表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第4章 おじさんと魔法戦争
38/521

オズとの再会、そして……

 馬車に揺られてどれぐらいの時間が経ったのだろう。

 静かに目を開き、ゆっくりと体を起こして外を見るともう日が昇り始めていた。

 床が硬かったせいか背中が少しばかり痛む。


 「お客さん、目を覚ましたかい」


 馬車の騎手のおっちゃんが振り向いて俺に声をかけてきた。


 「ああ、俺はね」


 俺の隣では毛布をはだけさせたミラが涎を垂らして眠っている。

 どうやら熟睡していると涎が出るのは治らないようだ。

 

 「おっと、まだ娘さんが眠ってましたか」

 「いいっスよ、すぐに起こすんで」


 さて、そろそろミラを起こしてやるか。

 眠ったままオズの屋敷に迎えられるのもなんだかアレだし。


 「ミラ、起きろ。もう朝だぞ」

 「んん……?ふあぁ……」


 俺に起こされたミラは身体を起こすと大きな欠伸をした。

 立て続けに寝ぼけ眼を両手でゴシゴシと擦る。

 ミラは朝自力で起きることができない。

 まあそれぐらいならそういう体質の一言で済む話だ。


 「おはよう。よく眠れたか?」

 「うん。お姉ちゃんの家はもうすぐ?」

 「オズ家の屋敷まではもうすぐさ」


 騎手のおっちゃんが口を挟んできた。


 「だってよ」

 「本当!?」


 寝ぼけていたミラの顔が一気に明るくなった。

 俺も屋敷への到着が待ち遠しくて仕方がない。


 「前を見てみな」

 「「おおーっ!」」


 騎手のおっちゃんに促されるままに前を見た俺とミラは歓声を上げた。

 目の前にはもうオズ家の屋敷が見えていた。


 「まもなく到着だ。降りる支度をしな」


 そして数分後、オズの屋敷の門の前で馬車は停止した。


 「おっちゃん、ありがとう!」

 「まったく、レオナルドさんもなかなか人使いが荒いってもんよ」


 おっちゃんは嘆くようにぼそっと呟いた。

 そして馬の踵を返させ、ギルドへと引き返していった。

 俺たちの帰りはオズに頼れば問題ないだろう。


 「お父さんがどうかしたの?」


 ミラが小首を傾げた。

 そうか、ミラは昨日のことを知らないんだっけか。


 「今日ここに来るためにちょっと力を貸してもらったんだよ」

 「何をしてもらったの?」

 「内緒」

 「えー」


 いつもの雰囲気を取り戻したところで俺は屋敷の門の前まで足を運んだ。


 「何者だ。名を名乗れ」


 門番をしていた魔法使いに身元を確認された。

 俺はすぐに懐から勅書を取り出して門番に手渡した。


 「ふむ……なるほど、そちらはマーリン家からの使いだな?」

 「はい、そういうことっス」

 「使いじゃなくてミラは……むぐっ!?」


 慌ててミラの口を塞いだ。

 話がこじれそうだからミラにはできるだけ身分を隠しておいてもらいたい。


 「いやぁ、なんでもないっス。なんでもないっスよ」

 「はぁ……」


 門番もよくわからないものを見るような視線を向けてくる。

 ミラの口を塞いだまま俺は急いで門を通っていった。


 「もうっ!いきなりなにするの!」


 屋敷の中に入り、塞いだ口を放すとすぐにミラが憤った。

 不思議と入り口付近には人がいなくて静かだ。


 「ごめんな。でもお前がマーリン家の人間だっていうことはできるだけ内緒にしてくれないか?」


 憤るミラに俺はできるだけの小声で耳打ちした。


 「どうして?」

 「マーリン家って今まで一度も直接的に戦争に関わったことはないんだろ?」

 「うん」

 「今オズが置かれてる状況はわかるよな」

 「うん」

 「つまりそういうことだ」

 「どういうこと?」


 あれだけで理解しろというのは無理があったか。

 俺の説明不足だった。


 「今のオズ家にマーリン家が関わってるのをエルリック家に知られたらマーリン家も攻撃されるかもしれないだろ?だからできるだけこのことは内緒にするんだよ」

 「あっ、そっか」


 とりあえず理解してもらえたようでよかった。


 「じゃあなんでミラをここに連れてきたの?」

 「だって俺一人でオズに会いに行くって言ったらお前怒るだろ?」

 「もちろん」

 

