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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第3章 ミラ、学校生活の始まり
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ミラの誕生日

 春の七十七日、我が家のカレンダーはその日に丸印がつけられている。

 

 それが何の日かというと、ミラの誕生日だ。

 重要な記念日が目前に迫って俺は正直焦っていた。

 子供にとって誕生日は間違いなく一大イベント、そんな日に何もしてやれないのはマズいんじゃ……


 それはそれとして、子供の誕生日祝いって何をすればいいんだろう。

 グレイさんたちに聞いてみるか。

 あの二人からまともな意見が聴けるとは正直思っていないが念のために伺っておこう。


 「誕生日をどうやって祝ってもらったかだって?」

 「あぁ、もうすぐミラが誕生日を迎えるからどうやって祝えばいいか参考にしたくてさ」

 「あのガキの誕生日か、次でいくつになるんだ?」

 「七歳だとさ」

 「ほう、七歳か」

 

 退勤間際、ロビーでグレイさんとアレンに訊ねてみた。

 そういえば二人はどんな幼少期を過ごしていたのだろう。

 なんだか気になってきたぞ。


 「んで、誕生日は何をしてもらってたかって話だったな」

 「えぇ」

 「俺たち狼の獣人は常に複数の家族が集まってチーム一体で暮らしてるし、俺は誕生日だからって特別に扱われたことはねぇな。一人を特別扱いするとチームワークが崩れるって考えてたんだろうな」


 グレイさんは思い出すように語った。

 狼の獣人ってそんなに厳格なルールの下で生活してたんだな。

 それならそうなるのも納得できるような気がする。


 「アレンは?」

 「俺たちは厳しいルールの下で生活してたとかそういうのはなかったけど特に何かをしてもらった覚えはないなぁ」

 「お前の場合は『してもらったことがない』じゃなくて『してもらったことを覚えてない』の間違いじゃねえの?」

 「そうかもしれんなぁ。ガッハッハッハ!」


 グレイさんに指摘されてアレンが開き直ったように笑い飛ばした。

 グレイさんは仕方がなかったにしろアレンに至っては最早論外と言っていいレベルで参考にならなかったわ。

 これからこの二人にミラ絡みのことでヘルプ求めるのやめようかな。


 「なんでそんなに誕生日を祝うことに拘るんだ?」


 逆にアレンから指摘を受けてしまった。

 そう言われると返答に困るんだよな。


 「歳を重ねるって子供にとっては大事なことだからさ、俺も何かしらしてやりたいんだよ」

 「何かしら……なぁ」

 「適当に『おめでとう』ぐらい言っとけばいいんじゃね?」


 これは困ったぞ。

 そもそも誕生日をまともに祝われたことがない二人と話し合ったところでいいアイデアが出る気配なんてちっともないに決まっていたのだ。


 「レオナルドに聞いてみるのはどうだ?もともとあのガキの親父はアイツだろ?」


 盲点だった。

 なんで今までそのことを忘れていたんだろう。

 最初からレオナルドさんに聞けばよかったじゃねえか。


 「ちょっと今から図書館行ってくる!」


 俺は大急ぎでその場を後にしてレオナルドさんのいる図書館へと向かった。


 そんなこんなで図書館へと到着した。

 時間が時間だしもう閉館していたかと思ったけどまた建物には明かりが灯っている。

 よかった、これならレオナルドさんと話が出来そうだ。


 図書館の三階。

 いつもの場所にレオナルドさんはいた。


 「やぁ、こんな時間にどうしたのかな?」


 こんな時間に訪ねてきてもレオナルドさんはいつもと変わらない穏やかさで迎えてくれた。

 それにしてもこの人いつも大量の本の山に囲まれてるけどちゃんと寝てるんだろうか。

 別にそんな心配は今することじゃないか。


 「あの、相談したいことがあるんスけど……」

 「ミラの誕生日のことかな?」


 なぜバレたし。


 「どうしてわかったんスか?」

 「実は君が来る前にクラリスちゃんが相談に来てね」


 やっぱり同じことを考えるものなんだな。


 「今までミラの誕生日って何かしてやったりしてましたか?」

 「うん。これは私のしたことではないけれど、誕生日だけは教育浸けだったミラに丸一日の自由を与えてたんだ」

 

 そういえばミラは俺と出会う前はめちゃくちゃに厳しい教育を受けてたんだっけか。

 つまりこれまで誕生日は抑圧から完全に解放される唯一の日だったわけだ。


 「もっとも、それは私ではなく私の妻からの施しなんだけどね」

 「じゃあ、レオナルドさんは何をしてたんスか?」

 「私は毎年ここの文献を漁ってミラが好きそうな伝承を探してはそれを語っていたかな。彼女も楽しみにしていたし、話の展開に一喜一憂して表情が目まぐるしく変わるのが可愛くて可愛くて…」


