉に盾を降ろし始めた。
これでとりあえずはゴーレムの脅威が収まった。
「お疲れ」
「おう、今日は大変だったな」
退勤間際、俺はアレンといつものように与太話をしていた。
「しっかし大変だったよなぁ。お前がいなかったらどうなってたことやら」
「おいおい、よしてくれよ。俺ができることなんてせいぜいああいう力仕事ぐらいなんだからよ」
「でもお前のおかげでギルドの皆が助けられたんだ。もっと誇れよ」
「そう言われると照れくせえな」
アレンは照れくさそうに明後日の方を見ながら頭を掻いた。
「それにしてもオズ家の女、今戦争してるんだろ?」
アレンが新たに話題を切り出した。
「そうだな。おかげで仕事中ミラが一人になっちまう」
「恨んでるか」
「いや、全然」
悪いのはオズに戦争を吹っ掛けてきたエルリック家の野郎だからな。
オズは何も悪くない。
「やっぱり会えないと寂しかったりすんのか?」
「多少はな」
「そうか。まぁお前の彼女だもんな」
アレンははやし立てるように俺の背中を叩いてきた。
お前の力で叩かれると冗談でも骨に響きそうだからやめろ。
「寂しくなったら俺たちに声かけてくれよ。飲み会奢るぜ」
「その時は考えとくわ。じゃあな」
「おう。また明日!」
帰りの挨拶を交わし、俺は帰路へと就いた。
その道はいつもとは全く違うものだ。
この生活、いつまで続くんだろうか。