 即答された。

 そりゃそうだよな、聞くまでもなかった。


 「これはこれは、タカノ様ではありませんか」


 俺に話しかけてくるこの声は……

 この屋敷の中にいるであろう人物の中で俺のことを知っているのはミラとオズ、そして他には一人しかいない。


 「えーっと……」


 ヤバい、名前忘れた。

 誰だっけ。


 「お忘れですかな?バートですよ」


 そうだ、バートさんだ。


 「すみません。名前思い出せなくて……」

 「いいんですよ。初対面で完璧に覚える方が難しいものですから」


 相変わらず紳士的な人だ。

 俺も少しは見習った方がいいな。


 「あっ、バートさん!」


 バートさんの姿を見たミラが喜んで駆け寄っていった。

 彼とも顔見知りだったのか。


 「これはこれはミラお嬢様。大きくなられましたな」

 「えっへへー」

 「近い将来は私も追い越されてしまうかもしれませんなぁ」

 「ミラもバートさんみたいに大きくなれるかな?」

 「なれますとも」


 やり取りが完全にお爺ちゃんと孫娘のそれだ。

 眺めていてなんとも微笑ましい。

 だがいつまでもそんな光景を眺めているわけにもいかない。

 俺は手短に今回の用件を切り出すことにした。


 「あの、俺たちオズに会いに来たんですが」

 「クラリス様は現在お休みになられております。少し時間を置いてからまたお呼びいたしましょう」

 「はぁ、アイツまだ寝てるんですか」


 いつもなら叩き起こしているような時間だ。

 ついいつものように起こしたくなりそうだ。


 「クラリス様は連日の多忙にお疲れになっておられるようです。つい先日も屋敷の廊下をおぼつかない足取りで歩いておりまして……」


 オズ側の事情を全然考慮していなかった。

 というかアイツそんなに動けたのか。

 いつものぐうたらな様子からは想像もできない。


 「そうですか」

 「よろしければ私どもでなにかもてなしをさせていただきましょう」

 

 バートさんたちからのもてなしか。

 いったい何をしてもらえるんだろう。


 「トモユキー、お腹すいたー」


 ミラが俺の服の袖を掴んでアピールしてきた。

 そういえば今朝はまだ何も食べていなかったな。


 「そうですか。ではお食事をご用意いたしましょう」


 そんなこんなで朝食を振舞ってもらえることになった。

 オズ家の食卓を覗ける機会がこんな形で来ようとは。

 なんだが楽しみだ。


 「美味しい!」

 「めちゃくちゃ美味いじゃねえか……」


 オズ家専属の料理人が作る朝食は俺が作るそれとは比較にならないぐらいに美味かった。

 ミラも大喜びだ。

 悔しいが俺が同じ材料から同じものを作っても到底及ばないだろう。


 「ふわぁ……おはよー」


 食堂で朝食を摂らせてもらっているところへずいぶんと聞きなれた声が聞こえてきた。

 間違いない、オズだ。


 「おはようございます、クラリス様」

 「おはよーバート。今日の朝食は……」


 途中まで言いかけたところでオズの動きが固まった。

 理由は恐らく、食堂にいる俺たちに気が付いたからだ。


 「な、ななな、なんでアンタたちがここにいるの!?」


 オズは驚きのあまりに大声で叫んだ。

 声を聞きつけ、屋敷に滞在していた魔法使いたちが次々に食堂に集まってくる。


 俺は一通りの事情をオズに話した。


 「ふーん。そういうことだったのね」

 「……というわけなんだ。いきなり押しかけてきてごめんな」

 「別に。アンタのそういう思い切ったところ、結構好きよ」


 オズは話を聞きながらいつもより少し遅めの朝食を摂っている。

 よく見ると眼の下には隈ができている。

 バートさんの言う通り、本当にここ最近は多忙だったのだろう。


 「お姉ちゃん!勝手にいなくなっちゃってすっごく心配したんだからね」

 「あははっ。ごめんねミラ」


 飛びついてきたミラの後頭部をオズは優しく撫でた。

 それを受けて安心したかのようにミラの身体から力が抜けていく。


 「本当に……本当に心配したんだから……」

 