 レオナルドさんは昔を懐かしむように遠くを見ながら語った。

 なるほど、それが今日のミラの読書好きにつながったのかもしれないな。


 「でも今のミラは私の元にはいないし、私も君たちの元で共に祝うことはできない」

 「どうして……」

 「君が気にするようなことではないよ。魔法使いの事情って奴かな」


 どうやら今年はレオナルドさんはミラの誕生日を祝うことができないみたいだ。

 それは残念だ。


 「じゃあ、貴方の代わりに俺がしてやれることってないですかね?」

 「今はタカノ君の元にいるわけだし、タカノ君の故郷での祝い方をしてあげるのはどうかな」


 日本での誕生日の祝い方か……

 俺にとってはありふれたものでもこの世界では目新しいわけだし、それもいいかもしれないな。


 「クラリスちゃんから聞いたけど君はこの世界の人間ではないそうだね。異世界の文化は私にとってもとても興味深い。よかったら私にも聞かせてくれないかな」


 オズめ、俺のことをしゃべりやがったな。

 レオナルドさんに興味を抱かれたら簡単には帰してくれなさそうだなぁ。

 俺が家に帰れるのはいつになるんだろう。


 「ありがとう。とても面白い話を聞かせてもらったよ」


 気が付けば時刻は午後九時を過ぎている。

 かなりの時間拘束されたな。


 「じゃあ、そろそろ帰らせてもらいます」

 「長く引き留めてしまって悪かったね。ミラのことを頼んだよ」


 よし、プランは決まった。

 日本式のやり方でミラの誕生日を祝うことにしよう。

 喜んでくれるといいなぁ。


 そしてやって来た誕生日当日。

 かなり急ぎ足になったけどこの日のためのサプライズも用意することができた。

 そのせいですっかり帰りが遅くなってしまったが。


 「ただいまー」


 平静を装って帰宅する。

 内心は緊張しすぎて心臓が破裂してしまいそうだけどな。


 「むぅ……遅いよぉ!」


 少し待たせすぎたかな。

 ふくれっ面のミラに怒られてしまった。


 「ちょっとアンタ何考えてんのよ?こんな時間まで仕事してたの?」


 焦り気味にオズが耳打ちしてきた。


 「悪い悪い、ちょっとプレゼントを用意してたら手間取っちまってな」

 「プレゼント?」

 「ああ」


 時が来た。

 俺は見計らったようにテーブルの上にプレゼントの大箱を置いた。

 緊張で滲んだ手汗で滑りそうになった。

 というかもう気が気じゃない。


 「トモユキー。それなぁに?」

 「なんだと思う?」

 「うーん……わかんない」

 「開けて確かめてみろ」


 さぁ、運命の瞬間だ。

 手から汗が止まらない。

 背中からも嫌な汗が出ているような気がしてならない。


 「何これ?」


 箱の中に入っていた白い円形のそれを見てミラは不思議そうに首を傾げた。

 オズも初めて見るであろうそれを興味深く眺めている。

 

 「それはケーキっていってな。俺の住んでた国で食べられてたお菓子だ」


 この世界にケーキという概念がなかったのには今更ながら驚かされた。

 菓子職人に一から注文を付けて作ってもらったから結構な額を取られてしまったがこの日の為なら安いもんだ。


 「ミラに食べてもらいたくて特別に作ってもらったんだ。すごいだろ」

 「本当に!?」

 「ああ、本当だとも」


 初めて見るケーキにミラはすっかり舞い上がっている。

 喜んでもらえたようで何よりだ。


 「お菓子なら早く食べましょうよ」


 ケーキが菓子だと知ったオズが催促してきた。

 気持ちはわからなくもないがこれはお前の為のものじゃない。


 「まあ待てよ」


 俺は手にした小さな蝋燭をケーキの上に突き刺した。

 合計で七本、ミラの年齢と同じ数だ。


 「オズ、この蝋燭に火をつけてくれ」

 「まぁ、それぐらいなら」


 オズが指を鳴らすと蝋燭に一斉に火が灯った。


 「ミラ、この蝋燭の火に息を吹きかけて消せるか?」

 「やってみる!」


 ミラは大きく息を吸い込むと一息で蝋燭の火をすべて消してみせた。

 ハンバーグを冷ますのに何度も息を吹きかけていたあの頃からずいぶんと成長したな。


 「ミラ、誕生日おめでとう!」

 「おめでとう!」


 俺たちはミラに祝福の言葉を贈った。

 その成長に大きな喜びとこれからへの期待を込めて、惜しみない拍手も送った。


 「ありがとう!!」


 祝福に対してミラはとびっきりの笑顔を見せた。

 ああ、この顔を見るためにいろいろやってきたんだ。

 ここまでの苦労がこの一瞬ですべて報われたんじゃないか。

 そんな気さえしてくるぐらいだ。

 むしろレオナルドさんに頼んで正式に俺の養子にしてもらおうかな。


 「じゃあアタシからはこれをあげるわ」


 そういうとオズは少しばかり薄汚れたような一冊の本を取り出した。


 「アタシの使うほとんどの魔法を記した特別なノートよ。世界に一冊しかないミラだけの教科書なんだから。」

 「おぉー!」


 オズ家の当主の魔法があれ一冊に詰め込まれているのならそれだけでもものすごい価値があるに違いない。

 最近あまり晩酌せずにすぐ部屋に戻っていたのはそれを作ってたからだったんだな。


 「ここに書いてあること覚えたらお姉ちゃんみたいなカッコいい魔法を使えるかな?」

 「もちろん」

 「じゃあ召喚魔法も使えるようになれる?」

 「それはミラが大きくなったらその時に教えてあげる」

 「えー」


 召喚魔法だけは教えないんだな。

 自分だけが使えるという優位性はなくしたくないんだろうか、いかにもオズらしい。


 「じゃあケーキ食べるか」

 「うん!」

 「これってどうやって食べるの?」

 「今切り分けるから待ってろ」


 ミラは俺たちをはじめとしたいろんな人から愛されて日々成長を続けている。

 これからも彼女の成長を保護者として見守っていきたい。

 そう願うばかりだ。



突然ではありますが第3章はここで完結です。

次回から新章へと入るのでどうぞお楽しみに!

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