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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第4章 おじさんと魔法戦争
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魔法戦争、開戦

 強い日差しが照り付ける夏の十一日。

 エルリック家の当主、レイジに宛てて一通の手紙が送られた。

 差出人はオズ家の当主、クラリスだ。


 『我らオズ家は当家からの要求をすべて拒否し、この書面を以て宣戦布告とする』


 クラリスから送られたこの手紙により、オズ家とエルリック家との間で激しい戦争が幕を開けた。


 二家の戦争の始まりはとても静かだった。

 近現代の機動兵器が存在しないこの世界において戦争の主体となるのは専ら白兵戦となる。

 だが魔法使い同士の戦争となれば話は別だ。

 

 クラリスを将とするオズ家の陣地にはおびただしい数の歩兵が配置されている。

 それもただの歩兵ではない、そのすべてがオズ派の魔法使いたちの錬成魔法によって土から作り出されたゴーレムだ。


 ゴーレムたちは知能を持たず、また自我も持たない。

 ただ陣地に踏み込んだ外敵を排除するだけの人形にも等しい。

 力は強い反面、脆く崩れやすいが土塊さえ残っていれば何度でも錬成しなおすことができる。


 対するレイジを将とするエルリック家の陣地には何も配置されていない。

 一見すれば無防備にも見えるほどだ。


 しかしクラリスはゴーレムたちを動かそうとはしなかった。

 相手は常勝無敗のエルリック家、何も策を講じずにあのようなことをするはずがないと理解していたからだ。

 陣地の中央に胡坐をかいて座り込むクラリスを中心にオズ派の魔法使いたちが集まり、エルリック派の陣地を攻略するための会議が開かれた。


 「クラリス様、相手の陣地には何も存在せずがら空きです。攻め込みますか?」


 魔法使いの一人が真っ先に提案した。


 「待ちなさい。本当にあそこが無防備だと思う?」

 「そうです。あれは我々の兵力を誘き出すための罠に違いない」

 「しかし動かないことにはただこちらが精神を摩耗するだけでは……」


 極限まで緊張感の高まった戦場では睨みあいをするだけでも集中力が必要となる。

 そうなれば何もせずとも体力を消耗していくのだ。

 純粋な力で勝るオズ家であっても消耗戦に持ち込まれては厄介極まりない。


 「ゴーレムを五十体錬成して相手の陣地に突っ込ませなさい。それで様子を見るのよ」


 クラリスは冷静に指示を下した。

 生命を持たず、従順で再生産の容易いゴーレムならば様子見にも適任である。


 「さらに使い魔を数体、陣地の側面に偵察に行かせなさい。絶対に陣地には入れさせないこと」


 時は正午、ついに戦の火蓋が切って落とされようとしていた。


 「これよりゴーレムを先遣隊としたエルリック派陣地への攻撃を開始する!」

 「行け!ゴーレムども!」


 クラリスの号令の下、新たに錬成された五十体のゴーレムが進攻を開始した。

 二メートルはあろうかというゴーレムが群れを成し、大きな足音を立てながら進軍する。


 「……来たか」


 対するレイジは自陣の奥深くからそれを冷静に観測していた。

 それはまるで『クラリスならこうする』とわかりきっていたかのようであった。


 「レイジ様、オズ派率いるゴーレムの群れがこちらの陣地へと侵攻を開始しました」

 「結界を張ってゴーレムを砕いてやれ」


 レイジもまた冷静に指示を出した。

 結界戦術こそがエルリック家のもっとも得意とする戦術である。


 攻撃司令が下されて約数十分後、ついにオズ派のゴーレムがエルリック派の陣地へと足を踏み入れた。


 「……!」


 そして次の瞬間、ゴーレムたちの巨体から足先から粉々に砕け散った。

 自我を持たないゴーレムの群れは全身を続け、足を踏み入れては粉砕されてゆく。


 「ゴーレムたちが次々と破壊されていきます!」


 敵陣の様子を観測していた部下からの報告をクラリスは憮然とした様子で聞き入れる。

 ここまでは予想通りと言わんばかりの反応だ。


 「ゴーレムは何に壊されたの?」

 「恐らく魔法結界に触れたものかと」


 『やっぱり』と言わんばかりにクラリスはにやりと不敵な笑みを浮かべた。


 「ゴーレムを可能な限り再錬成して突っ込ませなさい。結界を無理やり維持させ続けるのよ」

 「その間は我々は何をすればよいのでしょうか」

 「使い魔からの報告を待っていればいいわ、それまで英気を養っておきなさい」


 エルリック家の得意とする結界による防衛戦には一つの大きな弱点がある。

 それは結界を長時間展開するために魔法使いたちが自力で維持させなければならない点だ。

 陣地を丸ごと防御する結界を維持するには複数の魔法使いたちが必要不可欠であり、長時間展開すればそれだけ彼らへの負担も大きくなる。


 クラリスの手によってゴーレムが無尽蔵に再生産され、結界に足を踏み入れてはそのまま壊されていく。

 一見すれば何の意味もない行動のように思えるが、絶え間なくぶつけ続ければその分防衛のために結界を張らなければならない。

 時間稼ぎをしているうちに相手の手の内を探ろうというのがクラリスの作戦だ。


 「クラリス様、陣地側面の様子が掴めました」

 「来たわね。続けなさい」


 目論見通り、エルリック派の手の内を探り出すことに成功したクラリスは部下に報告を続けさせた。


 「陣地の左右両端にゴーレムが多数配置されているのを確認。おそらくその奥にはそれを指揮するエルリック派の魔法使いも存在するかと」

 「面白いわね。受けて立ってやろうじゃないの」


 クラリスは立ち上がり、帽子を深く被った外套を翻した。

 それは自らが前へ出るという意思の表れであった。

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