 オズの手に触れて感情のタガが外れたせいか、ミラはまた泣き出してしまった。

 昨夜のような大泣きではなく、声を押し殺している。


 「よしよし、わかったから泣かないの」


 オズはそんなミラのことを優しく宥め続けた。


 朝食を終え、食堂を離れた俺たちはオズの部屋へとやって来た。

 それこそ俺の家の一室とは比較にならないほどの大部屋だ。


 「それで、今の状況はどうなんだ?」

 「かなり面倒くさいことになったわ」


 オズをして面倒くさいと言わしめるいうことはよっぽどのことがあったのだろう。


 「何があったの?」


 俺が聞くよりも先にミラが疑問を切り出してきた。


 「エルリック派の魔法使いたちが先走ってアタシの部下たちを襲い始めたのよ。もうすでに十三人もやられたわ。」

 「はぁ!?」

 「信じられないでしょ?向こうはアタシが要求に応じないことぐらい予想済みなのよ」


 この前の手紙に書いてあったことと今の状態が思いっきり矛盾してるじゃねえか。

 流石に俺でもわかるぞ。


 「向こうから条件を無視した以上、エルリック家との戦争は避けられないわ」

 「いつから開戦するんだ?」

 「早ければ明日から、遅くても来週のどこかには始まるでしょうね。向こうにも通告済みよ」


 本当に開戦まで文字通り秒読みの状態だった。

 あまりにも時間がない。


 「そんな大変な時に訪ねちまって、俺たち迷惑になってないか?」

 「別に。こっちはすでに準備できてるし、逆にアンタとミラの顔が見れて安心したぐらいよ」

 「そうか。俺もお前が元気そうで安心したわ」

 

 さっきからオズがしきりに時間を気にしているように見える。

 何か予定でもあるのだろうか。


 「時間が気になるのか?」

 「えっ。ああ、実はこの後ちょっと予定がね」


 やっぱりそうだったか。

 これ以上滞在するのはまずいだろうか。


 「ミラ、そろそろ帰ろうか」

 「えー、ミラはもっとお姉ちゃんと一緒にいたいのに……」


 ミラの気持ちは痛いほどわかる。

 俺だってこのままオズと別れるのは惜しい。


 「俺だってこのまま帰りたくないけどオズにはオズの事情があるんだ。わかってくれ」

 「ごめんね。次会った時にはいっぱい遊びましょ」

 「約束してくれる?」

 「もちろん。約束を破ったらアタシの礼装をミラに譲ってあげる」

 

 またずいぶんとたいそうな約束を取り付けたな。

 礼装を譲るって魔法使い的にヤバいんじゃないのか?


 「オズ、寂しくなったら今度はそっちから会いに来いよ」

 「余裕があれば行ってあげる」


 オズは相変わらずの強気さだ。

 逆に安心感を覚える。


 「絶対に死ぬなよ」

 「わかってるって。エルリック家を徹底的にわからせるまでは死んでも死に切れないし」

 「生きてまた俺たちの元に帰ってこいよ。これは俺との約束だ」

 「似たようなこと、前にも約束したじゃない」

 「そうだったか」

 

 そういえばオズが我が家を出ていったときも同じような内容の約束したっけか。

 いろいろありすぎてすっかり頭から抜けてしまっていた。


 「じゃあ、帰るか」

 「アタシが家まで送ってってあげる」


 そういうとオズは俺たちの周囲に魔法陣を展開した。

 気が付けばあっという間に俺たちは我が家の目の前だ。


 「絶対に死んじゃダメだからね」

 「わかってるって。そんなに心配しなくていいから」


 心配するミラに対してオズは普段通りの振る舞いをしてみせた。

 でも俺にはなんとなく彼女の胸中が理解できるような気がする。


 「それじゃ、また会いましょう」


 気丈に振舞うオズに対して俺たちはなんとも言えない気分で見送った。

 オズは再び魔法陣を展開し、そこから発せられた光の中へ姿を消していった。


 「お姉ちゃん、なんかいつもと雰囲気違ったね」


 ミラが静かに呟いた。

 彼女もオズの様子がいつもと違うことに気づいていたようだ。


 オズはいつもと比べてかなり慎重になっているようだった。

 戦争相手のエルリック家はこれまで常勝無敗の強敵、おまけに負ければオズはレイジと結婚させられることになる。

 対するオズ家もこれまで無敗を誇っている。

 実力も最強クラスとはいえ、一筋縄ではいかないことは明白だ。


 「オズはオズで頑張ってんだよ。だから俺たちもできるだけのことをやろう」


 俺のやるべきことは戦禍による被害からギルドを守ることだ。

 明日からは特に忙しくなるだろう。


 「ミラは何をすればいいの?」


 ミラのやるべきことか……

 彼女にも何か具体例を示しておけば少しは安心してくれるだろうか。


 「学校から帰ったら俺が迎えに来るまで図書館でレオナルドさんと一緒にいてくれ。何かあった時にすぐに会いに行けるし、情報も入りやすい」

 「わかった。できるだけそうするね」


 ミラは真剣な表情で小さく頷いた。

 これでオズも少しぐらいは安心してくれるだろうか。


 戦争の始まりは間近だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